暴食
剣と魔法の世界であるこの世界に当たり前のように存在する魔法には二つの種類がある。
まず一つ目が、誰でも使用できる汎用魔法と呼ばれるもの。
そして、二つ目が生まれながらに個々人が持っている固有魔法。
僕は生まれながらにその固有魔法を有している。
その魔法が『暴食』。ありとあらゆるものを食らう魔法であり……たった今、目の前で荒れ狂っていた炎の波を飲み込んで消えてなくしてしまうことくらいお茶の子さいさいだった。
「ちっ……固有魔法か。忌々しい」
己の魔法が一瞬でかき消された。
それの理由を一瞬で看破したオルガンは忌々しそうに表情を歪ませながらこちらを睨みつけてくる。
「君とて持っているでしょう?固有魔法くらい」
それに対して、僕は少しばかり頬を緩めながら意地悪く言葉を告げる。
「……何処まで知ってやがんだ、お前」
そんな僕の言葉を聞き、オルガンの表情から完全に感情が消える。
「どこまでも」
「なるほど。お前だけは絶対に殺す」
そして、オルガンと自分の距離が一瞬で消滅し、何時の間にか握られていた剣で斬りかかってくる。
「食らえ」
「……ァ?」
剣に対してただ、僕が手をかざしただけでオルガンの手にあったそれが消える。
「よっと」
一瞬にして武器を失い、攻撃が中途半端にならざるを得なくなったオルガンの腹へと僕は蹴りを叩き込み、彼を強引に後退させる。
「……ッ?!魔力が」
固有魔法たる暴食。
その効果は非常に簡単。
自分の半径1~2mくらいにある生物以外、つまりは武器とか魔力を食べて消してしまうというものである。
「……ずいぶんとチートじみた固有魔法だこと」
僕は手をかざすだけでオルガンの剣を食らい、彼に蹴りを叩き込んだところで、彼の体内に流れている魔力を食らってやったのだ。
体内の魔力を食らうには直接、触れなくちゃいけないが、それでも僕の突きや蹴りの一つ一つが強引に相手から魔力を奪いとる性能をしているのだ。
はっきり言って、反則と言えるだけの性能を持っているだろう。
ゲームの悪役貴族として実に相応しいチート能力と言えるだろう……まぁ、ゲームでは今、僕の隣で震えている主人公たるリーベに負けるわけなんだが。
「てめぇには遠距離攻撃が効かず、かといって近距離戦を挑もうにも武器は魔法で消され、触れられれば魔力が奪われる。ずいぶんと整った魔法じゃねぇか」
「でしょ?だからこそ、僕は自分が最強クラスであるという自負があるんだ」
忌々しそうに言葉を吐き捨てているオルガンに対し、僕は不敵な笑みを浮かべながら魔法で一振りの自分の背丈よりも巨大な鎌を作りだし、ゆっくりと構えるのだった。
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