第56話 もう時間がない

 

 俺は須藤さんと土曜日、午前十一時に学校の最寄り駅の傍にあるファミレスで会った。

 彼女は、白の長いスカートと水色の半袖ブラウスで肩にフリルの付いている可愛い格好をしていた。学校の制服姿とは随分違う。


「須藤さん、可愛いですね」

「そ、そうですか。そう言ってくれると嬉しいです」

 昨日は今日の洋服選びに時間かかったから、その甲斐が有ったな。


 俺達は店員に案内されて席に着くと

「お昼兼ねているから注文しようか」

「うん」


 おれは、ハンバーグステーキセットとドリンクバー、須藤さんはラザニアとドリンクバーだ。店員に注文した後、二人でドリンクバーに行った。戻ってから


「東雲君、塾はどうしているの?」

「うん、そこの桜井塾」

「えっ、早く知りたかったなぁ。私反対側のビルにある蒼井塾だよ。慶子も多佳子も同じ。何のコースなの?」

「国立難関コース」

「はぁ、やっぱりなぁ。私達は普通の国立コースだよ。同じ塾でも一緒になれなかったな」

「大して変わらないよ」

「全然違うって」


 そんな話をしていると注文の品が届いた。それを食べながら

「須藤さんに聞いて貰いたいのは、大学の事」

「えっ、帝都大に行くんじゃないの?」

「うん、最初は、帝都大の理学部に行って、もう高校の人間関係を全部切って、新しい人達と新しい環境でキャンパスライフを過ごそうと思っていたんだ」


「高校の人間関係を全部切ってかぁ。寂しいなぁ。でもそれって、如月さん、八頭さん、上条さんとの事が有ったからでしょ。分からないでもないけど…」

「理由は言われた通りだよ。もう高校生の間は恋愛はしないと決めたんだ」

「でも浅井さん、君の事諦めないよ」

「あの人には、付き合わないとはっきり言っている」

「言って分かるほど、恋愛感情は簡単じゃないよ」

「詳しいね」


「こう言っては何だけど、私はあの人達に絡まっていないから冷静に見れるんだよ。それに浅井さんなら東雲君と同じ大学同じ学部に行くんじゃないの」

「言わなかったら分からないさ」

「それは、甘い。どこかでバレるよ。でもこれだけだったらそんなに悩まないよね。他に何か有るの?」

 凄いなこの子。やっぱり人の心読めるのかな?


「読んでないから」

 やっぱり読んでるじゃないか。


 一度フォークとナイフを手から離して水を飲むと

「ミドルに居た頃知り合った女の子が八月の初めにお父さんの仕事で一緒に日本に来たんだ。一週間の予定だったけど滞在終わり近くになった時、同じ大学に行こうと言われて」

「同じ大学?」

「うん、スタンフォード大学」

「ス、スタンフォード大学…。って帝都大より全然上じゃない。それにうちの高校からでは受けられないよ」


「うん、その子のお父さんはスタンフォード大学の理事長」

「えっ、り、理事長!そういう事か。東雲君一人なんてどうにでもなるんだ。しかし、また凄い所だな。だから悩んでいるのか。向こうに行けば日本の事なんて皆無くなるものね」

「うん、それにスタンフォードには、ミドルの時の友達も何人か行く予定になっているから、良いかなと思って」

「そうか、そういう事か。それで悩んでいるんだ」

「うん」


 それから少しの間、黙って二人で残っているランチを全部食べた。そしてもう一度二人でドリンクバーに行ってお代わりをしてくると


「東雲君、私個人的には日本に居て欲しいな。例え大学が違ってもやっぱり、君の様な素敵な友達が日本にいるなんて嬉しいから。


 でもスタンフォードに行くのが正解かも。浅井さんはあなたの事を諦めない。あなたが何処に行こうとも必ず付いて行く。


 でもそれはそれで素晴らしい事だけど。私ね、浅井さんて、いままでずっとフリーだと思うの。何でこんな事言っているかというと、あれだけ好きな人に一生懸命になれるなんて羨ましいなと思うから。


 私だって東雲君と付き合えたらどんなに嬉しい事か、私だけじゃないわ。でも私は色々な事で打算的になってしまう。


 だから君には迷惑な女の部類。でも彼女は違うわ。君を一途に愛してくれる。君を大切にしてくれる」

「……………」


 驚いたな、自分の事を置いておいてこれだけ人の事を考えるなんて。でもだから俺はあの人が信用できない。


 一途なほど、少しでも方向がずれたら、裏切られる可能性が高い。こんな人じゃなかったとか言って。


 打算的な人の方が余程いいかもしれない。勿論二股は嫌だけど。でも俺はもう恋愛はいい。


「なんか、見えた?」

「うーん、まだだけど、話す前よりスッキリしたよ」

「そう、それは良かった。でもこれっきりかぁ東雲君と一緒にお昼食べれるの」

「ごめん。せっかく相談に乗って貰ったのに」

「いいよ。一回だけでも嬉しかったから」



 翌日日曜日は、一人で考えた。USに行くにはもう一つの大きなハードルがある。それは両親と別れてしまう事だ。


 両親にとって子供は俺一人。それは俺にとっても同じ事。いくらスタンフォードさんの家にステイ出来るからって、やはり他人の家だ。無理かな。



 俺は、夕飯の時、両親に俺の考えを話した。

「そうか、和樹がそう考えるならお父さんは何も言わない。でもメアリーちゃんの気持ちはどうするんだ?」

「それは…」

「あなた、それは二人で話す事よ。ところで和樹はメアリーちゃんの事をどう思っているの?」

「まだ、仲のいい友達って所。メアリーの気持ちは嬉しいけど、俺が彼女の事を好きになるかは別の話だよ。とってもいい子だし、可愛い我儘でもあるから好きと言われれば嫌な気はしないけど」

「では、二人で話してみる事ね。和樹の気持ちも正直に言うのよ」

「分かっている」


 US東部時間で、もうすぐ日曜日の午前九時になる。そうしたら彼女に連絡してみるか。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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