第14話

 翌日からは普通に授業が待っていた。


 学院の午前中は全科共通の科目の勉強、午後は各科に別れていて騎士科は鍛錬で他の科はクラブ活動をしたり、街へ出たりして各々好きな時間を過ごすことになっている。


 二年生、三年生となっていくうちに科ごとに別れて活動していくのだ。


 魔法使い科は一年生の間は実技がないらしく、出された課題をこなすだけ。暇なのよね。


 やることも無い私はエメ達がいる宿屋に向かうことにした。


「エメ! 遊びに来たわ」

「ユリアお嬢様。すぐに来ると思いました」


 エメ達の経営している宿屋はギルドやパロン医師の診療所に近いため利用しやすく混んでいた。


 そしてグレアムの料理も美味しいと評判になっているのだとか。


「手伝う事はあるかな?」

「お嬢様、子供たちも手伝ってくれているので大丈夫です。そういえば、パロン先生が診療所を手伝う人を探していました。

 人手が足りなくて困っているらしいので行ってみるのはどうですか?」

「特にすることもないし。分かった。行ってみるわ」

「あ、ユリアお嬢様、終わったらこっちに戻って来てくださいね。晩御飯を一緒に食べましょう」

「やった! わかったわ」


 そして私は三軒隣にある診療所の扉を叩いた。


「パロン先生、居ますか?」

「君は?」

「ユリアです。ユリア・オズボーンです」


 先生は驚いたように目を見開いた後、笑顔で私を抱き寄せた。


「良かった。心配しておりました」

「先生のお陰で辛い過去を思い出すことも殆どなくなりました。それに思い出しても遠い過去の記憶だと思えるようになってきています」

「それは良かった。今日はどうしたのですか?」

「私も昨日から学院の学生寮に入ったんです! 課題もすぐに終わっちゃうし、暇だから今日は三軒隣の宿屋で手伝いをしようと行ったら手は足りていると。

 パロン先生の診療所は人手が足りないから手伝うならそっちがいいのではないかと聞いて来ました」


「お嬢様に手伝って貰うのは気が引けるのですが、今、猫の手も借りたいほど忙しくて手伝って貰えると助かります。ですが、血を見るのは大丈夫ですか?」


「先生、私、領地で自分の事は自分でやっていたし、狩りにも出ていました。怪我人の手当だってやっていたんですよ! 治癒魔法も得意ではありませんが少しは使えます」


「治癒魔法が使えるのですね。それは助かります。ではこちらに。

 ここ数日、王都外で強い魔物が出たらしくて怪我人が続出しているのです。

 今はギルドで対応していると思うのですが、倒すまでの間、治療院の患者は途切れる事がないかもしれない」


 私は攻撃魔法の方が得意なので討伐に参加した方が良いのかなとも思ったけれど、エメが心配するし、領地以外で狩りをしたことがないのでもう少し慣れたら参加してみたい。


 パロン医師はそう言って治療室へと案内した。


 待合室では病人が待機していて、治療室では怪我人がベッドや椅子に座ったまま治療を待っている状態だった。


 この状況は流石の私でもマズイと思う。


「先生、私は怪我人を治療していけば良いですか?」

「えぇ。頼みました。難しい所や分からない所は助手が側に付いているので聞いてください。いつでも私を呼んで構いません」


 私は頷いた後、一人ひとり丁寧に治癒魔法を掛けていく。


 先生は病気の患者を中心に治癒魔法と薬を処方している。


 聖女、聖人と呼ばれる治癒魔法の得意な人なら無くなった腕を生やす事が出来るらしいのだけれど、医者はなくなった物は生やせない。


 千切れても治す事は可能なのでなるべく怪我をしても落とした部位を拾うようギルドで指示があるのだ。


 そして治癒魔法の得意、不得意は雑さや治療時間に現れる。丁寧に治せば治すほど時間も魔力も消費する。


 私の場合、魔力は多いが得意ではないので時間は掛かってしまう。


 でも丁寧にするように心がけてはいるわ。


 背中を魔物の爪で引っ掻かれて大怪我した人や顔に傷が出来た人、手が千切れそうな人。様々な怪我人が休むことなく治療院に運ばれてくる。


 こんな傷を与えるのは何という魔物なのかな。


 ドラゴン?


 魔物の事を考えながら治療していく。


 後から知ったのだけれど、怪我人はギルドから一番近いこの治療院に運ばれ、パロン先生が治癒魔法で回復させる。


 けれど大怪我をして失った血は魔法では回復出来ないので、数日間安静が必要になるみたい。


 治療院には入院する人数が限られているのでエメ達の宿に案内され、宿で数日静養する事になるのだとか。


 そのおかげでエメ達も収入に困ることはないし、治療院も患者を受け入れて貰えるのでお互い助け合っている関係なようだ。


「ユリアお嬢様、お疲れ様でした。交代します」


 夕方の時間になり、治療院を閉めたみたい。急患の患者以外はとりあえず落ち着いて治療出来るようだ。


「先生、明日も来た方が良いですか?」

「まだ魔物が退治されたと聞かんから怪我人は出続けるだろう。来てくれると助かります」

「じゃぁ、学院が終わったらすぐここに来ますね。今日はエメ達と晩御飯を食べる約束をしているので帰ります。あ、先生。私は治療院では助手の一人です。お嬢様ではありませんよ」

「分かりました。では、ユリア、明日も宜しく」

「はい! 先生!」


 そうして私は宿へ向かった。


 宿の食堂には先ほど治療院で治療した人達が食事をしていたわ。


 まだ失った血のせいで顔色は悪いけれど、食事は取れているようで安心した。


「ただいま! エメ、おなかが減ったわ」


 エメ達家族専用のリビングで弟達(エメの息子達)とじゃれ合った後、夕食の準備を手伝い、今日あったことを話して家族団欒をして過ごした。


 住んでいる場所は変わったけれど、みんなとまたこうして食卓を囲む事が出来て嬉しい。


 貴族の食事とはほど遠いけれど、和気あいあいなこの感じが私には嬉しいわ。


 食事をした後は寮に戻る。エメは帰りの心配していたので魔法で認識阻害を使って帰る事にしたの。


 私は強いから認識阻害を使わなくても大丈夫なんだけどね!

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