男の子の部屋

 改めて言うが、七歳まで他人と触れ合うことが禁じられてきた王子たるリーベの対人経験はほぼないと言っても過言ではない。

 七歳という年齢まで同世代と触れ合うことはなく、両親ぐらいとしか深く関わってこなかったリーベにとって、他人に対して、どういった感情を抱けばいいのかすらよくわかっていない。

 学べていない。


「ゆっくりしていってね」


 そんな状況であるリーベが、急に自分の前に現れては一気に己の世界を広げていったグラースにどういった感情を抱いているか。

 友情。親愛。憧れ。感謝。愛着。安心感。親しみ。期待。信頼。

 そして、初恋。

 リーベはグラースに対して、これまで自分の奥底に眠っていた凡そ人間が他人に対して持ちえる好意的な感情がすべてを向けていた。

 

「う、うん……っ」


 閉塞された空間内で抑圧され続けていた自分の感情。

 本来は徐々に自覚し、コントロールされていくはずのものが、急速な状況変化の中で一気に距離を詰めてきた相手を前に暴走を果たしていた。


「(はわわ、僕、初めて男の子の部屋に来ちゃっているよ……!)」


 もはやただのバグ。

 感情がバグってしまっているリーベは初めてやってきた男の子の部屋、というシチュエーションにドキドキしてしまっていた。


「そこ、座っていいよ」


「う、うん……」


 そんなことにまるで気が付いていないあまりにも鈍感すぎるアホたるグラースは自分のベッドに座るよう促しながら、部屋にある棚の方に向かっていく。


「(こ、ここで……何時も、グラースは寝ているん、だよね)」


「リーベ」


「ひゃいっ!?」


「んっ……?えっと、うちの父上が動くまでの間、菓子でも食べて待ってよ」


 棚からお菓子の入った缶を引っ張りだしてきたグラースはリーベの座っている前に机を置き、その対面に椅子まで置く。


「今、紅茶を淹れるね」


 そして、そのままティーセットまで持ち出して華麗な所作で二人分の紅茶を淹れる。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがと……っ」


 それを受け取ったリーベは感謝の言葉を口にするのだった。


 ■■■■■


 グラースにとって知らない。

 いや、知るはずもない話ではあるが、今、グラースはかなり特殊な状況の中にいた。

 運営内部にいた腐女子が同士に向けて作り上げたはいいもの、お蔵入りとなってしまった幻のルート。

 閉塞空間で育った無辜なるショタに対して、同じショタがいきなり世界を広げることによって本来はハーレムを作るはずの主人公に悪役とのBLルートを強引に作り出す幻のBLルート。

 それを知らず知らずのうちにグラースは今、突き進んでいた。

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