第55話

 はぁ、ようやく学院は再開されたわ。来年度のクラス分けのテストが終わり次第短い休暇に入る。家に帰る必要性を感じていないのよね。


 残念ながら休暇中は学生用の食堂も休みになる。寮はもちろんそのまま住んでいて構わないの。


「ユリア様、本日のテスト、頑張りましょうね!」

「えぇ、リーズも一生懸命頑張ったんだから次はきっとSよね!」


 次はBクラスでもいいかもしれない、なんて思いながらフンフンと鼻歌が出てしまいそうになるのを抑えてテストに取り組む。


 もちろん間違う所を間違い、空白もしっかりと入れて号令と共に提出する。


 そうそう、Sクラスのメンバーのうち殿下やヴェーラ、クラーラ嬢は王宮で試験を受けたって聞いたわ。


 残念なことにコリーン嬢のことは分からない。

 禁術を途中で強制終了させてしまったからその反動が出ているのかもしれない。


 殿下の婚約者が狙われている、やはり学院の生徒達からチラホラと話が持ち上がっているわ。


 それはそうよね。

 そして今回、王宮から最重要人物の名前が公表されたわ。ジョンソン・リィツィードという人。前の生でも私の記憶には名前しか残っていない。


 十年前に王宮魔法使いとして働いていたみたい。どんな人なのかしら?


 時を戻る前は魔法使い筆頭だったけれど、いつも隣国に出向いていて会った事はなかったわ。



 そう考えている間に休暇に入った。


 今回は短い休暇なのでいつもの休みのような過ごし方をしているの。


 治療院に行ってお手伝いをしてエメの家で弟達と遊んだり、ギルドでお小遣い稼ぎをする。お茶会や舞踏会に参加しないって本当に楽だわ。


「先生、おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「ユナ、体調はどうだ?」

「今日も元気一杯です!」

「そうか、良かった。今日も宜しく」


 今日もパロン先生の元でお手伝い。今日もシャツとズボンに帯剣しラフな格好をしている私。最近の王都付近は魔獣の出現は少なくて平和なようだ。


 私は数人ほど軽い怪我人を治療した後、自由時間になってしまった。怪我人がいないのは素晴らしい。けれど、暇だわ。どうせ暇ならパロン先生に言って午後からエメの家に行く事にしたの。


 今日は弟達と遊ぼうと思っているわ!


「エメ! 来たわ」

「お嬢様、お帰りなさい」

「マロンとレナは?」

「ふふっ。今部屋で本を読んでいるはずです。おやつを持って行って下さい」

「分かったわ!」


 私はフルーツを持って弟達の部屋に入った。


「ユリアお姉ちゃん、お帰りなさい!」

「ただいま! 二人ともいい子にしていた?」


 二人は本を机に置いて駆け寄ってきた。可愛い弟と妹。血の繋がった弟達とは大違い。


「随分と難しい本を読んでいるのね?」

「うん! 僕は将来この宿を継ぐけど、父さんみたいに旅をしてから戻って来たいんだ。それまでに色んな国の言葉を勉強したいと思って」

「マロンっ。なんて素敵なの! お姉ちゃんは感動しているわ。レナも難しい本を読んでいるわよね?」

「うん。私もお姉ちゃんに付いて旅に出てみたいの。お父さんは心配だっていうけどね! お母さんみたいにお姉ちゃんの侍女になりたいわ!」

「なんて可愛い子達。お姉ちゃんは感動しているわ」


 毎回こんなに可愛いことを言ってくれるエメの子供達が可愛いに決まっている。


 血は繋がっていなくても大事な弟と妹よ!


 マロンもレナもグレアムが休みの日に剣の練習をしている。


 グレアムとエメが忙しい時は二人とも家の手伝いもしているの。


 私が来た時は私が二人の遊び相手だったり、教師を務めている。そのおかげか、近所でも優秀な子供だと言われているみたい。


 お姉ちゃん、鼻が高いわ!


 今日も弟達に言葉やマナーを教えた後、私は寮に戻る。


 いつものように認識阻害を掛けて。


「やぁ、君、また会ったね!」


 声を掛けられた私は驚いて振り向いた。

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