第54話 文化祭は思いもかけぬ事が起こる

 

 俺達のクラスの文化祭の催し物が決まった。なんと一年の時と同じシンプルな喫茶店をする事になった。


 クラスの中にケーキ屋の息子が居て、市販より安く調達できるというのだ。そして知合いの喫茶店からコーヒー豆の購入を条件でコーヒーサーバ一式を二セット借りれるという。ジュース等はスーパーで購入出来る。


 教室内の装飾以外当日の手間はあまりかからない。火も使わないという事で決まった。

 しかし放課後、数日は内装準備に取られる為、クレームをつける奴もいたが多数決で決まった。


 俺の担当時間は午後二時から午後四時までだ。バックヤードに六人、フロアを六人でやろうという事になった。多いようだが、二時間なのでお互いに休憩しながら出来るからいい。


 俺のグループは、神林、小岩井さん、須藤さん、加藤さんが含まれている。浅井さんが居るグループには沙耶もいるので仲良くやってくれると良いのだが。



 飾りつけは皆で手分けしてやろうという事で、どの位置にどんな飾りつけをするか決めて壁の飾りつけを作った。お陰で四日ほどで何とか作る事が出来た。


 それ以外は、前日の準備で終わる。俺は例によってプラカードを首から付けて回る事になっている。そして相手はなんと浅井さんだ。

 現実を見れば正しい判断だろう。浅井さんは何と言っても学内一の美少女だ。



 ここ迄は良かった。だけど、家でその事を話すとお母さんが

「和樹の高校最後の文化祭か。お母さん行って見たいな」

「えっ!でもいいの?」

「和樹も学校は今年いっぱいと来年少しでしょ。行きたいなぁ」

「和樹、お父さんは一年の時行っている。良いんじゃないか」

「お父さんは?」

「一緒に行こうか?」

 あと少しとはいえ、クラスの子に俺の家族構成を知られるのは…。どうなんだろう。でもお母さんを知られたからって別に何も無いか。


「分かった。いいよ」

「ほんと!じゃあ、あなた、午後一時でどうかな。三十分位なら調整出来るわ」

「分かった。日曜日だから私はいつでもOKだ」

「その時間、俺は担当じゃないから大丈夫だ」

 という事でお母さんが来る事になった。



 文化祭当日は学内の生徒だけだ。例によって、生徒会長の開始の放送で始まった。午前十時半から俺と浅井さんは首からプラカードをぶら下げて校内を一通り回った。


 今年も声を掛けられたが下級生からなので、聞き方も丁寧だ。俺だけでなく浅井さんも随分声を掛けられていた。一番多かったのが何時に居るのかだ。流石浅井さんだ。


 帰って来てから簡単にお腹を膨らました後、浅井さんは午前十二時からの担当に直ぐに入った。


 プラカードの効果か、お客の入りは徐々に増えて来た。丁度お昼時という事もあり、受付の列は十人以上になっていた。お陰で浅井さんは休む暇がない。ちょっと可哀想だけど。仕方ない。



 午後二時になり俺の担当になった時は、受付前が二十人近い列をなしていた。そして俺も休む暇がなかった。他の人は交代で休んでいたのに。



 翌日は日曜日。生徒関係者の人達も入って来る。そして俺の両親も来る。午前十時生徒会長の開始の放送で校門から一般の人も入って来た。


 午前十時半から浅井さんとプラカードを首から下げて校内を歩いているのだけど、一般の人から声を掛けられて昨日より時間が掛かってしまった。


 お陰で浅井さんが参加出来たのは二十分遅れになったけど。そして午後一時十分前に俺は校門の所で両親を待った。



 少しして黒塗りの車が停まった。お母さんのマネージャ鳥居さんに送ってもらったようだ。二人が降りて来ると、周りの人がえっ?って顔をしている。まあそうなるよな。


「和樹、来たわよ」

「うん、二人共ついて来て案内するから」

「和樹のクラスに最初行って見たいな」

「分かった」



 昇降口で来客用のスリッパに履き替えて貰って3Aのクラスに連れて行くのだけど、校門から昇降口までだけでもお母さんに驚いている。


 そして生徒は俺がお母さんの傍を歩いているから、小声で何か言っている。まあこうなるかな。


 廊下には随分生徒や一般の人が居るのだけど皆驚いた顔をしている。それを無視して

「着いたよ。並ばないといけない」

「仕方ないわね」

 

 俺と両親が一緒に並んでいると


-ねぇ、あの人って北川塔子さんよね。

-傍の生徒って3Aの東雲君よね。

-そっくり。まさか?!


