第49話 メアリーのお父さんからの提案

 

 今日は、メアリーを渋山に連れて行き、早めにホテルに戻る予定だ。スタンフォードさんの都合と俺のお父さんの都合で今日の夕食を一緒に食べる事になっている。


 ホテルから渋山までは近い直ぐに着いた。でも夏休みに入っている所為もあるけど、駅を出たとたんにあふれんばかりの人に


『カズキ、この人達はいったいどこから出て来たの?』

『東京だけでなく近県からも来ているんだ。USと違って近県と言っても三十分も有ればここに来れる。それに今日本の学生は夏休み。社会人も夏休みの時期に入っている』

『しかし凄いね。カズキ、なぜあの人達はぶつからないの?』


 メアリーが見て言っているのは、世界中でも有名になった渋山の駅前のクロスしている交差点だ。


 前後左右どちらの方向からも歩いて来る。確かに凄いけど外国人はやたらとスマホで自撮りしている。あれでは歩く人の邪魔になってしょうがないな。


 俺はメアリーに交差点を渡らせずに西急スクエアに行って屋上の展望台に連れて行った。


『昨日行ったスカイタワーも良く見えたけど、ここも街が一望出来るね。しかしごちゃごちゃしているなぁ。ストリートとアベニューって感じじゃ全然ない』

『ここは元々有った街を追加整備して来たからこういう感じなんだ。最初から広域整備したシティじゃない』

『そういう事か』


 その後は、エスカレータで一階ずつ降りながら各階にあるショップを見て回った。メアリーは日本人から比べると背も高く、金髪の長い髪にブルーアイだ。


 お店の人がやたらと声を掛けて来たけど、当然彼女は何を言っているのか分からなく、不思議そうな顔をしていたので一応通訳はしてあげたけど。


 偶に英語で話しかけるショップの店員さんもいて、そういう時はメアリーは色々聞いていた。



『メアリー、欲しくなったものは無いのか?』

『素敵な洋服はあるけど、サイズが全然合わない。長さが大丈夫でもパッツンパッツンになってしまうよ』


 確かに彼女の体のサイズというか体積は日本の女性とは違う。たった二年とはいえ随分大きくなったものだな。


『カズキ、何処見ているの?』

『いや、メアリーも大きくなったなと思って』


 バシッ!

 いきなり腕を殴られた。


『カズキ、責任取るならいいよ』

『あははっ』

 誤魔化すしかない。



 その後は西急ストリームに行って、ここも各階ずつ見た後、ここで昼食を摂る事にした。

『メアリー、今日は何が食べたい?』

『カズキ、スシが食べたい』

 財布の中身が心配になるチョイスだな。まあ、お父さんから補助は貰っているし良いか。


 ビル内のマップを見ると四階に寿司屋がある。行って見るとそれなりに?リーズナブルだ。また待つことになったが、ここでも外国人で一杯だ。


『カズキ、東京ではどこでもこうなの?』

『お昼時だから仕方ない』

『そういう事では無くて日本人より外国人が一杯いる。それも色々な国の人がいる。ちょっと想像していた雰囲気と違う』

『世界経済から比較した日本経済の実態を考えると仕方ない所かな』

『難しい事を言うのね』

『一応』



 順番が来てお店の中に入るとうまい具合にカウンタに座れた。ここなら板前さんが握って直接出してくれる。


『凄い。ここも一品毎に二か国語で書いてある。日本人のおもてなしの心ってやつなの?』

『さぁ?』

 単にいちいち説明するのが面倒だから先に書いてあるような気がするけど、それをここで言うのはちょっとね。


 俺達は、十貫のセットを注文したけど、目の前にいる板前さんがガラスケースから刺身を取っては調理して一貫毎に出してくれるのでメアリーがとても喜んでいた。


 結構お腹が一杯になった。ほんとは少し休んでから出たいのだけど、混んでいたので食べた後直ぐに出た。


 そして二階の喫茶店でアイスティを飲みながらゆっくり休んだ後、今度は山宿の竹上通りを案内した。



 ここではメアリーに注目が思い切り集まって俺と彼女に怪しげなおじさんが名刺とかくれようとしたけど、二人共英語しか話さないでいるとスゴスゴと立ち去った。


 そして今日は午後五時に帝都ホテルに戻った。ロビーで待っていると先に俺のお父さんが来て、その後少ししてスタンフォードさんが来た。



『お久しぶりです。東雲さん』

『お久しぶりです。スタンフォードさん。今日は妻が仕事で来れないと残念がっていました』

『そうですか。それは残念です。レストランに席予約しています。早速行きましょう』


 スタンフォードさんとお父さんが並んで、その後を俺とメアリーが一緒に歩くという感じだ。


 スタンフォードさんも俺のお父さんと同じ位身長がある。俺も大きい方なのでとても目立った。


 テーブルについてコース料理を注文した後、スタンフォードさんとお父さんはワインを俺達はジュースを頼んで、久しぶりの再会を祝して乾杯した。


 デザートまでは、スタンフォードさんの来日の目的とか視察の感想とかお父さんの仕事の内容とか、勿論口外して良い範囲で色々話していたけど、デザートの時間になるとスタンフォードさんが


