第58話 メアリーのお父さんからの提案その二
スタンフォードさんから十月に入って最初の日曜日午後八時に連絡が有った。US東部時間では午前七時だ。少し早い。スクリーンにはメアリーとお母さんも一緒に映っている。
『東雲さん、おはようございます。そちらではこんばんわですね』
『スタンフォードさん、こんばんわ。そちらでは大分早い時間では無いですか?』
『いえ、娘の大事は話です。東雲さんにご迷惑掛けない様にこの時間にしました』
『お気遣いありがとうございます』
『連絡したのはメアリーから聞いた話についてです。カズキ君がスタンフォードに来ないと言うのは私も大変残念だが、家族の事を考えれば正しい判断です。
その上で、メアリーからは毎年交代で夏休みに一か月間メアリーがそちらにステイする、その次はカズキ君がうちにステイする約束をしたと聞いています。間違いないですか』
『間違いありません。私も同じ事を和樹から聞いています』
『話を聞いた時は流石に驚きました。いくら東雲さんの家とはいえ、まだ十八の娘を一人で一ヶ月も日本に行かせるには流石に不安がある。
私は最初その案に反対したのですが、娘が許してくれないなら家出してカズキ君の所に行くとまで言い出してね。親として恥ずかしい話です。
ですが、そこまでメアリーがカズキ君の事を思っているならメアリーがハイスクールを卒業した段階で娘とカズキ君をエンゲージメント出来ないかと思った次第です。
これなら一ヶ月そちらにステイさせても私も安心だ。この提案いかがだろうか東雲さん』
『スタンフォードさん、ステイの件は喜んで受け入れますが、息子とメアリーちゃんのエンゲージメントについては息子がどう思うかです。カズキどうする』
いきなりエンゲージメントを言われるとは。やっぱりメアリーらしいな。
『スタンフォードさん、メアリーと話していいですか?』
『勿論だ』
メアリーがスクリーンの真ん中に来た。
『カズキ…』
『メアリー聞いてくれ。俺はメアリーの事が大好きだ。メアリーの気持ちもとても嬉しい。でもそれは友達としてだ。理由はこの前話した通りだ。
メアリー、時間をくれないか。よく考えたい。君も夏にこちらに来た事で気持ちが高揚している事も有ると思う。
少し時間を置いてお互い冷静に考えよう。勿論、夏休みお互いに行き来したいと思っている。
でもエンゲージメントそしてマリッジは一生の事だ。一時的な感情でするもではない』
『カズキ、私は…』
『メアリー、カズキ君の言う通りだ。私も彼の意見を尊重したい』
『パパ…』
『東雲さん、カズキ君。確かに一時的な感情でするべきことでは無い事は分かる。だが、娘の気持ちも汲んで欲しい。だから返事する期限を決めてくれないか?』
『カズキどうする?』
『スタンフォードさん、分かりました。三ヶ月下さい。今年中には返事をします。エンゲージメントを前向きに考えます』
『カズキ…』
『そうか、そう言ってくれるか。メアリーもこれで良いか』
『カズキがそう言うなら私も我慢する。でもカズキ、お願い。毎日とは言わない。でも毎週一日はテレビ電話させて。お願い』
『メアリー。分かった。毎週日曜日にそうしようか』
『うん』
『東雲さん、メアリーも納得したようだし、これでどうですか?』
『私の方には異存ありません。お母さんもいいだろう?』
『はい、カズキの思いを尊重するわ』
『東雲さん。長い時間話をして申し訳なかった』
『いえ、こちらこそ。それではまた後日』
『はい、こちらこそ、また後日』
この後、スタンフォード家では
『メアリー、これで良かったのか?』
『本当は直ぐにでもカズキとエンゲージしたかった。でも彼の言う事も分かる。だから我慢する。絶対彼はイエスと言ってくれるはずだから』
『お父さんもそれを願うよ』
そして東雲家では
「カズキ、本当にあれで良いのか。どう見てもスタンフォードさんとメアリーちゃんは、イエスという返事しか待っていない様だけど?」
「メアリーの事は嫌いじゃない。むしろ大好きだ。だから友達からエンゲージメント出来る気持ちになるまで時間が欲しかった。
三ヶ月というのは年という区切りが一番いいかなと思って。来年のいつとなるとピリオド決めるの難しい」
「私は、和樹によく考えて欲しい。メアリーちゃんはいい子よ。それは知っているわ。でも結婚となると話は変わるわ。勿論エンゲージメントした後で解消という事も有るだろうけど、そんな事はお互いにとってマイナスしかないし」
「良く分かっている。だから考えたいんだ。俺がメアリーにとって相応しい人間か」
「和樹…」
次の週の火曜日に模試が有った。重要な模試だ。これでほぼ志望校の判定が出来る。次の日からは来週から始まる二学期の考査ウィークが始まった。
二学期の中間考査は内申に影響するからしっかりと準備して臨むつもりだ。中間考査の前は三連休だ。
メアリーはなんとこちらの日曜日午前七時に電話して来た。流石に早すぎるだろうと言ったのだけど、俺と話したい、俺の顔を見たいという事で掛けて来たらしい。
二時間も楽しい会話が出来たのは良かったけど、お陰で朝食が随分遅れてしまった。だから彼女にボストン時間でせめて土曜日午後八時にしてくれとお願いした。
翌火曜日から金曜日まで中間考査が有った。そして翌週火曜日に成績順位発表が有った。
結果は勿論一位。でも浅井さんが十点差で三位に転落している。どうしたんだろう。
神林や小岩井さん、須藤さん達はいつも通りだが、佐那はもう成績順位表には載っていない。当然だろうな。
私は、東雲君から厳しい事を言われて以来、自分のモチベーションを維持できなくなっていた。
彼とはクラス委員として一緒に仕事をするけど、彼は完全に事務的な態度しかとらない。私が冗談を言っても笑顔一つ見せない。むしろ必要最低限の接し方しかして貰えない。
これが精神的にダメージが大きくて、彼の事ばかり考えてしまい勉強もあまり夢中になれなかった結果がこれだ。これでは不味い。本当に不味い。
須藤さんや小岩井さんとは笑顔で楽しそうに話をしているのに私にだけ厳しい。せめて彼から優しい一言でも掛けて貰えれば。
翌週月曜日、十月最後の週の月曜日、この前の模試の結果が帰って来た。志望大学はA判定だ。学校の成績と大学共通試験で一次選抜が有るが問題ないだろう。
そして、十月最後の日に三年生最後の模試が有る。これでもA判定なら問題はない。
私は十月の最初に有った模試の結果、帝都大理学部はB判定となってしまった。やはり勉強に集中できない事が大きい。
東雲君。せめて一言でもいい、優しい言葉を掛けて。そうすれば最後の模試、何とか出来るから。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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