第47話 メアリーと一緒でも


 俺は、翌日午前八時半に帝都ホテルのロビーに行った。流石にまだ早かったのか二人はロビーには居なかったけど十五分程して現れた。


 スタンフォードさんはこの暑い季節にビシッとスーツを着込んでいる。メアリーは白のスキニーパンツに黄色のTシャツとオレンジ色のひも付きシューズ、肩から茶色のバッグを掛けていた。何入っているんだ?


以下『』は英語です。

『カズキー。おはよう』

『おはようございます。スタンフォードさん、メアリー』

『おはよう、カズキ。メアリー行って来る。午後六時には部屋に戻っているように』

『分かってるって』

『カズキ、メアリーを宜しく頼む』


 スタンフォードさんを迎えに来ていたのだろう車に乗って車止めを出ると


『カズキ、何処連れて行ってくれるの?』

『最初はスカイタワーだ』

『スカイタワー?何それ?』

『六百三十四メートルのタワーだよ』

『六百三十四メートル!ステートビルの最上階より二百五十メートルも高いじゃない』



 ホテルからスカイタワーまではずっと地下鉄だ。東京の地下鉄網をマップで教えてあげると、メアリーは日本人は地下に住む訓練でもしているのかと驚いていた。もっともNYも同じようなものだけど。



 スカイタワーの駅に降りると外人ばかりだ。メアリーが居ても目立たな…。目立った。


-ねえ、あの子の髪の毛。

-綺麗だわよねぇ。

-手入れ大変じゃないの。

-でも若いから。


『カズキ、なんか見られている気がするんだけど』

『メアリーが綺麗だって言っている』

『そうか、日本人も見る目があるね』


 メアリー、言っているのは日本語が話せる東南アジア系の人だ。まあ、この子からすれば東洋人は皆一緒に見えるんだろう。



 地上に出るとメアリーは空を見上げて

『はぁ、大きいなぁ。これ登れるの?』

『ああ、登れるぞ』


 俺はチケットをネット予約して有ったので、ほとんど並ばずにエレベータに乗れることが出来た。


 エミリーはエレベータの中で上を見ながら

『カズキ、いつまで登っているの?』

『最初の展望デッキまでは三百五十メートル、五十秒とパンフに書いてある』

『ステートビルの最上階とほとんど同じか。日本って凄いんだな』


 俺もここに来たのは初めてだからな。それにしても長いな。


 やがてエレベータが止まり降りるとエミリーは窓際まで行って

『おーっ、凄い』

『ここで三百五十メートルだ』

『人が点にしか見えない』


 彼女は窓に沿ってクルクル回りながら外を見ていると

『ここより上には行けないの?』

『行けるけど。行くか?』

『行きたい』



 更に天望回廊まで専用エレベータで上がると螺旋状になっている通路を歩いて一番高い位置に来た。


『カズキ、ここで一緒に写真撮ろう』


 メアリーがスマホを取出して俺を手招きした。並んだのだけど

『カズキ、膝を曲げるか、撮るかにして。私の自撮りじゃ手が近くて全体が入らない』

『分かった』


 俺が彼女のスマホを持って思い切り手を伸ばして


 カシャ!


 もう一度 カシャ!


 手元で見て見ると

『上手く撮れたぁ。カズキ直ぐにスマホに転送する』

『おう』


 直ぐに転送されて来た。中々いい映りだ。

『良い映りじゃない。サマーキャンプの時を思い出すね』


 そう言えば彼女とは随分一緒に色々な事をした。勿論両親付きだったりコミュニティの時だけど。いつも笑顔が一杯の子だ。



 天望回廊から展望デッキに降りてそのまま下の階に降りて歩いている途中で彼女の足が止まった。


『カズキ、これ割れて落ちる事無いよね?』

『分からん』

 

 メアリーが躊躇したのは下が透けて見える通路だ。流石に俺もここを通るのは勇気がいる。万万万万が一あるかもしれない。


 彼女も見るだけでそこをスキップすると子供がそこの真ん中で跳ねていた。流石に係員に注意されていたけど凄い度胸だな。


 地上に降りてから

『メアリーお腹空いただろう。何が食べたい?』

『日本らしい物』


 また難しい事を言ってくれる。俺は日本食と言うと蕎麦、うどん、寿司、てんぷら位しか思い浮かばない。


 でもここで食べれる和食って後何が有るんだ。俺の普段の食生活が知れてしまうよ。やはりここは蕎麦にするか。


『メアリー、蕎麦はどうだ?』

『蕎麦?ああジャパニーズヌードルか。良いかも』


 俺は隣接しているレストランビルに連れて行って蕎麦屋に入った。直ぐに店員が来て

「いらっしゃいませ。お決まりになりましたらお呼びください」


 メアリーがジッと俺を見ている。店員は俺を見て日本語でも大丈夫と思ったんだろう。持ってきたメニューを開くと


『わぁ凄い、一品毎に三か国語で書いてあるなんて。流石日本だな。私はこれにする』

 彼女が指差したのは天ざるだ。俺も同じ物を注文するとメアリーが急に小声で


『カズキの左斜め後ろにいる女性がこちらというかカズキをずっと見ている』

『えっ!』


 俺はゆっくりと左斜め後ろを見ると、…なんで彼女がここに?座っていたのは浅井さんだ。友達と一緒らしい。ここに来る事は彼女が知る由もない。全くの偶然。しかし…。


『カズキ、知り合い?』

『俺の通っている高校の同じクラスの子だ』

『そう、綺麗だね』


 俺の言葉にメアリーが反応した。さっきまでと違った目で浅井さんを見ている。




 私は、友達とスカイタワー駅のコンセプトショップに来ていた。買い物が終わって偶々入った日本蕎麦屋に東雲君がいた。


 それも背が高く青い瞳に綺麗に揃えられた金髪が腰の近くまであるとても綺麗な女の子。


 一体誰なんだろう。それにしても彼のあの嬉しそうな顔は久しぶりに見た。


 なんで、あの子とここに居るかは知れないけどちょっと胸騒ぎがする。まさか…。そんな事無いよね。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る