第43話 言い訳は五月蠅いだけだ


 一限目の中休み、佐那が俺に近付こうした時、俺は直ぐに教室を出た。寄って来られるだけでも気持ち悪い。


 トイレに行ってからギリギリに教室に戻った。二限目の中休みも三限目の中休みも同じだった。


 流石に三限目の中休みの時、神林が教室を出た俺を後から追いかけて来て

「東雲、上条さんと何か有ったのか?」

「上条さんは、俺より何年も前から付き合っていた人が居たらしい」

「どういう事だ?」

「単純な話だ。二股掛けられていたのさ」

「何だって。あの上条さんが?」


「ああ、俺としてはもう別れるとはっきり言ったのだけど、どうせ言い訳したいだけなんだろう」

「そういう事か。昼はどうする?」

「一人でどこかで食べるよ」

「そうか。何か頼みたい事が有ったらいつでも声掛けてくれ」

「ありがとう、神林」


 神林の気持ちはとても嬉しいが今は頭の中が冷静になるまで一人で居たい。


 俺が教室に戻ると佐那は自分の席に戻っていた。



 昼休みになり、俺は直ぐに教室を出た。佐那も出て来て追いかけて来たので、一度昇降口で履き替えて校庭に出た。


 校庭まで逃げられちゃった。話したい。そして謝ってもう一度やり直したい。



 俺は、そのまま校舎裏のベンチまで来た。誰もいなかったので、一人で座っていると流石にお腹が空いて来た。どうしようかな。スマホの時計を見るとまだ時間はある。


 学校からは出れないし、お腹空いたままでいると

「東雲君、これ食べる?」


 振り返ると浅井さんが居た。

「浅井さん…」


「お腹空いたら午後の授業に響くよ」

「でも」

「これで恩を売ろうなんて思っていないし、このまま話し込もうなんて考えていない。ここに置いておくね」


 それだけ言うと浅井さんは校舎の方に戻った。彼女がなんでこんな事したのか、なんで俺がここに居るのが分かったなんて知らないけど、焼きそばパンとフランクフルトが挟まった菓子パンそれにジュースが置いてあった。後でお金払わないと。



 予鈴五分前までそこにいてからトイレに行って教室に入るとギリギリだった。浅井さんは何も知らない顔している。そして須藤さんが不思議そうな顔をしていた。



 放課後になり、俺は直ぐに教室を出ようとすると佐那が近付いて来たので急いで昇降口に行って履き替えていると

「和樹、聞いて!」


 無視をしたまま、履き替えが終わると直ぐに校舎を出た。まだ佐那が追いかけてくる。

「和樹、聞いて。お願いだから」

「もう、別れたんです。話しかけないで下さい」

「お願いだから聞いて」

「五月蠅い!」


 俺はそのまま早足で塾に向かった。明日から考査ウィークに入る。ちょっと面倒な気分だ。


 佐那は自習室でも話しかけてこようとしたけど、シャーペンと鉛筆の音しかしない部屋では流石に声を掛け辛かったのか話しかけて来なかった。



 教室では、佐那が近付いたので直ぐに遠い席に移動した。そして塾が終わると急いで駅に向かった。


 次の日から来週の月曜日まで考査ウィークで午前中授業だ。三年生とはいえ、一学期の中間考査の範囲はそんなに広くない。


 前は午後三時まで図書室だったが、今日からは塾の自習室で講習が始まるまで学校の考査範囲を勉強する事にした。ここなら佐那は話しかけてこれない。


 そうしてその一週間は過ごした。幸い浅井さんも他の人も話しかけて来なかった。須藤さんや早瀬さんのいつものお喋りも何故かない。つまり朝の挨拶以外誰も話しかけて来ないという事だ。



 土日は考査対策を終日した。佐那と会う事も無くなった為、充実していたが、何故か心の中は風が吹いている様な気がした。


 幸い、クラスの人は佐那に対して不思議な目は向けても蔑む様な目はしていない。彼女にも声を掛ける人はいない様だ。



 そして火曜日から金曜日まで有った中間考査は無事終了した。これで帰ろうとした時、

「待って、和樹!」


 佐那が大きな声で俺に近付いて来た。当然クラスの人は何事かと思って俺と彼女を見た。佐那が何か言おうとした時、いきなり浅井さんが


「止めないさい上条さん。もうあなたは東雲君に声を掛ける権利はないわ」

「「「「「えっ?!」」」」」


 クラスの人が一斉に驚いた。佐那も唖然としている。俺はそれを無視して帰ろうとすると

「待って」


 佐那が俺を掴もうとした手を浅井さんが横から握って

「もう、あなたに東雲君を触る権利はないわ」


-どう言う事?

-何で浅井さんがあんな事を?

-それより東雲君と上条さんの仲が…。


「あなたには関係ないでしょう」


 浅井さんが握った腕を振り払おうとした時、

「汚らわしい女が東雲君に近付くんじゃないわよ。二股女」

「「「「「えっ?!」」」」」


 ありゃー。浅井さんそれ言っちゃ駄目だよ。教室が賑わってしまうよ。


-どういう事、どういう事?

-二股女?

-まさか!



 浅井さんの言葉に佐那が涙目になりながら教室を出て行った。


「東雲君、ごめんなさい。あんなはしたない事を言うつもりは無かったのですが、上条さんがあまりにもしつこいので」

「もう遅いですよ。さよなら」



 私とした事が。東雲君の事になると冷静さを失ってしまいます。でもこれで私も彼からマイナス点を付けられてしまいましたね。



 悔しい。なんであの黒髪女からあんな事言われなければいけないのよ。大体、何であの女が…。えっ、どういう事?あの時、和樹とあの女もあそこにいたって事?それって…。


 まさかだよね。まさか、浅井さんとくっ付いて私と別れたい為にあんな事言ったの?だったら…。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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