第56話
「あ、貴方はジョーン、様?」
「僕の名前を覚えていてくれたんだ! 嬉しいな」
「私に何の用ですか?」
向き直って話を聞く。
彼は屈託のない笑みを浮かべている。
「僕、ほらっ、この容姿だから断られた事がなかったんだ。僕の誘いを断った君の事が気になって、気になって」
「あぁ、そうでしたか。私は誰とも仲良くなりたいと思っていないので全ての人のお誘いを断っているだけです。では……」
「ねぇ、ちょっと、ちょっと待って?」
「何ですか?」
「君って優秀な魔法使いなんだろう?」
「?」
「なんで認識阻害を掛けて街を歩いているの?」
私はその指摘に怖くなった。
確かにそうだ。
認識阻害をしているのにも拘わらず彼は私だと認識した上で話し掛けている。
「王都は治安が良いと言っても女性は狙われているからよ。使えるものは使って用心することに越したことはないわ」
「確かにそうだよね。上手に魔法が掛かっているよ! でも右足の方が若干ムラできている」
「!!」
驚いて右足に視線を向けた私。普段魔力を唱えるだけで可視化することはないのでぼんやりとしか分からない。
「目だよ。目に魔力を溜めて見てごらん」
私はジョーンの言ったことをそのまま実行する。目に自分の魔力を移動させ、足元を見る。
すると魔力の流れが右足の方だけ薄く流れが蛇行している、かもしれない。
「本当だわ。凄い! 何故ジョーンはすぐに分かったの?」
「んー長年の勘? 魔法を使う人は多いけど、みんなは僕が指摘してもすぐに実行できない。君は将来優秀な魔法使いになると思うよ?」
「それは、ありがとう」
「面白いなあ。ねえ、僕がもっと魔法のことを教えようか? 暇なんだよね」
「ジョーンは私の魔法を見破る力があるのに王宮の魔法使いじゃないの? 王宮で見たことが無いわ」
「……ああ。昔ちょっと居たことがあるよ。王宮の魔法使いって退屈なんだよね。
僕、優秀だったからさ、長く王宮にいたんだけど、命令ばかりでつまらなくて辞めたんだよね。
辞めた理由が借金しただとか、違法賭博をしただとか言われているけど、あれ、嘘だよ。王家にも面子ってあるからね。まぁ、僕を悪くいうのは仕方がない」
どうやらジョーンは昔王宮で働いていたらしい。包み隠さず喋る様子から何か怖さを感じてしまう。
昔というには随分若く見える。
「さっきそこの宿から出てきたよね。君の名前は?」
「……ユリアです」
そこまで見ていたのね。
遅いかもしれないけれどエメ達に何かあってはいけない。一気に緊張し、慎重になる私。
「ユリアっていう名前なんだ。良い名前だね。で、今学院は休みなんだよね? 丁度いい。このまま魔獣を狩りに行こうか。学院が始まる頃には戻るし、大丈夫だよ」
「え、今からですか!?」
「そうだよ。僕が面白い所に連れて行ってあげるよ。君ももっと魔法が上達したいだろう?」
「え……?」
ジョーンは私の手を取った瞬間、どこかへ転移した。
ジャンニーノ先生の転移は見たことがあるけれど、それとはかなり違う。
「どう? 驚いた?」
ジョーンは笑顔で聞いてきた。
「えぇ。詠唱せずに突然転移するなんて見たことがなかったから」
「驚いてくれて良かったよ!」
「ところで、ここは何処なのですか? ……!!」
説明を求めようとして眼前に現れた魔獣に驚愕する。
だって、目の前に現れた景色はリザードマンで埋め尽くされていたのだ。
数千、数万はいるだろうか。まだこちらには気づいていない。
私が住んでいた場所の付近では到底ないわ。
「ここはゼッシュ国のディフィル山の中腹辺りかな。依頼があったんだ。ここなら君ものびのびと魔法を使えるだろう?」
「依頼? 私には関係ないわ!?」
「まぁ、そうも言っていられないんじゃ? ほら、ユリアが大声を出すからリザードマンが気づいちゃったよ」
私が反論しようにもリザードマンが私達めがけて襲い掛かってきた。
……仕方がない。
攻撃魔法で近づいてくるリザードマンを倒す。
「そうそう! 手を抜いていたら死んじゃうからね」
ジョーンは笑顔で話しながら同じように敵を倒していく。
あぁ、夢見の感覚を思い出すわ。
帯剣していた剣で斬りつけたり、魔法でどんどん倒していく。
夢のように大きな魔法を撃ち続けていると魔力がすぐ底を尽くわ。
私は出来るだけ魔力の消費を抑えながら戦うことにした。
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