第49話
翌日も何事もなかったかのように登校する。
昨日、私とした事が感情をむき出しにしてしまった事に後悔をするけれど、今朝は気持ちを切り替えるように努める。
あれから父に一旦家に戻ってこいと言われたけれど、学院が忙しいで通してしまったわ。
あーぁ。
これから私はどうなるのかしら?
一応荷物を纏めておいたほうが良かったかしら。
午前の勉強が終わり、リーズ嬢と一緒に昼食を楽しんでいると、「午後から時間をいただけますか?」と声を掛けてきた人。
ブロル総長、その人だった。
「いえ、忙しいのですが?」
「そうですよね。ですが、昨日のお話を詳しくお聞きしたいのです。こちらとしても無理に王宮に連れていきたくはないのですよ」
「……はぁ。わかりました。リーズ、五月蠅くしてごめんね。また明日ね」
「ユリア様、また明日」
中庭でリーズとの一時を楽しんでいたのを邪魔されて不機嫌になる私。
何故学院にブロル総長がいるのか?
しかも私を呼ぶなんて。
……やはり犯人にされているのかしら。
逃げれば良かったのか。ブロル総長の表情から読み取れず、どうしようかと考えながら片づけて立ち上がる。
そのまま優しい連行というべきか、ブロル総長と騎士団の馬車に乗り込んだ私。
……そうだ。今日はパロン先生のところに行く予定だ。
「ブロル総長、すみません。魔法伝言を飛ばしてもよいですか?」
「どこへ飛ばすのでしょうか?」
「今日、行く予定だったところに、です。相手にご迷惑が掛かりますから」
「あぁ、それは申し訳ない。構いませんよ」
私はパロン先生に『急遽王宮に呼ばれたので行ってきます。当分返事は返せません』とだけ送っておいた。誰に出したかまでは分からない。
先生にご迷惑が掛かってしまうからね。
そうして馬車は騎士団の詰所前に停まり、私はそのまま詰所に連れていかれた。これから犯人に仕立てあげられるのかしら。
尋問する用の部屋に通された私。やはり魔法が使えないようになっているわ。
「ユリア様、どうぞお掛け下さい」
私は総長に言われるまま椅子に座った。貴族を尋問する部屋なのだろう。平民が座る椅子に比べて少し高級感がある。
「で、私を尋問して何になるんでしょうか?」
「この部屋しか空いていなかったものですから。よく尋問する部屋だと分かりましたね」
「えぇ。私はよく隣に連れてこられましたから」
軽く前の生の出来事を口にする。
「その、ユリア様の時間を戻る前の出来事を詳しく教えていただきたいのです」
「で、私を犯人に仕立て上げるのでしょう?」
「犯人に仕立て上げるだなんてそんな事はしないですよ。陛下からも命令はされておりません」
「……そう。で、何が聞きたいのかしら?」
「ランドルフ殿下との関係ですね」
「もし、私が倒れたらすぐに医者を呼んでくれるの?」
「えぇ、もちろんです」
そこから私は殿下の婚約者になった経緯とどのように過ごしていたのかを話した。
学院に入った頃はお互い名前を呼び合いとても仲が良かったこと、気づけばヴェーラ嬢がいつしか絡んできていつも殿下にべったりと付いていた話や学院の二年生になるころから殿下が私を疎んじるようになったこと、それでも婚約者のままだった話。
卒業した後、ランドルフ殿下に呼び出され、貴族達の前でやってもいない犯罪者にされたことも話をした。
その後、私は一般牢に囚われて殿下の指示で男達に何日も犯された後、王都の中央広場で公開処刑されたことを話した。
途中、震えが酷かった。
何度も吐きそうになりながらも。もちろん自分の言うことが本当かという証明は難しい。
自分とは関係のない事件の話もしておいた。〇日に王都の宝石店前で殺人があった。〇月、〇〇領地から飢饉が発生し、金三百分の米を提供した、など。
ブロル総長と共にいた書記官は一言一句漏らさずに書いていたわ。
婚姻が決まっていたから王家の秘密を知っているということも。内容までは喋らないわ。だってそれこそ死ぬしか無くなるもの。
ブロル総長は顔色を変える事もなく淡々と質問していく感じだった。
「……ブロル総長、もう寮に帰ってもいいでしょうか?」
話を始めて五時間は経ったかしら。ずっと喋りっぱなしで疲れてしまった私。
何度も同じ事を聞かれて、確認される。
人を殺したわけでもないのに!
疲れたわ。本当に犯人に仕立て上げられるのではなかろうか。
「ユリア様、ご協力有難う御座いました。また明日、お話をお聞かせ下さい」
ブロル総長はそう言った後、騎士団の馬車で私を寮に送り届けてくれた。
翌日からの一週間、毎日午後から聞き取り調査と称して尋問部屋へと連れてこられ、話をさせられた私。
「……犯人はあの女に決まっているわ。みんな、私ばかり。何度も同じことを聞く。まるで犯人扱い。これ以上関わりたくないのに」
私はぽつりと呟く。ブロル総長は口を開く事はなかった。
今日も夜遅く寮に送り届けられた。
疲れてベッドに寝っ転がるけれど、食べるものもないし、ふらりと立ち上がった。
……もう、疲れちゃった。
何度も何度も苦しい過去を思い出させ、私に協力しろという。
私が我慢すればそれでいいとさえ思っている人達。
もう、いいや。
学院を卒業しようと思ったけれど、もう、何もかも嫌になった。
私は着替えてからパンを買いに街にふらりと出た。
……馬鹿だな私って。
こんな時間にパン屋は閉まっているわよね。疲れているせいかいつもとは違う行動をしてしまったわ。
フラフラとしながら道を歩いていく私。
ボーッとしながら歩いていた。でも、立ち止まったそこにはいつも通っていた治療院。
あぁ、足は勝手にここへきてしまったのね。夜遅くに治療院の扉を押して部屋に入っていく。急患の患者のためにいつも開けられている扉。
「急患かな? ……ユリア様!?」
「先生……」
私はパロン先生の姿を見てホッとしたせいかそのまま意識を失ってしまったみたい。
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