第13話

 そうして迎えた学院入学式。


 私は制服にローブ姿で入学式に参加した。流石にフードを被る事は出来ないけれど、魔法学科生の一番端にある席にこっそりと座っている。なるべく目立たないようにそう心がけて。


 最初の一年はどの学科も共通の基礎科目を習うため純粋に学力でクラスが分かれるようになっている。


 前回はもちろんSクラスで殿下や側近達と同じクラスだったけれど、今回は抜かりはないわ。私はAクラスに入った。


 家族から字も書けないと思われていたからこの成績はかなり驚かれるでしょうけれど、まぁ、何も言われないと思うし大丈夫かな。


 式が始まり、ランドルフ殿下の新入生の挨拶が始まった。やはり黄色い声が聞こえてくる。


 格好良いのは認めるわ。


 でも、あの冷たい視線で見ていた彼を忘れられずにいる。


 一人考え事に耽っている間に挨拶が終わったみたい。


 殿下が壇上から席へ戻る時に一瞬視線が合った、気がした。


 きっと気のせいよね?


 式も終わり、各クラスへと移動していく。

私もそれに倣ってクラスへと入っていった。


Aクラスはほぼ貴族で数名平民といったところかしら。


 Sクラスともなれば平民は一人、二人いれば良いほうだ。貴族は早期教育を行うので学力は変わってくるのは仕方がないことよね。


 クラスの中は騎士科、淑女科、文官科、魔法使い科、薬学科の人達がいるけれど、魔法使いは私一人。薬学も一人だけのようだ。薬学科は豊富な知識が必要だからSクラスに多いのよね。魔法使いも同じ。豊富な魔力が無ければ魔法使いになれない。


 特殊な事情がない限り、ね。


 さて、クラスの人達の自己紹介も終わったところで今日は解散となったわ。


 悲しいことにお友達は出来そうにない。


 令嬢なら小さな時からお茶会でお友達を作ったりしているのだけれど、私はずっと領地だったし、病気という事もあって誰も話し掛けてこようとはしなかった。


 少し寂しいけれど、自分が殺されないため、と思うと何てことはないわ。


 鞄を持ち、さっと寮の部屋へと戻る。




 ようやく初日が終わった!


 式も終わったし、後は影のように静かに暮らせればいい。大丈夫。私には平民と変わらない暮らした経験もあるし、寂しくなったらグレアムの手伝いにいけばいい。


 そう思うと気持ちがほぐれていく。


 はっ、しまった!


 食堂でパンを貰ってくるのを忘れたわ。


 ……はぁ、仕方がない。諦めて食堂で食べるしかないよね。



 渋々私はフードを深く被り食堂へと足を運んだ。


 今日は上級生がいないので食堂も混んでいないみたい。私はAランチを受け取り窓際の席に着いた。


 窓の外は綺麗な庭があり、季節の花が顔をのぞかせている。窓越しに景色を見ながら食べるって素敵よね。学生って感じで。


 前回は王妃教育でそんな余裕はなかったもの。王宮に向かう馬車の中でパンを果実水で流し込んで食べるだけの生活だったわ。


 ゆっくりと味わいながら食べるのはいいものね。


 感慨深げに外を眺めながら食べていると声を掛けられた。


「ここ、いいかな?」


 視線を向けるとそこに立っていたのはランドルフ殿下と側近達。


「……どうぞ」


 空いているのにどうしてここにくるの!?


 私は内心ビクビクしながら食事のスピードを上げる。


「殿下、この後の生徒会はどうするんだ?」


 マークが殿下に聞いているようだ。


「あぁ。顔を出すよ。それよりも君、先日マークがぶつかった子だよね? 学院の一年生だったんだ」


 フードを深く被っているのに何故ばれたの!?


 動揺している姿を曝すわけにはいかない。


「……そうですね」

「将来は王宮魔法使いかな? でも君はSクラスにいなかったよね? どこのクラスなの?」


 殿下は何故突っ込んで聞いてくるの!?


 誰かに助けを求めようにも周りに誰も居ない。側近達、注意してよ。

 殿下、ナンパは良くありませんって。


「……Aです」

「ランドルフ殿下、ご令嬢が嫌がっていますよ。どうしたのですか? 令嬢に自ら声を掛けるなんて殿下らしくない」

「あ、あぁ。先日の事でしっかり謝っていなかったからね。それに王宮に来るような用事って何だったのかなと思ってさ」


 殿下を止めてくれたのは宰相志望のヨランド・ギヌメール伯爵子息。


「あぁ、あの時の令嬢は君だったのか。あの時はぶつかってしまいすまなかった」


 マークが明るい声で謝ってくる。


「い、いえ。もういいですから……」

「確かに。君は何故王宮にいたのですか?」


 ヨランド様も気になった様子。あの時、自分に必死で気づいていなかったけれど、彼もいたのね。


「……王宮に魔法の先生がいるからです」


 私はパクパクと心臓と同じく大急ぎで食べながら返事をする。見た目は分からないだろうけれど、テーブルの下の足はガクガク震えている。


 これも王妃教育の成せる技かもしれない。


「で、では食事も済んだので失礼します。後は皆様でゆっくりお食べ下さい」


 私はそう言って席を立った。まさかこんなに人の少ない時に絡まれるとか。今日はもう部屋から出ないわ。



―――


「殿下、彼女が気になるのですか?」


 ヨランドがそう聞いてきた。


「ん、あぁ。まぁそうだね」

「あいつよく見ればめっちゃ可愛いよな。殿下の好みなのか?」

「……。気にはなっている、かな」

「とにかく早く食べてしまおうぜ。俺腹減ったよ」


 マークは大きな口を開けてランチを食べ始めた。


「殿下、彼女を調べますか?」

「いや、今はいいよ」

「畏まりました」


 そうして三人とも食事を始めた。


―――

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