第44話 女同士の戦いに巻き込まれたくない

 

 私は翌月曜日、いつもより更に早く学校の最寄り駅に来て東雲君を待った。

 途中、上条さんが急いで学校に向かったけど、気にもしなかった。


 精々早く登校して東雲君の顔でも見ていたいのでしょう。あれだけ言ったんですからもう近付く事もないと思うのだけど。


 東雲君が改札から出て来た。

「東雲君」

「浅井さん」

「東雲君、昨日は本当にごめんなさい。あなたに何も言わないでと言われていたのに、あんなはしたない事を言ってしまって。土日ずっと反省していました」

「もう忘れて下さい。当分静かにしていたいんです」

「本当にごめんなさい」

「謝らなくても良いですから。でももうあんな事止めて下さいよ」

「分かりました」




 私は、翌月曜日。いつもより三十分以上早く登校して教室であの黒髪女を待った。最初、須藤さん、早瀬さん、加藤さんが入って来たけど後から黒髪女が入って来たと思ったら一緒に和樹が入って来た。やっぱり。


 私は何も言わず黒髪女の傍に行って

「あんたが、和樹をそそのかしたんでしょう?」

「何を言っているのでしょう?」

「じゃあ、何であんたと和樹があそこに居たのよ。あんたも彼をそそのかしてあそこを二人で利用していたんじゃないの?!」

「何ですって!」


「止めろ、上条さん。あそこに浅井さんが居たのは俺も知らなかった。俺はあの時一人だ」

「嘘よ。和樹もこの女と一緒になりたくて、私に別れ話を持ち掛けたんでしょう。汚いわよ」


-朝からハードボイルド。

-どうなってんの?

-全然分からない。



 神林や小岩井さん、それに堀川も俺達を見て驚いている。


「いい加減にしないか。上条さん。もう他の人も登校して来ている。もうこの話は止めよう」

「なによ、私ばかり悪者にして。和樹だってこの女だって同じじゃない」


 それだけ言うと自分の席に行ってしまった。これは収拾が大変だぞ。佐那の誤解の仕方も分からないでもないが、浅井さんが居た事は事実だ。



 俺が東雲と同じクラスになったのは東雲をめぐる正カノ上条さんとその座を奪い取ろうとする浅井さんのラブコメバトルを楽しもうと思っての事だが、思ったよりハードだな。


 これは努力して3Aになった甲斐が有ったってもんだ。しかしそんなに色恋なんて楽しいのか?俺は陸上の方がよっぽど楽しいけどな。


 それに彼女作ったらどうせ気を揉まないといけないんだろうし。まあいい。当分高みの見物と行くか。




 佐那は、授業の間の中休みには声を掛けて来なかった。だけど昼休みになった時、俺の所に来て

「和樹、話したい。そんな女の事なんかどうでもいい。お願いもう一度話させて」


 浅井さんは黙っている。周りの人も俺と佐那そして浅井さんを見ていた。


「分かった。だけど放課後だ。お昼は一人で食べたい」

「それでいいよ」


 それだけ言うと佐那は教室を出て行った。周りの人もこれで終わったのかという感じで教室を出て行ったり、仲のいい人とお弁当を広げ始めた。


 俺は、学食は佐那が居る気がしたので、購買で菓子パンとジュースを買うとまた校舎裏のベンチに行った。

 でも先客がいた。仕方ないので俺は教室に戻って一人で外を見ながら食べた。誰も話しかけては来ない。



 午後の授業も終わり放課後になると佐那が直ぐにやって来て

「和樹、帰ろう」

「……………」


 俺は無言のまま立ち上がりバッグを肩に掛けると昇降口に向かった。




 東雲君と上条さんが教室を出て行った。彼女は彼との仲を戻そうと思っているだろうけど無理な事。


 問題は、東雲君の心が前以上に閉ざされてしまった事だ。今回は早々に開く事は出来ないだろう。八頭さんの時は五ヶ月半で上条さんが彼の心の中に入ったけど、今度はそうはいかない。


 それに彼は上条さんから女性に対して心の底に疑心暗鬼という気持ちを植え付けられてしまった。


 もう駄目かも知れない。でも例え高校生の間は不可能でも大学になれば環境も変わる。そうすればチャンスが生まれるかもしれない。とにかく彼への過剰な接触は逆効果だ。


「佳織」

「何、花蓮?」

「聞きたい事が有るんだけど」

「いいわよ」


 多分今回の事だろう。花蓮だけにでも本当の事を言っておかないと。




 私と花蓮は帰り道が家の近くまで一緒。お互いの部屋にも数えきれない位出入りしている。今日は私の部屋に来て貰った。


「佳織、本当の所はどうなの?プールで東雲君に会わせて以来、全然進捗が見えなくて」

「うん、今から話すね」


 私は、プールで東雲君と会って以来の事を全部話した。そしてこの前のGWの最後の日、渋山に友達と行った時の事も話した。


「そういう事か。確かにそれじゃあ上条さんのあの反応も分かるわ。しかし面倒だな。例え佳織が友達と居たとしても上条さんはそれを見ていない。

 香織の言っている事が証明出来ないもの。普通に聞けば、東雲君と佳織がラブホに入っていてもおかしくないパターンだもの」

「花蓮、私は彼とラブホなんて」

「そんな事分かっている。香織がそんな子じゃ無い事位。でも状況証拠が悪すぎる。これ武夫に話してもいい?彼だったらいい方法考えられるかもしれない」

「神林君なら良いけど」

「勿論、解決策が見つかるまでは他言無用なのは分かっている」

「分かった」




 佐那が自分の部屋に来てほしいと言ったが断った。当たり前だ。考えが見え透いている。でもファミレスで話せるような事じゃない。


 駅の向こうに小さな公園がある。そこに行く事にした。公園に着いてベンチに座る。少し人が居るけど仕方ない。俺が黙っていると


「和樹、本当の事を言うね。喜之助とは中学一年の時、知り合って中学三年の時、関係を持った。でもそれっきり。


 この前は彼が東京の大学を受けるから一度東京を見て見たいというので案内した。 勿論彼は両親と一緒に来た。


 二日目に私の家に連れて行って私の部屋に入った時、彼が急にしたいと言ったんだけど、お母さんも居るし無理だと言って断ったんだけど、そうしたらラブホに連れて行けって言われて…。


 私も和樹と大分していなかったからその気になっちゃって。ごめんなさい。本当にごめんなさい。喜之助とはもう別れます。お琴も止めます。だから私を捨てないで」


 無理があり過ぎる言い訳だな。


「佐那、言い訳はもっとよく考えろ。見え透いているにも程がある。あいつと中学の時一回やって、この前は俺としばらくしていないからその気になったって。


 ふざけるなよ。ラブホに入って行く時のあいつとお前の嬉しそうな顔。一回や二回じゃないだろう。


 それに琴の件で会えないと言ったけど、実態はあいつと会う為だったんじゃないか。もう聞いていられない。二度と俺に近付くな。口も利くな。さよなら」


「待って和樹。本当なの」

「佐那、もう口を利くなと言ったはずだ」


「分かった。和樹がそこまで言うならあの女と和樹の事学校で言いふらしてやる」

「佐那!…もう勝手にしろ。そんな事したら、実際に浅井さんとくっ付くだけだ。お前の言っている事を事実化してやる。それで満足か」

「止めて、そんな事止めて。和樹、お願い。私ともう一度付き合って。私はあなたしかいないの」

「あいつが居るじゃないか。バレた事まだ知らないんだろう。仲良くすればいい」


 それだけ言うと佐那から足早に立ち去った。佐那が俺の名前を呼んでいるけど無視をした。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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