第7話

「こ、こはどこかしら……?」


 ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。


 そうだ、パロン医師に夢見の魔法を掛けてもらい祖父の使っていた家に移動する事になったんだった。


「エメ、おはよう」


 寝ている私の隣で縫物をしているエメ。


 エメは私を見て固まり、信じられないような、奇跡が起こったとでもいいたげな表情をしたと思ったら突然大泣きしながら私を抱きしめた。


「ユリアお嬢様!! 目が覚めたのですね!! うぅっ。うわぁぁぁぁん」

「エメ、そんなに泣いたら目が溶けてしまうわ。今まで有難う。寝ている間もずっと声を掛けてくれていた事、嬉しかったわ。私はもう大丈夫よ」


 大泣きしているエメを宥めていた時、不意に扉が開かれた。


「エメ! 声が聞こえたが大丈夫か!?」


 部屋に入ってきた男は料理人の格好をしている。


「グレアム! お嬢様が目覚めたのっ!」

「エメ、この方は?」

「この人はグレアムと言ってこの家の料理人兼護衛として働いている者です」

「そう、グレアムと言いましたね。いつもこの家や私達を守ってもらい有難うございます。これからも宜しくお願いしますね」

「は、はいっ!」


 感動の再会となっている最中、ぐぅぅとお腹の虫が鳴る。


「……お腹が減ったみたい。ご飯を用意してもらっていいかしら?」

「今すぐ持ってきます」


 グレアムはそう言うと走るように部屋を出て行った。


 その間に私はエメから細かな所を聞いていく。私が夢に潜ってから三年が経っていたみたい。


 という事は今、私は六歳なのね。


 体感的には休みなく何十年も戦っていたような気がするけれど、身体の成長が遅いと思ったのは三年しか経っていなかったからなのね、と納得する。


 そして三年間寝ていた私は筋力がかなり落ちていて自力で歩くことも出来なくなっている。


 ……これは不味いわ。


 魔力は? と言うと、目覚める前より何倍も魔力が増えている気がする。


 寝ている間、ずっと魔力を循環させ続けていたからだと思うわ。


 幼い頃より魔法の訓練を行えば魔力も増えるのだが、一歩間違えば大惨事に繋がりかねないため、十歳以下の魔法訓練は厳しく制限されている。


 王族や上位貴族は六歳頃から家庭教師が付くため、魔法の訓練は早くから許可されているのだ。それより幼い私が休む事無く魔力を使っていたのだ。


 驚くほど増えていても可笑しくない。ただ、魔力の量を測るのは学院の入学時のみ。それも大まかな測り方なので詳しくは分からないと思う。


 まぁ気にする必要はないわ。


 それよりも目覚めた今、これからの事を考えていかなければいけない。エメに聞いてみると、父達には夢見の魔法で寝ていた事を伏せていたみたい。


 体調は変わらずだと月に一度報告の魔法便を送っているのだとか。父達からの返事は今まできた事がないと言っていたのを聞くとやっぱりか、という思いが頭を過った。


 邸で働いている他の同僚が偶に魔法便をくれるらしいのだけれど、どうやら私に弟が出来たようだ。ジョナス二歳とアレン一歳。


 弟が二人も出来た事だし、いつ厄介払いされても可笑しくはないわね。


 そういえば過去の私の記憶にも居た弟達。

 あの女の取り巻きとなってからは私を馬鹿にしていた。


 小さい頃は『ねえさま』と呼んで何処でも付いてくる可愛い弟だったのにね。今の弟達は可愛く『ねえさま』と呼んでくれるかしら?


 そして私の今の状況を考えると、未来は少し変わったんじゃないかと思っているわ。


 私がただ病弱というだけなら家と家の繋がりを求めて政略結婚する事はあるけれど、精神的な病気ともなれば相手方に迷惑を掛ける可能性も大きいから政略結婚させる可能性も低くなる。


 黙って厄介者を押し付ける、可能性はあるけれど!


 そもそも学院に通わない可能性もあるわ。ランドルフ殿下と婚約しないためには病気を続けて会わないか、伯爵家から除籍してもらうしかないのよね。


 でも、私にはまだ時間がある。対策をしっかりと練らないといけない。


 けれど、その前にこの落ちた体力を戻す事が当面の課題ね!





 そこからの私の行動は早かった。


 今までエメに心配をかけた分頑張らないと。という気持ちで体力作りに取り組んだ。


 体力が無くて最初は立つ事も難しかったけれど、魔法で身体強化しながら徐々に体力を付けていったわ。


 一年もしない間に走り回り、活発に動けるようになった。


 三年間家から出てこなかった私が突然小さな町で走り回る姿に町の人達は驚いていたようだけれど、グレアムとエメは『病気が良くなってきた』と町の人達に説明をしてくれたの。


 町の人達は納得したのか私を優しい目で見守ってくれている。


 町を走り回り、町はずれの森に探検に出てみたりと、年相応の遊びをしている私。


 この辺は歳に精神が引っ張られているのかもしれない。


 王都で暮らしていた頃は前も含めてお淑やかに、感情を隠して過ごしていた分がここにきて爆発しているのかなとも思うけれど。


 既に弟達もいるし跡継ぎに問題はない。


 このまま冒険者になって平民として暮らすのもいいかもしれないと思い始めているわ。


 そうそう、パロン医師には目覚めた事を魔法便で伝えたの。詳しく知りたいと返信がきていたけれど、領地までは遠くて診察する事が出来ないため、定期的に手紙のやり取りをする事になった。


 王都に帰ってくる事があれば是非診察したいと毎回手紙に書いてある。

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