第4話
「先生、どういう方法なのでしょうか?」
「うむ。これはあまり使われていない治療法なのだが、衝動的に死にたくなるような辛い記憶を抑えるための物でな。夢見の魔法というのだ」
「……夢見の魔法」
夢見の魔法とは人によって見る物が違い、快楽だったり、苦痛を伴うものだったりと様々で夢の内容によっては長期間眠り続けたり、すぐに目覚めたりする。
確かに夢見の内容によっては辛い記憶が過去の物へと強制的に処理する事もできるかもしれない。
だが人によれば夢から覚めず、そのまま死に至る可能性もある。それに加えて夢の内容によっては身体に影響を及ぼし、魔力が無くなったり、跳ね上がったりする事もあるらしい。
精神に直接影響を及ぼす魔法で使用者は厳格な使用規定がされている。
この辛い記憶から逃れる方法に縋りたい。
「……先生、やるわ」
私は覚悟を決めて先生に魔法を願い出る。
「お嬢様、私はどんな事があろうともお嬢様に付いていきます。先生、私は何をすればよいのですか?」
エメも私の言葉の後に続いた。
「ふむ。君は今からユリア様が目を覚ますまでの間、側で声を掛け、支えていかなければならない。目を覚ますのは明日か、一年後か夢の中から生涯出てこないかもしれないんだ。大変だが大丈夫かな?」
「覚悟しております」
「分かりました。一旦私は治療院へと戻り、準備をしたら治療を行います」
そして診断書をエメに渡して帰っていった。
私はパロン医師が戻ってくるのをカタカタとベッドの隅で震えながら過ごす。
うんざりしていた両親もパロン医師の診断書と話を聞いて渡りに船とばかりにすぐに領地に送る事にしたようだ。
分かってはいたけれど、やはり泣き叫び倒れる娘など欠陥品で厄介者なのだとまた傷つく。
でも、ここから離れる事が出来ると思うと少しだけ心が楽になったような気もするわ。
どうやら私は領地の端にある小さな町で祖父が昔使っていた一軒家で療養する事になったようだ。もちろん領地の家までは護衛がしっかりと送り届けてくれる予定なのだとか。
私の準備はすぐにできたわ。
後は先生を待つだけ。
エメは執事に暮らす場所についての話をしなければならず私は部屋にポツンと一人佇む。
「ユリアお嬢様、準備は出来ましたかな?」
エメと共に部屋に入ってきた先生。
「先生、私はいつでも準備が出来ているわ。お父様達にはなんて言ったのかしら?」
「幼い子が長時間馬車での移動になる。途中で倒れられると侍女達も大変だろうから強制的に寝かせていくと話しておいたから心配はいらない」
「分かりました。エメ、苦労を掛けるけれどお願いしますね」
「お、お嬢様……。うぅ、エメはずっとお嬢様から離れません」
エメは泣きながらも私のことを心配してくれている。その気持ちが今の私にとって心の支えになっているわ。
そうして私はベッドに横たわり、目を閉じる。
「では今から夢見の魔法を掛けます。良い目覚めがありますように」
そうパロン先生の言葉が聞こえたのを最後に私は深い夢の中へと入っていった。
――――ユリアの夢の中
〇
ここ、は?
気づくと私はどこかの平原に立っていた。
この平原はどこまで続いているのかしら?
ここから何をすればよいの?
疑問に思いながらとりあえず歩いてみる。
小さな身体ではあまり先に進めないけれど、何もしないよりはマシだわ。
何もない。
ただひたすら草原の中を歩いている。
どれくらい歩いたのか分からない。ずっと昼間のような明るさで何時間経ったのかも辺りの景色が変わることもなく、ただひたすらに歩いているだけ。
「どこまで歩けばいいのよ!」
私は苛立ちながらも立ち止まる事無く歩いていると、後ろから音がして振り向いてみる。すると、そこにいたのは……。
――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます