第57話 メアリーと決めた事

 

 俺は午後十時にメアリーに連絡した。

『メアリー』

『あっ、カズキ』

『今いいか?』

『勿論』

『メアリー、俺はスタンフォード大学には行かない。日本の大学に入学する』

『えっ!そんなぁ』

 カズキがこっちに来る事を拒んだ。何故?私が嫌いなの?


『カズキ。私が嫌いだから来ないの?』

『勘違いするな。メアリーの事は大好きだ。勿論友達としてだけど。メアリー聞いてくれ。知っておいてほしい事が有る』


 そう言った後、少し考えてから如月さんの事、八頭さんの事、上条さんの事を話した。その上で浅井さんからも言い寄られている事を。


『カズキ、たった二年でそんな事になっていたなんて知らなかった。ごめんさない。私が言っている事って今のカズキにとっては迷惑な事だよね』

『そんな事は無い。でもメアリーの事、気持ちが友達以上に乗り越えられないのは大きく影響していると思う』

『カズキ、私は彼を作った事なんかない。それが本当だという事は、恥ずかしいけど…。体で証明できる。


 勿論、私の友達の多くは、軽い気持ちでする子もいるけど私はそんな事はしない。嘘だったら、その場で拳銃で頭を打ち抜く』


『メアリー…。そこまで大袈裟に考えなくていいよ。でも気持ちは充分に分かった。後もう一つ大事な事が有る。


 俺の家族は俺と両親だけだ。俺がそっちに行けば両親だけになる。勿論俺も両親から離れる事になる。


 今はテレビ電話とか色々有るけど、やはり親の傍で暮らすのとそっちでステイするのは違うよ。例えスタンフォードさんの家でも。メアリーも逆の立場なら同じだろう』


『私ならそっちに行く』

『今は良いけど時間が経つにつれて両親が恋しくなる。家の雰囲気が恋しくなる。だから大学生までは両親の下で暮らすのがいい』

『それではカズキに会えない』

『こうしよう。メアリーは学校が休みになったら、うちにステイすればいい』

『カズキは来てくれないの?』

『俺も夏休みになったらメアリーの所にステイする。毎年交代でそれをすればいい』

 この間に二人の気持ちもはっきりするだろう。


『分かった。分かったけど…カズキに会えないのは寂しいよ』

『それはテレビ電話にしよう』

『そうだけど…。お父さんに相談する』

『それがいい。俺も両親に提案してみるよ』

『じゃあ、お休み』

『お休みなさい』


 スマホのテレビ画面が消えた。最善の譲歩だろうな。これ以上は出来ない。しかし、両親に今の考え言わないと。それに一ヶ月も来てメアリーどうするんだ。俺が居ないとどうにもならないだろうに。



 私はカズキからの連絡を受けた時、スタンフォードに来るという返事しか頭になかった。

 だから彼の返事はショックだった。でも彼の言う通りだ。家族の仲を裂くような事は出来ない。


 でも彼との仲をもっとしっかりしたものにしたい。だってカズキモテるから向こうの大学に居る間に誰かに掴まってしまうかも知れない。



 俺は、次の朝、両親に俺の考えを言うと

「うちは全く構わないが、スタンフォードさんがそれを許すかな?」

「メアリーがスタンフォードさんと話すと言っている」

「それ待ちかな?」

「でも、メアリーちゃんそれで納得いくかしら?」

「どう言う意味?」

「それは、あの子からもう一度連絡来たら分かるんじゃない」

 女の子だもの。心配だわよね。




 俺は、朝食を摂った後、学校に向かった。もうすぐ十月だ。入ればすぐに模試が有って、その後中間テストだ。色恋の話題なんかに気を回している暇はない。


 いつもの様に教室に入ってバッグを机の横に引っ掛けると須藤さんが

「おはよ、東雲君。随分整理出来たみたいね」

「ええ、須藤さんのお陰です。ありがとうございます」

「ふふっ、良かった」


「ところで早瀬さんと加藤さんには?」

「肝心な事は一切も言って無いから安心して」

「その言葉信じておきます」


「おはようございます、東雲君」

「おはようございます。浅井さん」

「今日少しお話できませんか?」

「お昼休み、昼食後なら」

「分かりました」


 その後はいつもの様に神林、小岩井さん、堀川と挨拶した。見ると上条さんは、まだ登校していない。



 少しして予鈴が鳴って担任の田村先生が入って来た。開口一番

「上条さんは、本日より一週間の停学になります」


 ざわざわざわ。


「理由は、皆さんもご存じの通りです。どの様な理由が有っても暴力を振るう事は絶対に許されません。皆さんも肝に銘じる様に。それでは他の連絡事項です。…」



 田村先生が教室を出て行った後、浅井さんは下を向いていた。周りの視線が痛かったからだ。


 あの件は一方的に上条さんだけが責任あるとは俺も思えない。そもそも浅井さんがあんな事を言わなければ良かったんだ。


 いくら浅井さんが感情的になったとしても上条さんと俺の事は彼女には関係ない。それを上条さんに手を挙げるまでにさせたのは、浅井さんの責任だ。



 昼休みになり、浅井さんが声を掛けて来た。

「東雲君、昼食後にお願いします」

「分かりました」


 流石にこの前の様な事は無く、俺も学食でさっさと食べた後、教室に戻ると浅井さんも食べ終わった所だった。小岩井さん達と一緒に食べていたから朝の事は気が紛れているだろう。


「浅井さん」

「はい」


 俺は彼女を校舎裏の花壇の前のベンチに連れて行った。幸い先客はいなかった。俺が黙っていると

「東雲君。私には相談してくれないのですか?」

「何の事ですか?」

「金曜日、須藤さんに言った事です」

「ああ、もう済みましたので」

「そうでは無くて、何故相談相手が私ではなかったのかという事です」

「浅井さん。どういう考えであなた自身が僕に対して特権的な立場と考えをしているのか分かりませんが、今のあなたは相談する相手ではない。それだけの話です」


 上条さんの事が、尾を引いてしまったのかしら。でもこんな言われ方するなんて。


「話しはそれだけですか?」

「あの、もし宜しかったら、受ける大学と学部教えてください」

「なんでそんな事聞くんです。俺が何処の大学に行こうが俺の勝手でしょう。あなたも自分が目指す大学に行けばいい」


 いきなり、浅井さんがベンチに頭を付けて来た。

「お願いします。私はあなたと一緒の大学、学部に行きたいのです。私はあなたの事を…」

「あなたに言う必要は…」


「お願いします」

 仕方ない。

「目標は帝都大理学部です。でも合格するかなんて分からないですよ。それだけです」


 彼が行ってしまった。大学と学部は想像通りだったですけど、彼の私に対する感情は思った以上に酷くなってしまったみたいです。せっかく文化祭の打上の件で少し近付いたと思ったのに。


 教室に戻ると須藤さんが心配そうな顔で俺を見ていたけど、気に留めずに机に座って次の授業の教科書をだした。


 東雲君が浅井さんとの話が終わって帰って来た。朝はスッキリしていた顔が、また曇っている。どんな話をしたんだろう。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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