『東雲さん、折り入って相談があります。カズキ君の進学の事です』

『なんでしょう?』

『カズキ君、何処の大学に行く予定?』

『今の所、帝都大理学部を希望しています』

『ふむ、スタンフォード大学にしないか?』


『スタンフォードさん、今行っている高校はIBではありません。IB校で無いと日本から外国の大学への受験は指定校制です。残念ですがそれにスタンフォード大学は入っていません』

『カズキ君、うちのスタイン・スタンフォード病院はスタンフォード大学と強い結び付き、簡単に言えば、経営母体は同じだ。私は理事長として、君がスタンフォード大学を入学希望するなら認める事が出来る。どうかね来ないか』

『あの話が見えないのですが。何故俺をスタンフォード大学に?』

『これは申し訳ない。実は…』


『お父さん、そこからは私が話をする。カズキ、昨日少し言ったけど。…私、あなたがボストンを去ってからとても寂しくて学校に行く気にもならなくなってしまった。


 日本に追いかけてこようなんて思ったけどミドルを卒業したばかりの私ではどうにもならなくて。


 だから、パパが日本に仕事で行くと聞いた時、私の気持ちを話したの。カズキともう一度会う為に、いえあなたと一緒になる為には大学を同じにする事が一番早い方法だと。


 でも私は日本の大学には言葉の問題が有って入れない。でも和樹は両方が使える。あなたに観光案内して貰って、二年経っていても何も問題無い事も十分に分かった。だからパパにお願いしたの。カズキをスタンフォードに入学させてって。


 パパは、理事長。そんな事簡単に出来る。だからお願い。カズキ、一緒にスタンフォードに入ろう。そしてこの二年間のブランクを取り戻そう。そうすれば、しっかりと次を見据える事が出来る』

『メアリー…』


『東雲さん、こういう次第です。カズキ君、出来れば娘の気持ちを受け入れて貰えないか』


 まさか、こんな風に思われていたなんて。ミドルに居た頃は確かに他の女の子よりとっても仲良くしてくれていた。


 でもそれは俺が日本から来た男子で言葉も地理も知らないから優しくしてくれているんだと思った。


『スタンフォードさん。お話は良く分かりました。親としては反対する理由は有りませんが、カズキの気持ち次第です。


 メアリーちゃん、息子を見ている限り、君に対する気持ちもそこまで進んでいる風に見えない。少し息子に時間を挙げてくれないか』


『カズキ、私は…』

『メアリー、確かに東雲さんの言う通りだ。カズキ君の気持ちを全く聞いていない。カズキ君、いきなりだろうけど今の素直な気持ち教えてくれないか?』


『スタンフォードさん。はっきり言って、まだ気持ちがそこまで付いて行っていません。話はとても魅力的ですが、俺の学力でスタンフォード大学に通用するかも分かりません。


 メアリーの事は大好きです。でもそれは親しい友達としてです。もしメアリーと付き合う事になるにしてもその前に俺の今の気持ちを良く話して分かってもらう必要があります』


『分かった。まだ数日は日本にいる。その間にメアリーと良く話してくれ。もしこの件受け入れてくれるならホームは我が家と思ってくれていい。妻はもう賛成している』


『分かりました。メアリー。明日はそうしようか』

『うん』




 ホテルからの帰り道、タクシーの中で

「お父さん、メアリーの気持ちもスタンフォードさんの配慮も申し分ないと思っている。でもお父さんも知っている通り、俺はついこの前までにたった二年で三人もの女子に裏切られて来た。


 はっきり言って高校生の間は女子とは付き合う事はしないと決めている。大学生になって新しい環境で新しい人達と一から人間関係を作って行こうと思っていた。


 だからメアリーの気持ちは嬉しいけど、俺にとっては今までの延長線上にしか思えないんだ」


「カズキ、メアリーちゃんとその事も含めて良く話しなさい」

「うん」


―――――

話中に記載されていますスタンフォード大学、およびスタンフォード大学病院とは何ら関係がありません。ご理解の程お願いします。ちなみに実在するこの病院はCAにあります。

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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