第53話
翌日、朝食のために食堂へ向かった。
いつもなら朝から食堂はパンの香りと共に学生で賑わっているはずなのに入り口で多くの生徒がいて混雑している。
どうしたのかしら?
「あ、ユリア様! 昨日は大丈夫でした?」
「リーズ、食堂の前でみんな固まっているけれど、どうかしたの?」
「今日から三日間学校が閉鎖になるみたい。それで食堂も閉まっているの。閉まる原因はやっぱり昨日のことよね?」
「そうかもしれないわね。テスト前なのに困るわ」
仕方がない。
街に出てパンを買うか食堂で食事をするしかない。
三日間ならエメの所に行ってもいいかも!
どうせ勉強なんてしないしね。
「リーズは三日間どうするの?」
「図書室も開いていないから部屋で勉強するわ。ユリア様は?」
「んー一旦寮に戻って家に帰るかどうか考えるわ」
伯爵家ではないけれどね。
あの時、コリーン嬢を拘束したから未遂に終わり、被害はなかったけれど、腕輪はどんな仕掛けがしてあったのかしら?
学院を閉鎖するくらいの何かがあったのかもしれない。
怖いよね。
前の犯人も見つかっていないし、これからどうなるのかしら。
でも、これ以上考えても私はあくまでも部外者。
気にしない!
それよりも必要なことは朝食をどうするか、よね!
私はリーズと別れた後、着替えて街に出かけようとする……が、魔法伝言が飛んできた。
「ユリア様、魔法使い棟へ。昨日の事を詳しく聞きたいのです」
「先生、私はまだ食事をしていないのですが……」
「こちらで準備をしておきますのでそのままこっちに向かってください」
うわーん、泣いてもいいよね?
折角の休みを潰される予感しかしないんだもの!
不満を体現しながら魔法使い棟へ向かうことになった。
「先生、おはようございます」
ジャンニーノ先生の部屋にはブロル総長と書記官が待っていた。
「ユリア・オズボーン伯爵令嬢、おはようございます。少しお話を聞きたくてお呼びしました。申し訳ありませんがお付き合い下さい」
「……ヨランド様にお聞きすればよいのでは?」
「えぇ、もちろん彼には昨日のうちに話を聞いております。もちろんユリア様がこの件に関わっているとは思っていません。あくまで目撃者の一人としての証言です」
「……」
ここにいるのは皆、敵なのか?
先生はパンとお茶を出しているけれどとても食べる気にはならない。
私を巻き込んだヨランド様に恨み言の一つでも言いたい気分になってしまうわ。
私はボスンと令嬢らしからぬ作法で椅子に座った。
「で、何が聞きたいのでしょうか? 私はヨランド様に付いてきて欲しいと言われ、図書室を出て先生に連絡を取りながらクラスへ向かった。そして拘束されているコリーン嬢に睡眠魔法を掛けて眠らせた。それだけですわ」
「コリーン嬢に睡眠魔法を掛けたのは何故ですか?」
「目が血走っていて泡を吹きながら今にも何かしそうだったから、です。本来なら拘束している騎士が行うものでしょうけれど、手一杯の様子でしたので」
「睡眠魔法をどこで知ったのですか?」
「先生に教えて貰いましたわ」
「いつも使っていた?」
「いつもではないです。治療院で錯乱している相手や大怪我をして動きが止められない相手に対して掛けるものだと教わっていますし、数度しか使ったことはありません」
「先生というのはジャンニーノ魔法使い筆頭ですか?」
「いえ、パロン医師です」
「ユリア様はパロン医師の元で働いているのですか?」
「いいえ。何故その質問になるのかわかりませんわ。必要なのですか? 私は魔法の訓練のために治療院に行っています。ジャンニーノ先生の師匠ですし、パロン先生の話を聞くならジャンニーノ先生に聞けば良いのではないでしょうか?」
ブロル総長はふむと納得したのかコリーン嬢の話に切り替わった。
腕輪が何か知っているのかとかね。
私は全く知らないし、ヨランド様を呼びに来た生徒が腕輪の話をしていたから気にしただけ。
そこから三時間くらい何度も同じことを聞かれたわ。
その間、何も口にしていない私。
……疲れた。
ジャンニーノ先生はブロル総長の尋問を止めるわけでもない。
「ユリア様、ご協力ありがとうございました」
「私の容疑は晴れましたか?」
嫌味のように言うと、ブロル総長は少し困った顔をして謝罪してくれたわ。
本当にそう思っているのかしら?
空腹もあってイライラしちゃう。
駄目ね。
いくらイライラしていても人に当たるのは違うわよね。ちょっと反省するわ。
「では私は帰ります」
「ユリア様、送っていきます」
「いえ、結構ですわ。ジャンニーノ先生もお忙しいでしょう? 一人で帰れます。では」
もう疲れていたので早くここから出たい一心ですくっと立ち上がりそのまま部屋を出た。
はぁ、疲れた。
今日はもう何もしたくないわ。
街でパンでも買って寮でゆっくりしよう。
そうしてパン屋でパンを買おうとしていたけれど、今日に限ってパンは売り切れていた。
……そうだ、学院が閉まっているからみんなパン屋に駆け込んだのね。
この、気持ちっっ、いつか晴らしてやるんだから!!
良い香りが漂う食堂に入ってようやく食事を摂った。
……生き返るわ!
スープってこんなに美味しかったかしら!?
すきっ腹に流し込むスープに感動しながら食べ続けた。
「ふぅ、お腹いっぱい!」
満足げにお腹をさすっていると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
「君、面白いね。そんなにお腹が減っていたの?」
「朝から何も食べていなかったからとっても美味しかったわ!」
「僕の名前はジョーン。君の名前は?」
私より一つ、二つ上に見える彼はどこか裕福そうな服を着ていてどこかいいところのお坊ちゃんのような雰囲気さえある。
ここは警戒すべきところではないだろうか?
「何故答えなきゃいけないの?」
「え? 君が可愛いからさ。僕と一緒に遊ばないかい? きっと楽しいと思うよ? ほら、僕、お金持ちだし」
胡散臭い、凄く胡散臭いわ!
私はついつい汚いものを見るように目を向けた。
「……結構よ。お金には困っていないもの他を当たって?」
断られるとは思っていなかったようで彼はとても驚いているようだった。
私はそんな彼を無視するようにお代を払って店を出た。
ジョーンという人は追いかけてくる様子はなかった。
そんなにショックだったのか!?
今日はツイてないわ。学院が始まるまで部屋でジッとしていよう。
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