逃亡

 天井、壁、床。

 ありとあらゆる部分にヒビが入り、それと共にこの場全体が震え、嫌な音が低く響き渡る。


「な、何がっ!?」


 そんな現状を前に、オルガンが驚愕と困惑が織り交ざった声を上げる。


「この地下アジト……その更に地下を暴食で食ったのさ。あいにくと、僕はずっとここの一番下にいたのでね」


 己の固有魔法である暴食。

 本来は自分の周囲にしか作れない暴食の口ではあるが、そんなところ。

 それの解釈を拡大させ、能力を底上げする拡張魔法と呼ばれる奥義。

 それを用いることで暴食による口を開けられる範囲を広げ、この地下アジトの下に巨大な空間を作ってやったのだ。


「地下に出来た巨大な空間。これまで、そこを僕は魔法で土の柱を作ることで支えてきた……それを、ついさっき解いた。なら、何が起こるかなんてわかるでしょう?」


「……お前の目的はここを潰すことかっ!?」


 ようやく僕の行動理由に気付いたオルガンが忌々しそうに言葉を告げる。


「その通りっ!」


 僕がそれに頷いたその瞬間。

 亀裂は急速に進み、一瞬にしてこの場の床が抜けると共に天井も落ちてくる。


「このまま地上まで突っ切るよっ!」

 

「きゃっ!?」


 それと共に、僕は力強くリーベを抱き寄せ、飛行魔法を発動。

 上から降ってくる天井などをすべて暴食で食らいながら地上へと勢いよく上がっていく。


「逃がすがッ!」


 そんな僕とリーベを追って、オルガンも飛行魔法を発動させる。


「ちぃ……」


 流石にリーベを抱えている僕よりもオルガンの方が飛行魔法による速度が速い。

 だが、僕は降り注いでいる土などをすべて暴食で食らって何の抵抗もなく進んでいる分、真正面から多くのものにぶつかりながら進んでいるオルガンよりも速度が速い結果となっていた。


「……」


 だが、完全にオルガンを振り切ることが出来ていない……ここまで、ここまでオルガンはしっかりと食らいついてくるのか。

 想像以上のオルガンの速度に僕は眉をひそめながら進んでいく。


「地上が見えてきた」


 飛行魔法に合わせて探知魔法も使っている僕はそろそろ地上が近づいてきていることに気づいて声をあげる。


「ぼ、僕に何か出来ることは……?」


 そんな中で、リーベが疑問の声を上げる。


「今はないから、大丈夫……僕に任せてっ!」


 そんなリーベの言葉に僕がちょうど答えたタイミングで自分たちは地上へと出てくる。


「このままいくよっ!」


 その後、すぐさま僕は方向を確定させて飛行魔法で空を駆け抜ける。


「……てめぇっ、何で国の方向を完全に把握していやがる」


 僕は輸送されている最中も起きていたからね。

 ヘーリオス王国の王都の方向は完全に把握している。


「さようなら、だっ!」


 僕の暴食は空気抵抗すらも食らう。

 

「嘘だろ……っ?」


 空気抵抗を完全に無視して突き進む僕はリーベを抱えた状態ながらもオルガンとの距離を突き放し、ヘーリオス王国の王都へと向かっていくのだった。

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