パーティー
今より三年前。
五歳の頃に、僕は現代日本における高校生として生きていた記憶を思い出していた。
「ふー」
グラース・アークライト。
それは剣と魔法たる中世ヨーロッパ風の世界を舞台としたRPGゲームである黒い世界樹に登場する悪役貴族。
僕は三年間、その人物として生活を営んできた。
そんな僕の目標はたった一つ。悪役として殺される運命にある自分の未来を回避することだ。
「今日、その目標を完遂させる……っ!」
悪役貴族としての運命を回避する。
その最善手は何か。僕は自分を殺す相手であるゲームの主人公と仲良くなってしまうことだと思う。
「このパーティーで主人公と友達になるっ!」
というわけで、僕は王城で開かれるパーティーの準備室へとやってきていた。
この世界の主人公はリーベ・ハピスブルカ。ヘーリオス王国ハピスブルカ王朝の第三王子である。
そして、自分の生家であるアークライト家は侯爵家。王家の主催するパーティーへと参加するだけの権威を持っている側の人間である。
僕は初めて、リーベが表舞台に立つこととなるこのパーティー内で彼と仲良くなって自分の死亡ルートを回避するのだ。
「僕の見た目は大丈夫だよね?」
自分の前にある鏡。
その前でくるりと回転する僕は自分の格好を確認する。
貴族として相応しい格好を着こなした自分の身なりはかなり良く、己の顔の良さも合わせて可愛らしいショタみを最大限に醸し出していた。
「グラース」
鏡の前でポーズを取っていた僕のいる部屋の扉が開かれ、中に自分の父上であるアークライト侯爵家の現当主であるザインが入ってくる。
「はい?なんでしょう、父上」
「う、うむ……パーティー会場の準備が終わった。お前も私と共に来い。前から教えている礼儀作法は完璧だな?」
「もちろんです、父上」
父上は知らないが、僕はこれでも高校生まで生きた前世の記憶の持ち主。
礼儀作法の勉強くらい完璧である。元々知っているようなものも多かったしね。
「よろしい。では行こうか」
「はい……」
このパーティーで、これからの僕の人生が決まると言ってもいいかもしれない。
そんな緊張感を持ちながら、僕は父上と共にパーティー会場へと向かっていくのだった。
■■■■■
今回、開かれたパーティーの御題目は今より数十年前に起こった戦争における戦勝記念日を祝うというものだ。
誰か明確な主役というのは存在しなく、多くの貴族が各々で顔合わせを行っている。
「初めまして、リーベ殿下」
「う、うん……初めまして」
そんなパーティーの中で、僕は無事にゲームの主人公であるリーベと顔合わせすることが出来ていた。
初めての表舞台ということで、八歳児のリーベに挨拶出来るのは同年代の子供だけということになっていたおかげですんなりと顔合わせることが出来た。
「自分はアークライト侯爵家の長男であるグラースと申します」
「そ、そうなんだ。僕はリーべだよ」
「えぇ、実に良い名前ですね」
「あ、ありがとう……」
基本的に王族は呪いなどで殺されるのを避けるため、七歳になるまで親や本当にごく一部の限られた教育係にしか会えないことになっている。
そのため、基本的には人見知りになってしまう王族の例に漏れず、今、自分の目の前にいるリーベもそんな様子を見ることが出来る。
うーん……少し、おどおどした様子のリーベ。
綺麗な金髪碧眼の色白。髪が肩にかかる高さで揃えられており、顔立ちも随分と女の子らしい……かなりロリっ子成分の強いショタだな。
「それでリーベ殿下。パーティーのほどは楽しめていますか?」
そんなことを考えながら、僕はリーベへと話を振っていく。
このパーティーに参加している同年代の人間で真っ先にリーベの元にやってきたのは僕であり、他のみんなはまだこちらへとやってきていない。他の子たちは親の近くにいたり、既に出来ている友人グループ内でワイワイしている。
恐らく、王族は人見知りだから、ということであまり積極的に話しかけに行かせて引かせてしまうのを大人たちが危惧しているのだろう。
これは、しばらくの間は僕が独り占めできるかな。
「う、うん……もちろん、楽しめているよ」
「それならよかったです。ここで話していても仕方ないですから、料理の方を取りに行きませんか?」
話しかける前にリーベの様子を見ていると、どうすればいいか分からずに右往左往していて料理とかも一切手をつけていなかった。
ゆえに、お腹が空いているだろうとの推測で彼に言葉を振っていく。
「そ、そうだね……僕もお腹が空いていたところだから……」
「リーベ殿下は何の料理が好きですか?」
「さ、サラダかな……」
子供に好きなものを聞いて真っ先に出てくるのがサラダなん?変わりすぎやろ。
「サラダ、良いですね。自分も好きですよ。シャキシャキとした触感にみずみずしさが良いですよね。それでは、一緒にサラダの方を取りに行きましょうか」
「だよね……っ!」
そんな思いをぐっと飲みこんで、僕はリーベと共に料理の置かれているエリアに向かっていくのだった。
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