第62話 エンゲージメント
俺は、クリスマスパーティから帰るとお母さんが帰るのを待った。お父さんは、土曜日で朝から居る。
お母さんが帰って来るとリビングに居るお父さんにも声を掛けて
「お母さん、一通り落着いたら教えて。メアリーの事で二人に話したい事がある」
「分かった」
「分かったわ。一時間後でいいかな?」
「うん」
今日はまだ午後七時少し過ぎた所だ。十分に時間はある。
一時間程待ってからお母さんが
「和樹、良いわよ。リビングで話しましょうか」
「うん」
俺は両親が座っているソファの反対側に座ると
「メアリーの事なんだけど。…やはり俺はメアリーとエンゲージメントする。勿論、お父さんやお母さんの言っている事も分かるし、俺がまだメアリーを友達レベルでしか好きで無い事も分かっている。
でも今の俺にとって、メアリーは一番傍にいて心が落ち着く、そして楽しい女性だ。四年間の間に毎年一か月間、二人で毎日会っている事が出来る。
その時物の見方、考え方、価値観をすり合わせて行こうと思う。当然違いもあると思う。でもその中で心の共有が出来れば、十分にマリッジする事が出来ると思う。
その後は、一緒に暮らしていく上ですり合わせていくしかないと考えている。全て最初から一致するなんて無理だと思うから。
でも、もしエンゲージメントしている間に、彼女と心の共有が出来なければ、見方や考え方、価値観がいくら話してもあまりにも違うなら、残念な話だけどエンゲージメントは解消しようと考えている。
この考えは彼女には教えない。これを知ってしまうと無理矢理合わせてくる可能性もあるし、本来見なければいけない部分が隠れてしまうかも知れないから」
少しの沈黙の後、お父さんが
「そうだな。全くの他人が最初から見方、考え方、価値観が全て一緒なんて事はないし、心の共有も出来る訳ではない。
まだ、不安な所も一杯あるけど、メアリーちゃんと喜怒哀楽を一緒に出来る様になる事だ。
…分かった。和樹、メアリーちゃんとのエンゲージメントお父さんは賛成する。お母さんはどうかな?」
「私も、お父さんと同じよ。私がお父さんと結婚した時も気持ちの共有がどこまで出来ていたかなんて分からない。私達の場合は、お母さんが大分強引だったから」
「お母さん、それ言ったら」
「えっ、何か俺達と似てるけど」
「まあ、そんな所だ。それより、明日のテレビ電話にはスタンフォードご夫妻も一緒なのか。それとも来週か?」
「メアリーに連絡して聞いてみる。東部時間で午前八時だからメールになるけど」
メアリーからは直ぐに返事が返って来た。彼女のお父さんは、やはり土曜日は忙しい様でメアリーとはいつも日本時間で日曜日午前九時、東部時間では土曜日の午後八時にテレビ電話をしている。
でも明日だけは日曜日の日本時間の午後九時、東部時間で午前八時なった。だからメアリーとは朝だけ少し話をした。勿論エンゲージメントの事は言っていない。
そして、その日の午後九時にメアリーからテレビ電話が有った。彼女の両親も一緒にいる。メアリーが緊張しているのが分かる。
『スタンフォードさん、おはようございます』
『おはようございます。そちらではこんばんわですね。東雲さん』
『はい、早速ですが、息子にメアリーちゃんとの事を話させようと思います』
『お願いします』
『メアリー。君が来年六月ハイスクールを卒業したらエンゲージメントしよう』
『カズキ!』
『俺は、君が大好きだ。今一番傍に居て欲しい女性だ。ミドルの時、三年間一緒だったけど、それからは随分離れた。
この前こちらに来た時、俺は君が好きなんだなと思った。でもそれは友達としてだった。だから四年間の間にいっぱい会ってお互いの心が同じ方向を見る様にしたい』
『カズキ、同じ方向を向く様にする。絶対にする』
『でも無理して向いている振りは駄目だ。もし向かなかったらどうしたら向けるか二人でもっと考えればいい』
『分かった』
『カズキ君。少し回りくどい言い回しだな。でも君の意は汲めた。メアリーと心が同じ方向を向ける様に二人で努力してくれ』
『勿論です。スタンフォードさん』
『東雲さんはカズキ君とメアリーのエンゲージメントを許してくれているという事で良いかな?』
『はい、妻も同じ考えです』
『では決まりだ。これで東雲さんとの付き合いは永遠に続きそうですな。宜しくお願いします』
『こちらこそ宜しくお願いします』
『エンゲージリングの事等はこれから話す事にしましょう』
『そうですね』
『では、また後程』
『こちらこそ、後程』
この後、スタンフォード家では
『メアリー、カズキがエンゲージメントを受け入れてくれた。でも彼はまだ、メアリーの事を友達として大好きだと言っている。
だから四年間の間に物の見方、考え方、価値観をすり合わせて、心が同じ方向を見る様にしようと言っている。この意味分かるな?』
『はい、でも私は必ずカズキと一緒になります』
『カズキは、メアリーに一度冷静になって二人でよく考えようと言ってくれているんだ。装ったりしたら、後で大変だ。
私は彼の思いが良く分かったよ。あの子だったらメアリーを任せられる。二人で良く話す事だ』
『はい』
『しかし、マリッジの後、住まいはどっちにするんだ?こっちか日本か』
『それもカズキと良く話します』
『私は傍に居てくれた方が良いのだが』
『あなた、言っている事が変わってきていますよ』
『あはは、そうか』
東雲家では
「スタンフォードさんは、和樹の言葉の中に在った含みが分かったみたいだな。その上でエンゲージメントを勧めてくれている」
「私もそう思ったわ。和樹、メアリーちゃんと四年間の間に良く話しなさい。期待だけだけどあの子ならお母さんも賛成だわ」
「そうだな。私もそう思う」
俺はこの後、先に風呂に入らせてもらい、自分の部屋に戻った。そして寝ようとしていた時、またメアリーからテレビ電話が有った。
『どうしたメアリー?』
『ううん、何でもない。ただ二人だけの時にカズキと話したくて』
『そうか』
『カズキ、一度こちらに来れない』
『それは厳しいよ。これから大学受験の為の重要なテストがいくつか控えているんだ』
『そうかぁ。じゃあ、ハイスクールの卒業した七月に行ってもいい』
『メアリーも大学の準備があるだろう』
『私は大丈夫だよ』
『そういう事か。でもこっちの七月はまだ授業期間だ。八月がいい。俺がそっちに行くよ』
『ほんと!約束だよ』
『うん』
『カズキ、じゃあお休みだね。もう遅くなったものね』
『ああ、もう寝る時間だ。メアリーは今日はどうするんだ』
『ライブラリに行く。勉強しないといけない』
『そうか、がんばれよ』
『うん』
テレビ電話が切れた。時間はまだ一杯ある。その間にメアリーを愛する事が出来るようになるだろう。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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