恋心


実は私、友達がいない。


同級生とは顔を合わせれば普通に会話をするけれど、ずっと一緒に過ごすような人はいない。



それが別に寂しいわけでも無いし、辛いわけでも無い。



寧ろ気楽だ。

自分の好きな時に本を読むことができる。




昼休みはお弁当と読みかけの本を持って、校舎から少し離れた場所に置かれている大きな岩に向かう。



この岩が座るには丁度いい。

その上、この場所には殆ど人が来ないし。


近くを流れる川のせせらぎ。

鳥のさえずり。


そんな自然な音が、読書にピッタリでお気に入り。






……だったはずなのに。

                                                                                                                                                                                                                                                                  





今日は人の声が聞こえてくる。





「行波先生、好きです!!」





岩の上から良く見えるその光景。


可愛らしい小柄な女子生徒が、行波先生に告白をしていた。



「私と…付き合ってください!!」



何故かは知らないけれど。

生徒から凄くモテるんだよね、行波先生。




告白をされている様子を見るのは初めてではない。

過去に一度、図書室の角で生徒に告白をされているのを見たことがある。



「…ごめん、生徒とは付き合えない」



振られる、生徒。


図書室の時も行波先生は同じ言葉で生徒を振っていた。



「やっぱ…無理よね。…ごめんなさい。忘れて下さい!」



目元を拭いながら走り去る女子生徒。


小さく溜息をついて下を向く行波先生。




……何だか、馬鹿馬鹿しい…。


そう思いつつ。




「……行波先生」



何故か、その名を……呼んでしまった。




「秦野……何してんの、そんなところで」

「お昼ご飯です」



少し驚いたような表情。


そんな行波先生は近付いてきて、私が座っている岩にもたれ掛かる。

そして…また溜息をついていた。



「行波先生、モテますね」

「興味無い人達にモテてもねぇ」



行波先生は私が横に置いていた本、『宇宙センセーション』を手に取り、パラパラのページを捲る。



「これ、面白いだろ」

「まだ全部読んでいないんですけど。あれですね、SFかと思ったら恋愛ファンタジー小説でした」

「そうだよ」



宇宙を舞台にした壮大な恋愛ファンタジー。

思っていたのと違ったが、これはこれで面白い。



「ところで、いつもここで昼を過ごしてるの?」



本に視線を落としたままの行波先生。



「そうです。この岩が私の居場所です」



そう答えると、噴き出すように笑われた。

……心外だ。



行波先生は手に持っていた本をまた私の横に置き、今度は真顔でこちらを見つめてくる。



「……何ですか」



問うても…無言のまま。

何かを考えているかのように黙り続け、その後ゆっくりと口を開いた。



「ならさ。昼、一緒に過ごす?」

「……はぁ…?」



ま〜た……意味不明なことを。

この人は何を考えているのか、本気で分からない。



「何でそんな思考になるのか分かりません。…何ですか、本当に。先生には、好意を寄せてくれる人が沢山いるのですから。私に構ってる場合じゃないですよ」



お弁当も食べ終わったし。

片付けて教室に戻ろう…。


そう思い片付けを始める。




「……」



唇を少しだけ噛み締めた行波先生は、小さく言葉を発した。



「………秦野こそ、何で分かんないんだよ」

「え?」



行波先生は力強く拳を握り締め、少し震えた。

何か言葉を叫ぼうと口が空いたが…その言葉を喉で留め、再び口を閉じる。



「……いや、うん。…じゃあ、また。委員会の当番で」



挙動不審な行波先生。


走って逃げるように、校舎の中へ消えていった。



「……何だろう」




何だろう、何だろう。


分からない。


本当に…行波先生の考えていることが分からない。






親しく話せる友達が居れば、行波先生について相談とか出来るのに。





「…………」




そう思って気付く。


友達がいたら、私は行波先生の『何』を相談するの?






分からない。



分からない。分からない。





私は、本さえあれば。


それで良いのに。





頭の中でチラつく、さっきの行波先生の表情。





興味無いのに。


モヤモヤっとする、心。



「……」




…妙に行波先生のことが、気になってしまった。
















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