第11話

「ユリアお嬢様大丈夫ですか?」


 馬車に乗り込んだ私は緊張の糸が切れたようにガタガタと震えた。


「大丈夫、大丈夫よ、エメ。私はもう大丈夫」


 記憶の蓋が少し開きかけたが、自分に言い聞かせながらエメにそう伝える。エメにギュッと抱えられていたが、少しすると震えも止まり、また元の私へと戻る。


「心配かけてごめんね。もう、大丈夫よ? 随分と過去の事だし、小さな時のように泣き叫んだりしないわ」


 エメは心配して邸に着くまで手を握ってくれていた。





「お父様、お母様、では行ってまいります。家庭教師を付けてくださり有難うございました」

「あぁ。彼はユリアの事を褒めていた。学院でも頑張りなさい」

「ユリア、伯爵家の恥にならぬよう勉強に励みなさいね」

「はい、お母様。では行ってまいります」


 学院が始まる半年前に伯爵家に戻り、勉強を進めてきたけれど、残念ながらあまり家族との距離は埋まらなかった。


 前の時はそこそこ仲が良かったと思う。


 牢に入れられた時にはあっさりと見捨てられたのだけれどね。


 私が勝手に家族仲は良かったと思っていただけなのだと気づいた。


 今回も病を切っ掛けに見捨てられてしまったのだと思うと少し悲しいけれどこれが現実なのよね。


 彼等は結局自分達の事しか考えていなくて、私は道具の一つ位にしか考えていなかった。




 父から用意された学院寮は一人部屋で侍女も付けない生活になるようだ。


 領地で過ごしていたからある程度は自分の事は出来るし大丈夫。私は多くない荷物と共に馬車に乗り込んだ。


「エメ、今日で最後、よね?」

「そうです。でも悲しまないで下さい。学院の近くにパロン先生の診療所があります。私とグレアムの宿はその三軒隣ですから、すぐにこられます」

「そうなの? すぐにでも行きたい。毎週お手伝いに行ってしまうかも」

「ふふっ。だから悲しまなくて大丈夫ですよ。いつでもお待ちしております。さぁ、寮に着きました。荷物を降ろしますね」


 そして私はエメと共に荷物を部屋へ運び入れて荷ほどきをする。と言っても荷ほどきするほどの量もなかったわ。


 部屋はベッドルームと机の置いてある部屋、トイレ、シャワーが完備されているようだ。


 貴族専用の部屋とは言い難い、かもしれない。


 貴族はタウンハウスから通学するので寮には入らない。後から知ったのだけれど、寮の部屋はグレードがあり、それでも私の部屋は一番グレードが高いらしい。


 父なりに世間体を考えてそうしたのだろう。


 平民でもお金のない人達は四人部屋。食事は食堂で三食取るのだとか。もちろん街で買い物をして部屋で食べる人もいるらしい。


 部屋には学院で使う教科書などが全て机の上に置かれていたわ。何も買い足す必要はないようだ。


 エメは『家に戻ります』と言ってあっさりと帰っていってしまった。


 あまりにあっさりとし過ぎていたので寂しいという感じではないかな。


 週末に会いに行けると思ったら大丈夫な気がしてきたわ。

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