暗殺教団

 自分の前に立つ男。

 オールバックにされた黒髪、濁ったように見える黒い瞳を持った筋肉質な男。

 その衣は下半身を隠す最低限の黒い布だけであり、筋肉に覆われた立派な上半身は余すことなくすべてが晒されている。


「暗殺教団ヘルエンの指導者オルガン」


 そんな彼の名前はオルガン。

 ゲームにも出てきた暗殺教団のトップに立つ男である。


「……ァ?知ってやがんのか?俺らのこと。お前のようなガキが?」


「まぁね。僕はちょっとばかり情報通なもので。」


 暗殺教団。

 それは、現在の世界宗教である一神教たるカルミナ教の手によって滅ぼされたかつての多神教の残党たちの集まりだ。

 元はカルミナ教へと一矢報いるための組織だったが、今ではただ高額で依頼を受ければ何でもやるようになった何でも屋にまでなり下がった過去の亡霊。

 それが暗殺教団である。


「ふぅー」


 そこまで落ちぶれてなお、暗殺教団はこの世界に存在する裏組織の中で随一と言えるほどの影響力と武力を有している組織である。

 直近であれば、とある帝国の王族を暗殺して危うく内戦にまで発展する大事態を引き起こす寸前のものだった。

 そして、その頂点であるオルガンもこの世界で有数の実力者である。


「さて、と。リーベ。僕の横から離れてないでね」


 そんな男を前にしながら、僕は自然体を保ったまま隣にいるリーベへと声をかける。


「う、うん……っ。わかった。で、でも……大丈夫なの?なんか、強そうだけど」


「全然、大丈夫。僕に任せて。ちゃんと勝ってみせるから」


「ほぉー?もしかして、お前ぇ、俺を倒すつもりでいやがるのか?お前のようなガキが、この暗殺教団のトップである俺を?」


 軽く準備運動しながら、リーベに離れないよう告げる僕に対し、オルガンは興味深そうに口を開く。


「当たり前じゃん」


 それに対して、僕は軽い言葉を返す。

 

「ほうけ、ほうけ」


 不遜な態度のままに告げた僕の言葉に対して、オルガンは口元をにやけさせながら口を開く。


「あまり舐めんなよ?とりま、死ねや」


「わわっ!?」


 だが、その次の瞬間にはオルガンの口から笑みが消え、自分とリーベの方へとこの部屋全体を覆い隠してしまうような炎の波が押し寄せてくる。

 その炎の波は決して量だけではなく、質も一級品。

 ありとあらゆるものを灰にしてしまうような膨大な熱を持っていた。



「食らえ、暴食」



 それに対して、僕は己の手をかざして魔法を一つ。


「……ァ?」


 それによって、自分とリーベの方に近づいてきていた炎の波は忽然とその姿を消してしまうのだった。

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