第45話 また一人ぼっちに

 

 次の日の火曜日、中央階段横の掲示板に中間考査の成績順位発表が有ったけど俺はチラッと見ただけで通り過ぎた。一位の所に俺の名前が有ったがどうでもいい。


 教室に入って行くと須藤さん達と浅井さん、神林、小岩井さん、堀川が挨拶してくれた。でも他の人達の俺を見る眼差しは疑いの目だ。


 もうそんな事どうでもいい。卒業まで一人で居ればいいんだ。彼女を作るなんて事をしなければこんな事にはならなかった。俺に声を掛けるのは裏がある人ばかりだ。もううんざりだ。



 担任の田村先生が入って来た。クラス委員長の役目上、先生への朝の挨拶の号令は掛けるけど、こんな役目受けるんじゃなかった。


「皆さん、来週末は体育祭があります。今日の午後のLHRで体育祭実行委員と各々の出場種目を決めて下さい」


 体育祭か、参加もしたくない。体調悪いと言って欠席しよう。




 LHRになって、出場種目を聞かれたからどれでも良いと言ったら、去年と同じ種目になった。どうせ休むんだ。俺には関係ない。



 そんな気分で家に帰ってもうベッドの上で寝る支度をして本を読んでいるとスマホが震えた。誰だこんな時間に?画面を見ると、えっ!なんで彼女が。


以下『』は英語です。

『はーい、カズキ』

 この声は、

『メアリーか?』

『嬉しいわぁ、私の声を覚えてくれていたなんて』

『忘れる訳無いだろう』

『ねぇ、パパのお仕事で八月の初旬に日本に行くのよ。日本案内して』

 向こうに居れば日本の印象はそんなものか。


『いつもながらいきなりだな』

『良いじゃない。それよりフライト決まったらまた連絡するから。あっ、一週間は居るから宜しくね』

『分かった』

 

 メアリー・スタンフォード。ボストンで一番大きい病院の理事長の娘。俺がミドルスクールに入学して来た時、優しくしてくれた女の子。


 今年の夏休みはどうせ暇だろう。気分転換にも丁度いい。



 次の朝はいつもの時間に登校した。改札で佐那が居る事は無かった。学校に着いて俺が教室に入って行くと、いつもの人達は挨拶してくれたが、他の人達は疑心の目で見ている。


 佐那は、俺の方を向いて悲しい顔をしていたけど寄って来る事は無かった。浅井さんは挨拶だけしてくれたけどそれ以外俺を見る事は無い。須藤さんも同じだ。



 これでいいんだ。これなら変に声を掛けられなくて済む。午前中の授業が終わり俺は学食に一人で行ったけど、俺を見る周りの人の目は何も変わっていない。昨日、一昨日の話は学内には広がっていない様だ。


 俺は窓際の二人席の一つの椅子に座って食べたけど特に変な視線は送られていない。良かった。


 放課後は塾に行った。佐那も来ていたけど俺に近付く事はしなかった。ただ寂しそうな目で俺を見ている。


 そんな日が何日も続いて、体育祭の前の日のお昼休み、学食で一人で食べていると神林が寄って来た。


 二人席の俺と反対の席に座ると

「東雲、悪いが花蓮から浅井さんの事、話は聞いた。他の人は上条さんの話とお前の話がどっちが本当か分からないで疑心な目で見ているけど、その内消える。


 幸い上条さんは言いふらす様な事はしていない。クラスの他の人が漏らさない限り広まる事は無いだろう。


 実際他クラスの生徒からこの件を聞いた事は無いし、女子達の間でも話題になっていない。

 これならお前と浅井さんが普通にしていれば直ぐに皆理解するさ」


 佐那には、言いふらしたら俺が実際に浅井さんとそうなるという事を嫌がっているんだろう。

「神林、いつも迷惑掛けるな」

「良いって事。それより明日の体育祭休むなよ。じゃあまたな」


 本当に言いたいのはそこか。神林から声を掛けられるまでは休むの一点張りだったが、あいつには、色々世話になっている。仕方ないか。


 翌日の体育祭、堀川と同じクラスだから百メートル走で一緒になる事は無く、お互いが一位だった。


 リレーは、アンカーが堀川、俺はその一人前という事で走ったが、Aクラスは一年生からトップで難なく一位になった。


 自分の競技以外では、借り物競争で一年や二年の女の子に連れ去られたが、この子達は何も知らない。だから俺も楽しそうな感じで一緒にゴールまで走った。



 そんな体育祭も無事終わり、次の日の片付けも終わって、打ち上げとなったが、今年は流石に辞退した。とても参加する気になれない。



 そして六月になり、何の変化も無く時間だけが過ぎて行った。六月も半ばを過ぎるとクラスの疑心な目をしている人が居なくなって来た。

 でも佐那の俺を見る目は変わらなかった。琴の仲間と上手く行っていないのか?



 六月も終りの週になり学校も終わった放課後、俺が塾に向かっていると浅井さんが後ろから声を掛けて来た。


「東雲君」

「何?」

「私も東雲君と同じ塾に通おうと思っています。宜しいでしょうか?」

「誰が何処の塾に通おうが俺には関係ありません。ご自由に」


 俺はそのまま早足で塾に向かった。



 相当に心を閉ざしていますね。少しの事ではどうにもならないでしょうが、少しでも接点を作る機会を持たないと、本当にこのまま高校生活を終わらせる事になります。それだけは避けたい。同じ大学に行く道筋だけでも付けないと。



 七月に入ってまたメアリーから連絡が有った。

『』は英語です。

『カズキ』

『メアリーか』

『七月のフライトスケジュールが決まったよ。日本時間で八月一日にそっちに着くよ』

『分かった。何処か行きたい所有るのか?』

『カズキが案内してよ。私日本なんて全然知らないんだから』

『その通りだな』


『じゃあ、今から言う時間にナリタに迎えに来て』

『わがまま』

『ふふっ、カズキにそれを言われると幸せだわ。じゃあ、迎えに来てね』


 全くいつもながらだな。でもメアリーに会うのもいいかも。もう学校の色恋は充分過ぎて吐き気がする。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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