第51話

 …そうして二年生の目前までSクラスと関わり合うことなく過ごせた。


 殿下をごくたまに見かけることがあっても常に護衛が付いていたし、令嬢達の喧嘩は続いている。


 残念なことにお茶会の犯人も舞踏会の犯人も出てこなかった。

 やはり貴族が犯人を匿っているんじゃないかという専らの噂ね。


 私は変わらず午前の勉強をそこそこにした後、認識阻害をかけて治療院で治療したり、冒険者となって小遣い稼ぎをしたりしているわ。





「ユリア様、次のクラスはSになれるように頑張りましょうね!」


 リーズは気合を入れて勉強に取り組んでいるみたい。


 私はリーズと一緒にテスト勉強をしている。今まではAクラスになるように調整していたけれど、Sクラスでなければどこのクラスでもいいやと思っているのよね。


 邸には残念ながら帰っていない。


 特に父から何も言われないし、放っている。父も心底呆れているのだろう。


 ジャンニーノ先生は、というと手紙を送ればすぐに返ってくるけれど、前ほどゆっくりする時間はないらしい。


 まぁ、王宮の魔法使い筆頭となれば忙しいわよね。


 図書室でのんびり本を読みながらリーズと復習をしていると、いつかのようにヨランド様が声を掛けてきた。


 以前見かけたよりも幾分疲れた顔をしているのは気のせいかしら?


「やぁ、ユリア嬢、リーズ嬢。クラス分けのテストに向けて勉強しているのですか?」

「えぇ。Sクラスに入れるように頑張っているんです」

「そうなんですね。私が教えましょうか?」


 またこのパターンか! って思ってしまったのは仕方がないわよね。


 折角静かに過ごせていたのに。


「あら、ヨランド様。婚約者候補者達に教えてあげた方がよろしいのでは? あちらは喧嘩ばかりしていて成績が落ちているのでしょう?」

「……彼女達は優秀な家庭教師が付いているし大丈夫だろう」

「あら、ヨランド様が中に入って教えれば彼女達も落ち着くのではなくて?」


 三人が喧嘩しているのだから殿下に一番近い側近を取り込もうと必死なはずよね。


 いつもより少し強い口調で言ってみた。するとヨランド様は一層疲れた顔をしたわ。


「ユリア嬢……。分かって言っているよね? あの三人の中に入れって。

 なんて酷なことを言うね。日に日に激化していてそろそろ怪我人が出てもおかしくないんじゃないかって言われているくらいなんだよ?」

「あら、王宮の護衛騎士も付いているのだし大丈夫じゃないですか。ヨランド様の男らしさを見せるところですわ」


 嫌味満載よ。


「殿下は無関心だし……」


 呟くように言葉を漏らすヨランド様。


 そういえばあれから殿下はどうしているのかしら?


 舞踏会の事件以降、休みがちになっていることは耳にしているわ。


 ランドルフ殿下が表に出てこないため一部の貴族から弟を王太子にするべきでは? という話も本格的に出ているらしい。


 王家の血筋はまだ何人かいるし、最悪の場合は王弟のブランド様かその息子のロダン様が次の王になるかもしれない。


「あらあら、軟弱ですのね。側近であれば令嬢達をいなせなければ殿下を守り切れませんわ」

「私もマークも令嬢達の対応は苦手なんだ」

「なら! 婚約者様方に手伝ってもらうのが良いのではないかしら?」


 私はいい案を思いついたとばかりに手を叩いた。確か二人にはあまり仲良さそうに見えなかったけれど、婚約者がいたはずよね……?


 あれ前回の生だけ?

 いないのかしら?


 ヨランド様は渋い顔をしているわ。


 リーズはというと不思議そうにしながらも私達の会話には入らないようにしている。


 さて、この話はこの辺で終わりかしら。


「リーズ、折角だからヨランド様に勉強を教えて貰う?」

「ユリア嬢も一緒に勉強しましょう」

「私は用事がありますから。リーズではまたね」


 前回同様リーズを盾にしてしまった。ごめんね。でも、疲れているヨランド様を見て思った。

 たまにはヨランド様も殿下と離れ息抜きが必要なのかもしれない。



 私はそのまま手を振り、図書室を出ようとした時、Sクラスの一人が図書室に駆け込んできた。


「ヨランド様はいらっしゃいますか!?」

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