第42話 辛い日々の始まり
俺は、何とか家までたどり着くと鍵で玄関を開け家に上がると偶然お母さんがいた。そして俺の姿を見るなり
「どうしたの和樹、何が有ったの?」
「ごめん、少し一人にして置いて」
「……………」
和樹があんな顔しているなんて初めて見た。去年の四月位にも辛そうな顔をしていたけど、あの時の比じゃない。落着いたら聞かないと。
俺は自分の部屋に入ってベッドに倒れ込むと自然と涙が出て来た。佐那と始めて会った時からの事が走馬灯のように頭の中をめぐった。
何時からなんだ。相手は琴の関係者。佐那は中学の時、その時の好きな人と興味半分で一回しただけだと言っていた。
でも中学の時、彼女は既に琴を始めている。
もしかして…。まさか…。あいつと付き合いながら俺の恋人の振りをしていたのか。
でも違うかもしれない。でもあの雰囲気、最近付き合い始めた雰囲気じゃない。
これで三度目だ。如月さんは彼氏が居ながら友達と言って俺に嘘をついた。
八頭さんは一度は別れた男と再度セフレの関係になって俺を裏切った。
そして俺だけだと言っていた佐那は、中学時代から付き合っていた男がいた。俺と二股掛けていたんだ。
俺に近付いて来る人は、みんな裏があるんだ。俺はそんな運命なのか。
泣き疲れたのか、寝入ってしまったようだ。
コンコン。
ガチャ。
「和樹、夕飯よ。お父さんも一緒よ」
お母さんの声に意識を取り戻すとドアと反対側を向いたまま
「ごめん、後で食べる」
とだけ言って、また目を閉じた。
今日は、午前十時に和樹が家に迎えに来てくれる。映画を見に行く約束をしている。喜之助は昨日もホテルに泊まったけど、今日は朝から帰ると言っていたので会っていない。
もう午前十時を超えているのにまだ和樹が来ない。何か有ったのか?後十五分だけ待って来なかったら連絡してみるか。
俺は、スマホが鳴っている事に気が付いて目が覚めた。画面を見ると佐那だ。
出ずに切った。
あれ、切られちゃった。手が滑ったのかな。もう一度掛けると、また切られた。おかしいなぁ。本当に何か有ったのかな?
再度、掛けるとブロックされていた。どういう事?なんで和樹が私の番号をブロックするの?何か有ったの?
和樹の家に行ってみたいけど場所を教えて貰っていない。一回も行ってないから分からない。どうすればいいんだろう。
俺は、佐那のスマホの番号をブロックするとベッドから起きた。昨日外から帰ってきたままの姿で寝ていたので、全部着替えてから洗面所で顔を洗った。
ちょっと目の周りが酷いけど仕方ない。髪の毛に櫛を通してからダイニングに行くとお母さんとお父さんが紅茶を飲んでいた。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「おはよう、和樹。落着いた?」
「うん、少しは」
「そう、朝食用意してあるから食べなさい」
「ありがとう」
俺はゆっくりと朝食を摂ってから紅茶を淹れて貰うと
「和樹、話せるなら話して」
「分かった」
恥ずかしいけど、去年の音江の事と今回の佐那の事を話した。
「そう、辛かったわね」
「和樹、辛いだろうが大切な時期に入って来ている。分かるな」
「分かっているお父さん。でも学校で教室も一緒なんだ。塾も一緒。毎日会うのは辛いよ」
「でも、和樹の話を聞いているとその上条っていう女の子は和樹が知ったことに気が付いていないんじゃない。
それは早くはっきりさせないといけないわ。向こうにとっては時間が経てば経つ程、言い訳なんていくらでも出来るでしょうから」
「何とかするよ」
学校に行ってから絡まれたんでは面倒になる。塾でも同じだ。今日中にはっきりと分かれることを言わないと。
俺はブロックした佐那のスマホの番号を再度解除すると彼女に連絡した。
私は和樹にスマホの番号をブロックされた事に全く理解出来ないまま不安な時間を過ごしているとスマホが鳴った。あっ、和樹だ。直ぐに出た。
『もしもし、和樹?』
『佐那か』
『どうして番号をブロックしたの。酷いよ』
『佐那。一度だけ言う。俺はお前と別れる。理由は昨日、お前が琴の仲間と渋山でラブホに入ったのを見たからだ。もう二度と俺に声を掛けないでくれ。この番号は直ぐにブロックする。さよなら』
『ちょ、ちょっと待って。それは…』
ガチャ。
切られちゃった。まさか、喜之助とラブホに入って行く姿を和樹が見ていたなんて。どういう事?
私が喜之助とあの時間に渋山に居るなんて和樹は全く知らない筈。それにその時間は勉強していたんじゃないの?
どういう事?全然分からないよ。やだよ和樹と別れるなんて。やっとここまで来たのに。
学校でもう一度話すしかない。そうだ。改札で待っていればいいんだ。
俺は翌日、いつもより三十分早く家を出た。いつもの時間だと佐那が改札で待っている可能性が高い。
電車に乗るといつもの顔ぶれと違う。気分が変わる感じだ。でもやたらとチラチラ見られるのは嫌だな。
学校の最寄り駅に着いて改札を出るとこれもまたいつもと違う顔ぶれが歩いていた。三十分早いとこんなに違うのか。
教室の中に入るとほとんどの人が居なかったけど、直ぐに須藤さん、早瀬さん、加藤さんが入って来た。驚いた顔をしている。
「おはよう、東雲君。早いね」
「おはよう、須藤さん、早瀬さん、加藤さん。ちょっとね」
そして直ぐに浅井さんが入って来た。俺は彼女の顔を見ると直ぐに視線を逸らせた。彼女が横に座った音がして
「おはようございます。東雲さん」
「おはよう。浅井さん」
そうだ。浅井さんにも口止めしておかないと。
「浅井さん、ちょっと良いですか」
「はい、なんでしょう?」
俺は、人気の少ない廊下の隅まで来ると
「一昨日見聞きした事は全て黙っておいて下さい」
「どういう意味ですか?」
「上条さんの事でクラスを騒がせたくないんです」
「でも、彼女はあなたがあれを見た事に気付いていないでしょう。話しかけて来ますよ」
「大丈夫です。昨日別れました」
「えっ!…そういう事ですか。分かりました。東雲君がそう言うなら余程の事がない限り私からは何も言いません」
「宜しくお願いします」
俺達が教室に戻るとまだ佐那は来ていなかったけど、神林、小岩井さん、堀川は来ていた。やっぱりみんな早いんだな。
俺と浅井さんが二人で教室に入って来たのに驚いていたけど、朝の挨拶だけで終わった。
ギリギリになって佐那が教室に入って来た。俺の顔を見たけど視線を外して無視した。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます