第61話 クリスマスパーティ
土曜日の午後三時少し前、俺は神林達とのクリスマスパーティに参加する為、駅前のカラオケに行くと受付で彼らが居る部屋番号を教えて貰った。
その部屋に行くと浅井さん以外が集まっていた。皆可愛い格好をしている。俺は開いている入口の傍のソファに座ると神林が
「こっち、こっち」
と言って俺を手招きしてくれた。
俺の前には神林、小岩井さん、堀川、そして俺の隣には須藤さん達三人が並んで座っている。このままだと浅井さんが来ても堀川の隣になる。午後三時少し過ぎに浅井さんが来た。
「ごめんなさい。ちょっと出遅れてしまって」
「いいよ。佳織は堀川君の隣に座って」
「じゃあ、みんな集まったな。始めようか。食べ物はクリスマスセットを人数分頼んでいる。最初だけ同じ飲み物で乾杯しよう」
いつもながら神林は手際が良い。
「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」
最初は皆が持ち寄った、クリスマスプレゼントの交換。俺は女子にはハンカチ、神林と堀川にはキーケースを贈った。
「最後に東雲君からクリスマスプレゼント貰えるなんて…。嬉しいー。大事に使うね」
須藤さんらしい言葉だな。
お互いにプレゼントを渡したけど、相手が七人だったのでそれなりの量になってしまった。でもこれもいい思い出になる。浅井さんからは小さなケースを貰った。中は敢えて見ていない。
最初はカードゲーム。負けた人が一曲歌うという罰ゲームだ。絶対に負けるわけにはいかないと思ったのだけど…、三回目で負けてしまった。
流石にここで歌えないなんて言えないけど、俺が知っている曲がデンモクの中に入っていない。
仕方なくちょっと古いけどミドルの時、皆で歌った歌をアカペラで披露したら、他の人が目を大きく開いて口を開けて驚いていた。
「東雲、お前凄いな。やはりお母さん譲りか?」
「いや、お母さんは歌わない」
「でも上手いというか、音域が広くてちょっと驚いた」
「向こうで皆で歌っていた歌なんだ」
「凄い!」
東雲君がこんなに歌が上手いとは知らなかった。はっきり言って胸が痛い。
その次は浅井さんが負けた。彼女が歌ったのは、日本でも有名な女性歌手で花の名前が付いた歌だ。滅茶苦茶美味かった。
ゲームも一通り終わった時、
「飲み物交代で取りに行こうか」
「そうだな」
「神林達先に行ってくれ」
「了解。行こうか」
俺達の前に座っている四人、神林、小岩井さん、堀川、浅井さんが先にドリンクサーバーに行った。
彼らが、行った事で静かになってしまった。このメンバーならいいだろう。ちょっと須藤さんに聞いてみるか。須藤さんはポテトフライを噛みついていたけど
「須藤さん、相談に乗ってくれるか?」
手で口の中が綺麗になってからと手で合図した後、ジュースを飲んでから
「いいよ。なに?」
「こんな事聞けるの須藤さんだけだから。人を愛するってどういう事」
須藤さん、早瀬さん、加藤さんが目を丸くした。須藤さんが
「また、凄い事聞いて来るなぁ。残念だけど私、恋愛経験ないんだ。あっ、多佳子と恵子は、あるでしょう」
「あるといってもなぁ、もう付き合っていないし」
「私も。でも東雲君、人を愛するって、経験少ないけど…相手と感情や物を共有していたいと思う気持ちかな。価値観とはちょっと違う」
「そうだね。私が別れたのも自分の思いや幸せが相手と同じだと思っていたから。だから違うと思った時、ちょっと覚めちゃった」
「東雲君、こんな質問するって、誰か…」
ガチャ。
「今度は東雲達行って来いよ」
「分かった」
俺は須藤さん達とグラスを持って部屋の外に出てドリンクサーバに向かいながら
「須藤さん、俺、人を愛するって、今さらながらどういうことなのかなって思ってさ。今迄の事考えると全然分かんなくなってしまって」
「そっか、無理ないよね」
ドリンクを入れ終わると部屋に帰りながら
「東雲君、こんな事聞くのは失礼だけど、対象者が現れたの?」
「まあ、それで悩んでいる」
「でも、例え大学が違っても私達三人とはこれからも友達だよね」
「ああ、宜しく頼むよ」
「「「うん!」」」
東雲君が変わった。こんな風に私達と話すなんて、前じゃあ考えられなかった。今の質問は浅井さんではない。やはりUSの友達?
私、浅井佳織。せっかく花蓮がセットしてくれたこのパーティを上手く生かす事が出来ない。でもここで焦っても今迄と同じになるだけ。彼の近くに居られるだけでも良しとしないと。
俺達が部屋に戻ると神林が
「東雲、須藤さん達、せっかくだから場所替えしようか」
「うん、いいよ。堀川君と話したいな」
「「私も」」
「堀川、遂にモテ期か?」
「神林、今だけだって」
東雲君達がドリンクサーバに行っている間に考えた位置替え作戦。堀川君と東雲君が入れ替わった。東雲君は私の傍に来た。
最初何も話さなかった彼が、
「浅井さん、もう少しだけどクラス委員、最後までやり通そう。後…。偶には笑って話そうか」
「えっ?!」
「佳織、返事は?」
小岩井さんが聞いて来た。
「う、うん。三学期は自由登校が始まるけど、上手くやって行きましょう」
「そうだね」
彼が新しく持って来たグラスを持って私のグラスに近付けた。
「あっ、ちょっと待って」
私もグラスを持つと二人でカチンってやってお互いにジュースを飲んだ。これはどう考えて良いか分からない。
でも彼が今迄とは違う接し方を望んでいるという事。よく考えなさい佳織。今直ぐに前の様に戻っちゃ駄目。
でも、それからはあまり話も進まなかった。須藤さん達と堀川君の会話がとても楽しそうで羨ましい。
浅井さんとは、もう会う事も無いだろう。大学は同じになったからって早々会う訳じゃない。今迄のせめてもの俺の気持ちだ。
その後、午後六時に解散となった。私は東雲君に声を掛けたかったけど止めることにした。今のバランスを崩したくない。
帰りは一人。花蓮は神林君と一緒にどこかに出かけた。堀川君や須藤さん達はバラバラに帰って行った。学校はまだ来週いっぱいある。後、三学期も少しの間は毎日登校だ。何とかしたい。
さて、明日は日曜日だ。今日中に両親に俺の気持ちを話さないと。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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