第46話

 翌日から始まった学校。はぁ、だるい。そんな思いを隠しながら静かに授業を受ける。休みの間、リーズはずっと商会の仕事を手伝っていたらしい。


 王宮のお茶会や舞踏会で騒ぎがあったことを聞いてずっと心配してくれていたようだ。


 私達は午前授業が終わり、昼食を楽しんでいるが、他の貴族達の顔色は悪い様子。


 どうやらアメリア・ハイゼン伯爵令嬢が魔獣になったことがそれとなく広まったようだ。


 あの場にいた取り巻きの令嬢達がしゃべったのだろう。


 自分も魔獣になってしまうのではないかと不安でSクラスに在籍している貴族の数人は休んでいるらしい。


 そして休み時間に時折り私のところへ見解を聞きにくる人もいる。


 ランドルフ殿下は普段通りに登校しているが、側近はピリピリしているらしい。





 そうこうしている間に三ヶ月が過ぎた。


 相変わらず犯人は捕まっていない。


 日ごとに貴族達も落ち着いて魔獣騒動が忘れ去られてきた頃。


 王宮から呼び出し状が送られてきた。


 犯人でも見つかったのかしら?


 あれからジャンニーノ先生とは会っていない。先生は犯人捜しで忙しくしているようだ。


 もちろん私は邸に帰っていないので今、家がどういう状況なのかも分からない。


 なるべくなら王家と関わりたくない。


 後ろ向きな気持ちが心を更に沈ませながらも召喚状を持って王宮へと向かった。


 今回は陛下の執務室ではなく、大臣達が会議をする時に使う部屋へと案内されたわ。


 部屋に入ると既に陛下を始め、宰相、ブロル総長、ジャンニーノ魔法使い筆頭、そして婚約者候補の家である公爵達と父が座っていた。


 礼を執ると、陛下から座りなさいと促された。


「では引き続き会議を」


 宰相が進行役を務めている。


 どうやら私がくる前から話し合いが行われていたようだ。


 顔ぶれを見るからに内容が読めた気がする。


 ……最悪だわ。


 父がいるということは全て了承済みなのでしょう。


「突然の呼び出し、申し訳ない。だが、重要なことであるため理解してほしい」

「……今回、私が呼び出された理由をお聞きしても?」

「もちろんだ。王宮でお茶会を開いた時の襲撃事件、舞踏会でアメリア・ハイゼン伯爵令嬢が魔獣化した事件。どちらも記憶に新しい事件だろう?

 実はまだ犯人が捕まっていない。そしてどちらもランドルフ殿下の前で起こった。

 今後またランドルフ殿下自身に危害が及ぶ事件があるかもしれない。

 ランドルフ殿下の婚約者として護衛に就いて欲しい」


 お願いという名の命令だろう。


 自分の居ない所で勝手に決められ、怒りが沸々と湧き上がるのが分かる。


「婚約者、ですか。私の婚約者は既にジャンニーノ様と決まっておりますが……」


 顔に出さないよう平静に努めて話をする。


「ランドルフ殿下の命には代えられぬのでな。今、学院で殿下をお守り出来るのはユリア嬢しかいないと思っている。

 持病があると聞いているが、犯人が捕まるまで婚約者という立場で側にいてほしいのだ。なに、舞踏会でジャンニーノ殿がエスコートだったらしいが、魔獣の件でみんなも忘れておるし大丈夫だ。

 君とジャンニーノ殿の正式な婚約も許可していない。つまり君にはまだ婚約者がいない状態だ」


「仮初でも婚約者としてランドルフ殿下の側にいる事は候補者の皆様は納得していらっしゃるのですか?」

「次は自分が狙われるんじゃないかと娘は震えているんだ。今回の事は私達も娘たちも賛成している」

「……殿下と婚約者候補を守るために持病持ちの私を盾に使うということですね?」


 ユリアの言葉にみんな一瞬言葉を詰まらせた。それはそうだろう。


 王太子殿下の婚約者という肩書で釣られると思っているのか?


 陛下は理由を知った上で私を盾にしようとしている。


 あぁ、嫌だ嫌だ。


 こんな人達のためになんで自分が一肌脱がなければいけないのかしら。


 それに首謀者はどうせあの女でしょうね。ここに侯爵が出席しているのは陛下が侯爵に話をしていないということ。


 泳がせているのかしら。


「だが、伯爵は喜んで承諾してくれた」


 宰相が言い訳のように口を開いた。


「えぇ、それはそうでしょう。父は、私を駒の一つとしか見ていませんもの。

 先日も申しておりましたわ。

 私は死んでも構わないと。

 親からも皆様からも死んでもいいと言われて、私がやりますと言うとでも思ったのでしょうか? 残念ながら騎士様のような精神は持ち合わせておりませんの。馬鹿馬鹿しいわ」


 私は席を立ち部屋から出ようとする。


 本来なら陛下の前で無礼だ。

 だが、こちらも命が懸かっている。

 自分の命より大事なものは残念ながらないわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る