 はぁ、こうなるよな。そして順番が来て受付の子に俺が声を掛けると

「あっ、東雲君」

「両親もいるんだ」


 受付の子が両親の顔を見ると…口を開けたまま固まってしまった。

「あの」

「あっ、はい。さっ、三人分ですね」


 教室の中に入ると3Aの担当だけでなくお客さん迄が一斉に俺達を見た。


-きゃあ。北川塔子よ。

-傍に居るのって東雲君だよね。

-そっくり。まさか?!

-東雲君のお母さんって、北川塔子!!

-だからあんなに綺麗な顔しているんだ。

-はぁ。遅かったあ。

-まだ間に合う。

-うんうん。



 東雲君がご両親を連れて来た。私はご両親にも挨拶しているから知っているけど。まさか文化祭に連れてくるとは。

 皆が彼のテーブルに行く事を躊躇っている内に私は直ぐに動いた。


「いらっしゃいませ。ようこそ私達のクラスに来て頂きました」

「あら、あなたは、確か思井沢で会った…」

「ああ、そうだな。確か浅井さんと言ったっけ」

「はい、覚えていてくれてとても嬉しいです」

「そう、和樹と同じクラスだったのね。これからも和樹の事宜しくお願いしますね」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


 私は、三人の注文を聞いた後、黒いカーテンで仕切られたバックヤードに行って注文を伝えたんだけど堀川君から


「浅井さん、後で色々教えてね」

 何て言われたので、

「今は、文化祭に集中しましょう」

 と返しておいた。


-ねえ、どういう事?

-なんで浅井さんが東雲君のご両親と面識があるの?

-これは後で聞かないと。

-絶対だわ。


 私、上条佐那。まさか、和樹のお母さんがあの北川塔子とは。彼の家に行けなかったのはこういう理由が有ったんだ。


 和樹は私に自分のお母さんが芸能人だという事を知られたくなかったんだ。でももし知っていたら、喜之助とはもっと早く別れていたのに。


 それに黒髪女が和樹の両親と既に会っていたなんて。悔しい。本当に悔しい。でももう何もかも遅いんだ。


 あの女が教室の中で私の事を罵倒して以来、今まで話していた子達も私を軽蔑するような顔で話もしてくれなくなった。あの女があんな事さえ言わなければ。



 お母さんは、文化祭に来れた事が余程嬉しかったのか、この後もお父さんと楽しそうに話をしていた。そして


「あら、こんな時間になってしまったわ。校内も見て回りたかったけど仕方ないわね」

「三十分じゃ、仕方ないよ。この後仕事なんでしょ」

「うん、スタジオ収録だからそんなに遅くはならないわ。夕飯は一緒に食べれるわよ」

「分かった」


 俺は、両親を校門まで送って行き、鳥居マネージャの車が走り始めると校舎に戻ったのだけど、なんか俺を見る生徒の目が何か違う感じがする。気の所為かな。


 もうすぐ交代の時間だ。教室に戻ると小岩井さんが

「東雲君のお母さんがあの北川塔子だとは。だからそんなに綺麗な顔しているのね。納得したわ」

「あまり他言しないで下さい」

「何言っているの。もう学校中に知れ渡っているわよ」

「えっ?!」

「東雲、この後の担当大変になるぞ」


 覚悟するしかないな。受付を見るともう三十人近い人が並んでいる。そして担当が始まると一年の時と同じように注文が俺の所に集中した。


 他の生徒が注文を取りに行っても俺が来るまで待つと言っている。回転が悪くて仕方ない。


 午後四時の終りの時間にはもう体がくたくたになっていた。


 そして、生徒会長の終了の放送と共に高校生最後の文化祭が終わった。文化祭実行委員が生徒会に売上報告をしてくると今年も売上高一位だそうだ。


そしてこの後、礼によって文化祭の打上がある予定だったが、流石に今年は行かなかった逃げた。どうなるか分からないからな。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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