ミレージャ

 返り血を浴びた美形の笑みって怖くない?

 そんなことを考えながら、リーベとの会話を続けていた僕は……。


「んっ……そろそろ来たか」


 その会話の途中で、僕はこちらの方に向かってくるまた、新しい気配を感じてそちらの方に視線を向ける。


「……どうしたの?グラース」


 そんな僕に反応し、リーベがゆっくりと首をかしげる。


「いや、まだ戦いは終わらなそうだなって、思って」


「……ッ!?まだ、何かあるの?」


「そうだね」


 僕はリーベの驚愕の言葉に頷き、ゆっくりと体をほぐしていく。


「また、何か僕のやることってある?」


「いや、ないかな」


 そんな僕へと自分のやることはあるかと尋ねてくるリーベへと僕は簡潔に返す。

 

「相手は一人で、なおかつ、ちょっとばかり有利な状況だからね」


「……むっ。相手が一人だとしても、僕は役に立つよ?」


「それは疑っていないよ。でも、それはとして、まずは僕に任せてよ。リーベはカッコいい僕の姿を見てて」


「う、うん……っ!」


 一度だけ食い下がってきたリーベはだが、すぐに続く僕の言葉で同意を示してくれる。


「さて、と……」


 リーベの方から視線を外す僕は自分の視線をゆっくりと、まだ何もない虚空の方に視線を向ける。


「ミレージャ」


 そして、僕はとある一人の男の名前を口にする。

 ゲーム本編において一番最初に起こる動乱……つまりは、今。

 この状況を引き起こした組織のトップに立つ男の名前を。


「……問題ないよね」


 この場で何が起きるのか、何の目的で動いていたか。

 それを明確に理解出来ていた僕はその相手の目論見を壊す様にして、これまで動いてきた。


「大丈夫、だよね」


 その動きは決して無駄じゃなかったと思う。

 この場における死傷者を出さずに終わらせることが出来ると思うのだ……なんてことを考える僕は飛行魔法を使ってゆっくりと上空の方に上がっていく。


「……」


 そんなことを考えながら、何が起きようとも大丈夫なように万全な準備を行っていた僕の前に、その空間そのものに一つの亀裂が入り始める。


「「「……ッ!?」」」

 

 その光景を前に自分の下にいる生徒並びに先生たちまでが驚きの声を上げる中で、僕は静かに目の前の光景を眺める。

 そして。


「……はて?何故、こんなにも用意万端なのでしょうか?」


 その空間の亀裂から一人の長髪の男が。

 もう既に戦闘準備万端の僕を見て、疑問の声を漏らす男、ミレージャがこの場にやってくるのだった。

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