第8話
「グレアム! エメ! 森へ出掛けましょう? 魔物を狩りたいわ」
「……お嬢様、またですか? うぅっ。仕方がありません。準備します」
行きたくない雰囲気を全身に纏わせながらもエメは準備してくれている。
グレアムは元冒険者なので問題は無いらしいのだけれど、エメは王都育ち。魔物を狩るなんて今までやったことがなかったの。当たり前だけれどね!
ただ、この小さな町では魔物が出たら協力しなくてはいけない。
戦える者は戦うし、戦えない者は補助に回ったり支援にまわったりしている。
エメも私が寝ている間は支援に回っていて補助が出来るように町の人達やグレアムから少しずつ教えてもらっていたらしい。
私は魔法があるので問題無く戦えるわ。
夢で経験した事が生きているらしく、問題なく狩れてしまう。
ただ、本物と想像との齟齬は多少出てくるけれど、そこは仕方がない部分よね。
狩った魔物は町のギルドで買い取ってもらう。そのお金はというと、もちろんエメとグレアムのポケットへ。
我が家からの給料は出ているのだけれど、将来私が王都に戻った時、グレアムは失職する可能性だってあるもの。
今の間に貯められる物は貯めておいて欲しい。
もちろんエメもね。
二人はブツブツ文句を言っていたけれど、私の我儘を受け入れてくれたみたい。
そして武器なんだけど、私は子供用の短剣を使っている。
グレアムの話では身体の成長に合わせて剣も変えていかないといけないんだって。
剣については夢とは大分違うようだ。
夢の中では敵から奪った剣を使っていたの。形や大きさ、切れ味なんて気にする余裕はなかったわ。
現実世界での初心者はまず自分に合った大きさの剣を使う事を勧められた。
それよりも体力が物を言うので夢で得た感覚を一致させるためにはかなりの練習が必要なのだとわかった。ここは現実とかなり違いが出ていてとっても残念なところね!
そうして町で生活する事約十年。長いようでとても短かった。
目覚めてからの私は本当に第二の人生を歩みだした。
悔いのない様に色んな事にチャレンジして町での生活を楽しんでいたの。
その間にグレアムとエメは結婚して男の子と女の子が生まれたわ。私はお姉ちゃんになったの! 弟達を一杯甘やかしているわ。
そう、満喫していたの、この生活を。
忘れていた訳ではないけれど、ついに伯爵家から学院が始まる半年前に王都に戻ってこいと手紙がきた。
十三歳から三年間貴族は学院に通うのが一般的なの。
病気という理由でずっと領地に引きこもっていたけれど、こればかりは貴族として病気でも通える時は通わなければいけない。将来の相手を探すために通っている人も多い。
また、あの世界に戻るのかと思うと億劫になってしまう。私は泣く泣く王都に戻るしかない。
グレアムとエメはどうなるのかと言うと、やはり雇用は終わってしまうらしい。
私の心配を他所に二人ともしっかりと準備していたようでこれを機会に王都に戻るみたいだ。
「ユリアお嬢様のお陰で二人とも贅沢しなければ生涯働かなくても暮らしていけるほどの貯金があります。
王都で冒険者向けの宿屋をしようと思っているんですよ! パロン医師の紹介があり、既に場所も手配済なのです。
それに学院に入るまでは私がお嬢様の侍女を続けますし、心配しなくても大丈夫です。それよりもユリアお嬢様の今後が心配です」
エメはそう言って目を赤くしている。
「私は大丈夫! こんなに強くなったんだもの。それに王都の宿屋だったらすぐに会いにいけるし大丈夫よ!」
寂しい気持ちもあるけれど、エメの幸せを思うと応援していきたい。そして仲良くなった町の人達にお礼を言って五人で馬車に乗り込んだ。
楽しい日々を思い返しながら私はグレアム一家と王都へと戻ってきた。
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