第50話 浅井佳織は考える

 

 私は、昨日までの事を思い出していた。夏休み入ってからは、東雲君と会うチャンスが全くなかった。


 七月中は勿論の事、八月に入っても彼と会う予定など入っていない。去年とは大違いだ。でも奇跡は起きた。


 八月二日にスカイタワー駅のコンセプトショップに友達と買い物に行って昼食を摂っている時、偶然彼を見つけた。でもとても可愛い女の人と一緒だった。腰まで有る綺麗な金髪の女の人。


 でもこの時は話すきっかけがなかった。だから偶々だろうと思っていた。しかし、次の日も会った。


 今度は深草寺だ。仲見世通りを歩いていると偶然本堂から歩いて来る東雲君と会った。その時も金髪の可愛い女の人と一緒だった。


 だけど今回は声を掛ける事が出来た。これはまだ恋の女神が私と彼の繋がりが有るという事を示してくれているのだと思った。


 だからあの時、私は

「関係あるわ。私はあなたを諦めていない。だから彼女の事ははっきり説明して」

と言ったけど無視をされた。


 そうしたら金髪の女性が私の言葉に反応した。彼女は日本語が全く分からない様だけど、私は英会話は多少可能だ。だから強気で

『スタンフォードさん、いずれまた会うでしょう。ではご機嫌よう』

と英語で返した。


 でもいずれ会うなんて事は確約されたものではない。その時の出まかせだ。しかし二回も偶然が重なったんだ。



 この事実を何とか利用したい。だから私はお父様に相談した。その時、私の言った言葉スタンフォードという名前に何か気付いた。そして


「スタンフォードさんって、USボストンにあるステイン・スタンフォード病院の理事長の名前かな?」

「えっ、お父様。どういう事ですか?その方は日本に来ているのですか?」

「今来日していて帝都ホテルに泊まっている」

「お父様は何故スタンフォードさんをご存じなんですか?」


「彼は日本の先進医療の視察の為来日しているんだ。香織それがどうかしたのか?」

「お父様、スタンフォードさんとは明日はどの様な予定ですか?」

「はははっ、流石にそれを教える事は出来ない。例え大切な娘でもな。でも彼は帝都ホテルを午前九時前には出るはずだ。そこまでだな」

「十分です」


 何という奇跡。なんという偶然。恋の女神はまだ私と彼との赤い糸を切っていなかった。これが最後のチャンス。絶対に結び付ける。



 次の日、私は午前八時に帝都ホテルのロビーにいた。チェックアウトのお客でカウンタは混んでいたけど、フロア自体は空いている。端にある椅子に座って待っていると三十分程して東雲君が現れた。


 間違いなかった。あの金髪の女の子はスタンフォードさんの娘。彼とどう言う関係か知らないけど、彼女に東京を案内しているのは間違いない。

 そしてまだスタンフォード親子は現れていない。だから、私はロビーのドアから入って来た彼に直ぐに近寄った。


「東雲君」

「浅井さん!どうしてここに?」

「理由はいいです。東雲君話を聞いて下さい。お願いします」

 そう言って彼女は腰を折って頭を下げた。


 周りの人が俺達を物珍しそうに見て行く。不味いと思って椅子のある方を指さして

「あそこに行きましょう」


 東雲君が椅子に座った。話す気持ちはありそうだ。私も隣に座ると

「東雲君、はっきり言います。あなたの女性に対する気持ちが、いえ、今迄起こった事に対する嫌悪感がどれほどのものかは想像を絶する事と思います。


 でも敢えて言います。私を傍に置いて下さい。彼女にしてくれとは言いません。でも私はあなたの傍に居たいんです。


 こんな事を言っても意味ないかも知れませんが、私は男を知りません。付き合った事も有りません。


 あなたを裏切る事等及びもしない事です。お願いです。彼女でなくてもいいです。傍に居させて下さい」


 一気に言ってしまった私を東雲君は冷たい目で見ていた。


「浅井さん、みんな同じような事言って俺を裏切って来た。だから俺はもう高校生の間は女の人と付き合う事はしないと決めたんです。


 あなたの言い分では彼女でなくても良いと言っていましたが、傍に居たいというのは同じ意味と思っています。ですからはっきり言います。俺はあなたの気持ちを受け入れる気は全くない」


 こんな話をしているとスタンフォード親子がエレベータから降りて来た。それを見た彼は私に見向きもせずに親子の元へ歩いて行った。


『おはようございます。スタンフォードさん、メアリー』

『おはよう、カズキ。今日もメアリーを頼む』

『はい』

『メアリー、行って来る』

『行ってらっしゃい。パパ』


 俺と、メアリーはスタンフォードさんを見送ると

『行こうかメアリー』


 メアリーはロビー端の椅子に座る浅井さんを一瞥した後、

『うん』


 と言ってわざと腕を掴んで来た。

『メアリー?』

『ドア出るまで。あの女が見ているから』



 東雲君が金髪の女の子と一緒に出て行った。彼は完全に私と関係を持つことを拒絶した。

 やはり二回の偶然は偶々だったんだ。恋の女神が微笑んだんじゃなかったのか。私は重い気持ちと腰を上げるとドアに向かった。


―――――

話中に記載されていますスタンフォード大学、およびスタンフォード大学病院とは何ら関係がありません。ご理解の程お願いします。

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

 

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