監禁

 ガタゴトと揺れる馬車の振動が体の中に伝わってくるような中。


「……」


 僕は気絶したふりをして大人しく馬車での運搬を受け入れていた。

 魔法による集中砲火を食らった後、僕は完全に気絶したリーベと共に王城から連れ去られてしまったのだ。

 どうやら、相手にはまだこちらを殺す殺意というものがなかったらしい。

 そのおかげで、僕がリーベにかけた保険はあの場で使わなくて済んだ。


「……んんっ」


 これはチャンスだ。

 本当であれば、この運搬中に何とか逃げるタイミングを計って逃亡するつもりだったのだが、この一連の流れを見て僕は何処の組織による犯行かわかってしまっていた。

 そして、今。何処に向かっているのかも合わせて。

 僕はこの運搬中よりも、彼らの目的地の方が逃亡する際に難易度が比較的に簡単となるだろうとの予測から、大人しく従っていたのだ。


「まだ先か?」


 まだ先だね、君たちが向かっているアジトまでは。


「あぁ、先だ」


「マジかい。王子の方は既に起きかねないぜ。流石に王族の対毒耐性は高けぇ」


「睡眠薬を打ち込んでおけ……一回くらいなら問題ないだろう」


 おっと、怪しげな薬を飲ませられるのは不味い。

 僕は先ほどのキスによって流し込んでいた自分の唾液から魔法を発動し、リーベの中に入ってきた睡眠薬を完全に分解すると共に、薬の代わりとしてリーベの眠りを魔法で深くしてやる。


「それにしても、グラースだったか?そっちの餓鬼の方は大丈夫なのか?年齢の割にずいぶんと手練れだったようだが」


「完全に伸び切っているぜ。あの場面でこいつは攻撃魔法を防ぐための準備をしていた様子ですから、状態異常に対する耐性を万全なものにしてなかったんだろう」


 万全なものでしたぁー。

 しっかりと魔法によって強制的に与えられる眠気をレジストしましたぁー。

 僕の気絶したふりはめちゃくちゃうまいからな。あまり舐めない方がいい。


「このままさっさとアジトに向かうぞ。何時、王城の方から追手が来るかもわからん……この国はれっきとした大国だ。俺らとて、正面から立ち向かうわけにもいくまいよ」


「おうさ」


 僕が内心で彼らを小馬鹿にしている間も、大量の黒ローブの男たちに囲まれている馬車はたった一つの目的に向かって進んでいった。


 ■■■■■


「んっ、うぅん……っ」


「ありゃ?起きた?」


 王城での襲撃から三時間後。

 馬車での運搬も終わり、黒ローブの男たちのアジトの中にある地下牢へと閉じ込められいる自分の隣にいるリーベのうめき声に僕は反応する。


「んんっ……」


 これまで固く閉ざされていたリーベの瞳がようやくゆっくりと開かれ、辺りを見渡し始める。


「ぐ、グラース……って、ここ、どこっ!?」


「地下牢の中だよ」


 動揺の声を上げるリーべに対して、僕は極めて冷静な状態で言葉を返す。


「ち、地下牢……っ!?」


「そう。地下牢。それでリーべ」


「ひゃいっ!?」


 僕はリーベの耳元に口を近づけて囁き声を一つ。


「これから話すことに驚いて、あまり大きな反応は見せないでね」


「はひっ」


「良い子だ……多分だけど、助けは来ない。だから、ここを自分たちの力で抜け出すことになる。大変な道のりだとは思うけど、僕にすべてを任せてほしい。必ず、君を助けてみせるから」


「う、うん……!信じるよ」


 あら?こんなにさっくりと信じてくれるの?

 ずいぶんなチョロインだことで……主人公やけど。


「ありがとう」


「う、うん……っ」

 

「それじゃあまずはね……」


 僕は今も、自分の下の方で魔法を発動させながら、ここから抜け出すために何をするかをリーベへと語っていくのだた。

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