妹(3)

「何て事だ。どうする……?」

 私を見る父の顔には困惑の表情。

 だが……一瞬の後に気付いた。

 父も、祖父も、叔父達も、視線は私の方に向いている。

 しかし、私を見てはいない。

 何故か、本能的に感じ取れた。

 父や祖父や叔父達が見ているのは……私自身ではなく、私の中の「何か」……多分、私に宿った「力」「素質」のようなモノだと。

 後で思えば、私の一族は……特に私の一族の男達は、いずれ滅びて然るべき連中ばかりだった。

 自分の子や孫を、1人の子供でも1人の人間でもなく、「力」の入った「袋」、「術」や「一族の伝統」を入れる為の「器」と見做すような連中は……。

「神や仏が本当に居るのなら、我が一族への嫌がらせが、余程、お好きらしいな……」

 後になって知った事だが、私の一族は「呪術」「魔法」などの使い手達の中では、かなり「近代的」な考えをする流派だったらしい。

 術者に力を与えてくれる「守護尊」が実在するかは不可知論。

 一族の術者は各々「守護尊」を持つが、その「守護尊」とは、俗に言う「力の源パワーソース」ではなく、あくまで「気」「霊力」「得意な術」などのタイプを一言で言い表す為の「記号」に過ぎない。

「女は一族の当主には成れん。それが掟だ」

 祖父の声には絶望が混じっていた。

「だが……どうする。これだけの力、ちゃんと修行させねば……」

「俺がやる。俺が、この子の師となる」

 そう言ったのは「沼田のおじさん」だった。

「一族の伝統には反するが……」

「おい、待て、変だろ?」

 そう言ったのは別の叔父。

「一族の歴史の中で、たまたま、女が、とんでもない素質を持って生まれてしまう事は有った筈だ。確率的に無い方がおかしい。その場合は、どうしてたんだ?」

「ある巫女の一門に養女に出していたが……その一門との繋りは切れてしまっている。私の祖父か……更に、その前かに……」

 そう言った祖父を全員が見た。

「父さん、何で、知ってる? 祖父じいさんか曾祖父ひいじいさんから聞いたのか?」

 そう訊いたのは……「沼田のおじさん」。

「私には姉が居た。私など足下にも及ばぬ程の素質を持って生まれた姉が……だが……私が当主を継いだ後、一族の家系図を確かめてみたら……何故か、私の父は、居た筈の……そして、私が子供の頃に神隠しになった姉の名を一族の家系図に加えていなかった。それで察してくれ」

 痛いような沈黙。

「ウチの一族の歴史は、俺が思ってたより遥かに血塗られてた訳か……」

 「沼田のおじさん」は吐き捨てるように、そう言った。

「今の時代、いくら何でも、そんな真似は許されん……一族のパトロンだったあいつらの組織は既に無い以上、下手な真似をやったら揉み消す方法は無い。ともかく、この子は俺が育て修行させる」

 だが……私と兄だけは、気付いていた。

 この時こそが……後に何かの悲劇の始まりになる可能性に……。

 兄の顔に浮かんでいた表情ものは、最初は困惑……だが、徐々に……事態を理解するにつれて……哀しみ、絶望、そして……怒り、憎悪。

 どうやら、私は兄から大事なものを奪ってしまったらしい。

 一人一人はしょ〜もない人間の屑、でも一つになれば、とんだ狂った集団。

 ヒトラーの居ないナチスのような一族の中で、唯一、兄の味方だった人を。

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