第4話 マッサージしよ

「髪乾かした? どれどれ~」


「うん。ちゃんと乾いてるね。髪洗ったばっかりだから、サラサラしてて気持ちいい。ずっと触っていたいくらい。ヨシヨーシ」


「ふふっ、ヨシヨシされるの慣れてきたね。最初はあんなに恥ずかしがってたのに」


「ん? むしろ今はもっとしてほしい? いいよ、いっぱいヨシヨシしてあげる」


「そうだ! イイコト思いついた! リンパマッサージをしながら、ヨシヨシしてあげる!」


「えへへ、実はね、最近勉強してるんだー。リンパマッサージするとさ、リンパの流れが促進されて、老廃物を排出しやすくするんだってー。むくみ解消にも良いんだよー」


「じゃあマッサージするから服脱いで。……なんでって、服着たままじゃできないもん。下着は脱がないでいいからさ」


「準備ができたら、ベッドの上に足伸ばして座ってね」


(服の擦れる音とベッドの軋む音)


「じゃあ、始めるよ。最初は鼠径部そけいぶから押していくね。脚の付け根のところ」


「いきなりそこって? 別に変な意味じゃないよ!?」


「鼠径部にはリンパ節があるんだよ。他の場所からリンパ液を流しても、誘導先のリンパ節が滞っていたらリンパ液は流れて行かないの。だから最初に、リンパ節からほぐしていかないと」


「それじゃあ触りやすいように、脚と脚の間に座るね。指の腹でぎゅーっと押していくから。触るよ?」


「ぎゅー……。大丈夫? 痛くない? 痛かったら我慢しないで言ってね」


「大丈夫そうなら続けていくよ。指で円を描くようにクルクルしながらぎゅーっ……。いち、にー、さん、しー、ごっ」


「もう一回。ぎゅー……」


「ふふっ、いまさらだけどさ、めっちゃ距離近いね。向かい合いながら脚の間に座ってるとさ」


「恥ずかしい? あと三回だけ我慢して?」


「ぎゅー……、ぎゅー……、ぎゅー……」


「はい。鼠経そけいリンパ節のマッサージはこれでおしまい。次は太腿のリンパを流していくね。滑りを良くするためにオイル使うよ」


「オイルをぬりぬりー」


(オイルを馴染ませる音)


「……うん、滑りが良くなってきた」


「太腿の内側を下から上に撫でて、リンパを流していくね」


「触るよー。……わっ! どしたの? 急にビクッてしたから驚いちゃった。もしかしてくすぐったかった?」


「くすぐったいかもしれないけど、ちょっと我慢してて?」


(オイルでマッサージをする音)


「もう一回触るよ? 下から上に向かってそーっと触ってー」


(オイルでマッサージをする音)


「ふふっ、なんだか脚をヨシヨシしているみたいだね。ヨシヨーシ。リンパ液よ、流れろー」


「ヨシヨーシ」


「ん? 私の手、あったかくて気持ちいい? そうなんだぁ。じゃあ反対側もマッサージするね」


「ヨシヨーシ。リンパ液よ、流れろー」


「このくらいで平気かな? 今度は、足首から膝の裏にある膝下しっかリンパ節に向かってリンパ液を流していくねー。足首の内側を両手で包み込んでー……」


「ヨシヨーシ。……ん? まだくすぐったいの我慢してるの? ふふっ、声出さないようにしてるんだ。可愛い。もうちょっとだけ我慢しよっか」


「どう? 気持ちいい?」


「そしたら最後は、足首から鼠径部にかけてゆっくり流していくね。両手を使って下から上に向けて順々に触っていくから」


「ヨシヨーシ。足首からふくらはぎ、膝に太腿、最後に鼠径部までゆーっくり」


(オイルでマッサージをする音)


「……ん? なに? もう限界? くすぐったい?」


「しょうがないなぁ。そしたら反対側をやったら終わりにしてあげる。両手で包み込んで下から上にヨシヨーシー」


(オイルでマッサージをする音)


「はい、終わり! 本当はもっとやりたかったけど、くすぐったそうだからやめるね」


「……え? わざとくすぐったくやってるわけじゃないって。本当だよ?」


「ん? 今度は私にマッサージをしてくれるの? 別にいいのに……。遠慮するなって。分かったよー……」


「ん? ちょっと待って、その手なに? そんなこちょこちょするみたいな手で……」


「きゃあ! 太腿の内側を指先でなぞるように触ったらくすぐったいよ! それ、全然マッサージじゃない!」


「え? 仕返しだって? 私、くすぐってないもん! マッサージしただけなのにー」


「ひゃっ! 今度は脇!? 確かに脇にもリンパ節はあるけどさー、それはもう、ただのこしょこしょだよ! ちょっ、やめて、あははは!」


「やだやだっ! 脇は駄目~! くずぐったい~っ!」


「あははっ……本当に無理っ! 力入んないっ」


「もうっ! そっちがその気なら、こっちだってくすぐっちゃうもん。脇腹をこしょこしょこしょー」


(ベッドが軋む音)


「やぁーー! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません! あはははっ! くすぐったいよー!」


「ひゃうっ……変なとこ、触んないで! もう駄目、ギブギブ~っ!」


「はあ……はあ……もう、信じらんない。こっちは真面目にマッサージしてたのにー」


「もう怒った! 今日はもう、ヨシヨシしてあげないから!」


「……ん? 意地悪してごめんなさい?」


「はぁー……。素直にごめんなさいが言えたから許してあげるー。ヨシヨシ、いい子、いい子」


(頭を撫でる音)


「ふふふっ、急に大人しくなっちゃったね。どうしたの?」


「ん? 調子に乗ってすいません。嫌いにならないでって? なるわけないじゃん。そんなこと心配してたのー?」


「大丈夫だよ。そう簡単には嫌いにならないから。……あーでも、意地悪が過ぎると、嫌いになる、かも?」


「嘘、嘘! 嫌いになんてならないってー! そんな顔しないでよー!」


「大丈夫、大丈夫だから。ねっ?」


「ヨシヨシ、いい子、いい子」


(頭を撫でる音)


「大丈夫、大丈夫」


「落ち着いたみたいだね。良かったぁ」


「あ、もうこんな時間なんだ。私、そろそろ帰らないと。明日早いんだー……」

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