第51話 江戸神宮は何の神様
『カズキ、今日は何処に連れて行ってくれるの?』
『江戸神宮という所だ』
ここは広く色々と見る所も多い。それにゆったりとしていてベンチも多い。カフェもある。あの話をするには最適な場所だ。
俺達はホテルから山宿駅まで行った後、駅前から南参道に入った。のんびり歩きながら最初にミュージアムを見た。メアリーが日本の伝統は凄いなと言って驚いていた。
その後、本殿に向かいながら
『メアリー、みんな元気か?』
『うん、ジュリー、アンソニー、それにヨコミチやカツラもみんな元気だよ』
今、メアリーが言った名前は俺がミドルに居た頃に知り合った仲間だ。みんないい奴で俺が理解出来ないでいると分かるまで丁寧に教えてくれた。
みんなでウォルサムにある湖に出かけて誰と誰が一緒にボートに乗るかで揉めた事も有ったな。懐かしい限りだ。
『今回、私が日本に来ると言ったら、絶対カズキの写真撮って来てくれだって』
『そうか、じゃあ撮らないとな』
『うん、バックがメジャーな建物なんか良いね』
『じゃあ、次の本殿の所で撮るか』
門を潜って本殿に来ると結構な人が居た。やはり外国人が一杯いる。
『カズキ、ここは誰を祭っているんだ?』
『日本の皇族さ』
『ふうん。凄いものだな。日本は神でも無い物を祭るのか』
『日本人にとって、その当時は神の様な人だよ』
『ジーザスの様な?』
『少し違うけど。それより写真を撮ろう』
これ以上、日本の天皇制を説明しても余計混乱しそうなので話をここで終わりにした。
ここでもスカイタワーの時の様に、また俺が腕を伸ばして二枚撮った。
『カズキ、一人も撮るよ』
『ああ、頼む』
俺が真面目な顔をすると
『もっと笑顔』
『分かった』
『そうそう』
ふふっ、これスマホのロック画面にしようっと。
勿論、メアリー一人の写真も撮って、お互いが撮った写真をスマホで交換した。
俺達はその後、本堂と神楽殿を見学した後、宝物殿の方まで行ってぐるっと回って最初の場所に戻って来た。丁度テラスもある。
『メアリー、少し休もうか。軽食もある』
『うん』
冷たい飲み物とケーキを注文した後、
『メアリー、昨日言われた事だけど…』
『うん』
『今直ぐには答えられない。理由は言えない。勿論、メアリーやスタンフォードさんが言ってくれている事はとても嬉しい。でも今の俺の頭の中にはメアリーの気持ちに応えられない物があるんだ』
『応えられない物?彼女とかいるの?』
『彼女はいない』
メアリーに過去三人の汚い事なんて言える訳がない。その結果として女性不信に陥っている事も。
本当はこちらの大学に入ってから新しい人間関係を作るつもりでいた。
確かに向こうの大学に行けばメアリー以外の人間は見知らぬ人間ばかりだろう。俺の思いとは一致するが…。
カズキは彼女はいないと言った。では何に悩んでいるんだろう。彼が日本に戻ってまだ二年しか経っていないのに。何か有ったとしか言いようがない。
家族関係は上手く行っているし、残るは学校生活の事しかない。でも私からは聞けない。彼が話してくれるまでは待つしかないか。
『カズキ、日本の高校は来年三月で終わるんでしょう。私は来年六月まである。その後一緒にスタンフォードに行こう。そして二人で会えなかった時間を埋めようよ。そうすれば…』
『ごめん、メアリーの思いは良く分かった。でも今は答えられない』
『今のハイスクールで何か有ったの?』
『今、言えるほど心が落ち着いていない』
『やっぱり。分かった待つよカズキ』
やはり学校で何か有ったんだ。たった二年で彼をこんな風にする学校なんて……。
『カズキ、明日までだね。こうして会っていれるの』
『そうだな』
『本当はもっと居たいけど…』
『俺も残念だけど仕方ない』
『カズキ、…急がせる気はないんだけどあなたの気持ち少しでも早く知りたい』
『分かっている。だからもう少し待ってくれ』
『うん』
俺達は、テラスで一時間程休んだ後、そのまま裏参道を渋山方向に歩いた。色々なコンセプトのショップが並んでいたけど彼女はあまり興味を示さなかった。
というか心がそっちに行ってない感じがした。多分、さっきの事が心に引っ掛かっているのだろう。
緑山通りに出て近くで少し遅くなった昼食を摂った後、
『メアリー、俺もこちらに戻って来て二年。これ以上メジャーな観光スポットは知らないんだ。郊外にもあるのだろうけど行った事無いし』
『いいよ。近くにミュージアムとか無い?』
『ちょっと待って、調べてみる』
俺はスマホで検索して見ると、庭園美術館が在った。丁度有名な皇族の屋敷の公開もしているらしい。画面を見せて
『メアリー、これなんかどうだ?』
『素敵ね。行ってみようか』
ここから電車で十五分位だ。駅から降りても十分もかからない。説明書きは全て日本語と英語の併載だ。そこにメアリーを連れて行くと
『この人達、さっき行った神宮の人と関係あるんだ。素晴らしいわ。日本の皇族という人達はこういう素敵な生活をしていたのね』
『ああ、でもこの人達は日本の中でも特別な人達だよ。だからこうして住まいや調度品を公開しているのさ』
ゆっくりと見た所為か、邸宅内を見ただけでも一時間半もかかってしまった。この後庭園内を二人で歩いていると
『カズキ、あなたがもしスタンフォードに来ないとすると何処の大学に行くつもりなの?』
『スタンフォードの話が無かったら、帝都大の理学部に行くつもりだった』
『もし、もしだけど、カズキがスタンフォードに来ないなら、私が帝都大に入学する』
『メアリー、それは簡単な事じゃないというかハードルが高すぎる』
『大学のレベルなら…』
『メアリーの学力の事は言っていない。生活環境だよ』
『カズキのホームが有るし、カズキがいる。それにカズキだってミドルを三年間居れた』
『俺の時は皆が助けてくれた。でも大学ではそうはいかないし、君は特別な学部になってしまう。俺と一緒に居る事は出来ないよ。
メアリー。だからもう少し待ってくれ。俺の気持ちがはっきりするまで。それからだって遅くない』
『分かった』
スマホの時計を見るともう午後五時を過ぎていた。俺はそのままメアリーをホテルまで送って行くと自宅に戻った。
しかし、彼女があそこまで考えているなんて。ちょっと重い気もするが、二年という時間がそうさせてしまったんだろう。
本音を言えば日本の大学に入りたい。そしてそのまま…。
どうするかな?
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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