第3話 お風呂入ろ

「お風呂沸いたよー。冷めないうちに入っておいでー」


「ちょっと良い入浴剤も入れておいたから。……ん? そんなのどこにあったんだって? ここに来る前に雑貨屋さんで買ってきたんだ~。いつもお世話になってるから、プチギフトってことで!」


「香りはラベンダーだよ。よーく眠れるようになるんだってー」


「……ん? 一緒に入ろうって? もうっ、何言ってんの? そんなの絶対無理だから! 恥ずかしいもん。却下です!」


「何をいまさらって? うー……それはそうかもしれないけどさー、やっぱり明るい所だと恥ずかしいじゃん……。私、あんまりスタイル良くないし……」


「……そんなの気にしなくていいって? 気にするよっ! 好きな人の前では綺麗でいたいじゃん!」


「とにかく、一緒に入るのは駄目です! 一人で入ってください!」


「もーっ、そんな顔しないでよー。無理なものは無理だもん」


「……うーん、しょうがないなぁ。じゃあこうしよう。頭洗ってあげるから、それで許して?」



(シャワーの音)


「入るよー? いいー?」


(浴室の扉が開く音)


「ううー……なんか恥ずかしい。直視できない……」


「ん? ああ、この服? Tシャツ借りた。そのままだと濡れちゃいそうだったから」


「そう、彼Tシャツ。どう? 萌える?」


「私、背ちっちゃいからさ、ワンピースみたいになっちゃうね。ちょっと丈は短いけど」


「……って、ねーえっ! 裾めくらないでよ! パンツ見えちゃうじゃん! えっち!」


「もーっ、そういうことするなら頭洗ってあげないよ? ん? もうしませんって? 約束だよ?」


「はい、頭洗うから前向いてー。後ろからシャワーで流していくねー」


(シャワーで流す音)


「最初にお湯で予洗いすると、シャンプーの泡立ちが良くなるんだってー。頭皮までしっかり流していくねー」


(シャワーで流す音)


「よーく濡らしてー。……これくらいで大丈夫かな? そしたらシャンプーで洗っていくねー」


「あ、このシャンプー私も好きー。いい匂いだよねー。私も同じの使ってるよ。お揃いだねー」


(シャンプーのボトルを押す音)


「はーい、じゃあ失礼しまーす。ごしごし洗っていくねー」


(シャコシャコと頭を洗う音)


「指の腹でごしごしごしー……」


「力加減大丈夫? もっと強くしてとか要望があったら遠慮せずに言ってね」


「ごしごしごしー……」


「どうかな? 気持ちいい?」


(シャコシャコと頭を洗う音)


「耳の後ろもごしごしごしー……」


「痒いところはありますかー?」


(シャコシャコと頭を洗う音)


「ここ? 気持ちいい?」


(シャコシャコと頭を洗う音)


「あ、この体勢だとさ、ヨシヨシし放題だね。シャンプーしながらヨシヨシしてあげる」


「ヨシヨシ、いい子、いい子」


(頭を撫でる音)


「大丈夫、大丈夫」


(頭を撫でる音)


「あんまりさ、自分のことを虐めないであげてね?」


「たまにはさ、甘えたり休んだりしても良いと思うよ? だってずっとは頑張れないもん」


「頑張ってる時も、そうじゃない時も、傍に居るから安心して?」


「ヨシヨシ、大丈夫だよー」


「そろそろシャンプー流そうか。泡が入らないように目、瞑っててね」


(シャワーの音)


「大好き」(耳元で囁く)


「ふふっ、びっくりした? 今、身体びくんってなったね」


「急に好きとか言われてびっくりした? ドキッとした? それなら作戦成功だぁ」


「……え? 仕返しだって? どゆこと? ちょっと待って!」


「やだやだっ! シャワーかけてこないでよ! Tシャツびしょびしょになっちゃうじゃん!」


「ほらー……もう、びしょびしょだよー。着替えないとー……」


「もう、おしまい、おしまいっ! 私、出るからねっ」


(浴室の扉を開ける音)


「あ、そうだ。お風呂出て、髪乾かしたら、マッサージしてあげる」

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