被害者

 特に意識することもなく、何気ないままに学園へと登校してきた僕。


「……んっ?」


 そんな僕を出迎えてきたのは中々に衝撃の光景だった。

 

「何をしているの……?」


 学園へと入る正門を通り、そのまま大きな玄関口の方に向かってやってきた僕だが、そんな玄関口の方に出来てきた人だかりを前に困惑の声を上げる。

 何で、こんなにも人だかりが出来るのだろうか?

 何かイベントごとでもあったかな?そんなことを考えながらさらりと人込みをすり抜けてのは。


「うげ……っ」

 

 玄関口の方から吊るされていた一つの遺体だった。

 体は斬り刻まれ、髪はすべて力づくで引き抜かれるばかりか一部、骸骨まで見えているところもある。

 そして、眼球は顔面から垂れ下がっている。

 ただ、それでも血に濡れて黒ずんでいる彼女の衣が学園の制服であることはわかる。


「おぇっ……!?」


「な、なんだよ……あれ」


「ひ、ひどい……」


 そんなむごたらしい同じ学園生の遺体に自分の周りの生徒たちが嫌悪感と困惑、吐き気を覚える。

 

「……酷い」


 当然、それは僕も同様だった。


「下がってくださいっ!下がってください!これは貴方たちが見るようなものではありません!別の玄関口から学園にに入り、各々の教室の方に向かってください」


 そして、学園の先生たちは生徒たちを遠ざけようと声を張り上げ、何故か近寄ることの出来ない生徒の遺体をどうにかしようと奮起している。

 そんな異常としか言えないような光景であるが、この光景に僕は見覚えがあった。


「……リアルで見ると惨いな」


 ただし、これを見たのはリアルではなく、画面越しのものだったが。

 ゲーム本編において、これまであった作品の雰囲気が一変するイベント、『黒い世界樹』が鬱ゲーであることを初めて予感させてくれた事件。

 そのリアルでを見て、僕は眉を顰める。

 こればかりはゲームで見たものだと、感動を覚えることは出来なかった。


「何で見ると惨いって?」


「……ッ!?」


 そんなことを自分が考えていた中、用事があるからと先に学園の方に向かっていたリーベの声が隣から聞こえて僕は驚きでもって視線を隣へと移す。


「んっ?何でもないよ、気にしないで」


 いや、でも、こんなのがあったら用事どころじゃないわな。

 用事があると言って先に向かったリーベが自分の隣にいることで驚いた僕であるが、すぐに自分で納得した後、そのまま自分の発言について誤魔化していく。

 自分の前世のことは誰にも話すつもりはないからね。


「……ェ」


 さて、と……とうとう、始まったか。

 その後、僕は一人で思考の海へと潜っていくのだった。

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