第41話 こんな事嘘だ

 ここから数話、読者様によっては胸糞悪いという思いをするかもしれません。ご配慮の程お願いしします。


―――――


 喜之助がGWに東京に出てくるという。理由は大学受験を意識して東京を見ておきたいという理由だ。


 確かに喜之助は学校行事は別としてプライベートでは東京に来た事がない。私の家にも来たいと言っていた。当然の事だろう。


 GWは和樹とずっと一緒の予定でいた。だから喜之助と会う時間を考えていなかった。まさか来るとは。


 とにかくいつ来たいのかはっきりさせてその日は和樹に家の用事があると言えばいい。今週末からGWの前半に入る。途中三日ほど登校日があるが、後半は四連休だ。どこで来るか聞いておかないと。



 

 GWまで後三日と迫った時、私は学校の最寄り駅で和樹と待ち合せると

「和樹、GW後半の前二日間、お母さんと一緒にお琴の件で出かけないといけないの」

「えっ、それって会えないって事か?」

「ごめんなさい」


「まあ、お琴の事じゃ仕方ないよな。佐那の大切なものだからな」

「ごめんなさい」

「そんなに謝らなくても良いって。でも前半三日間は塾だしな。ちょっと残念」

「塾は午後三時で終わるんだから、それから二人だけで会えるよ」

「それは駄目だ。せっかく行っているんだし、自習室でしっかりと勉強しないと」

「でもぅ」

「駄目。もう高校三年受験生なんだから」

「分かったぁ」



 この頃になると浅井さんも佐那に変な事は言わなくなった。放課後も二人で塾に行っている。

 そして最初の三連休は、しっかりと午前八時半から午後三時までお昼休憩一時間を除いて講習を受けた。

 残念ながら佐那と遊んでいる時間は無かった。勿論あっちもしていない。



 GW前半が終わると後半までの三日間は普通に授業が有った。最後の日に体力テストが有ったけど、これは全力でやらずに簡単に流した。去年の事もある。

 でも堀川と神林に見抜かれて、もっとまじめにやれと冗談を言われてしまった。


 その日の放課後、佐那と歩きながら

「和樹、私と会えない二日間はどうしているの?」

「うーん。勉強しているよ。教科書の予習少しでも進めておきたいし」

「えーっ、外に出ないの?」

「だって、三日目と四日目は佐那と会えるから映画でも行こう」

「そうだね。でも少しは出た方がいいよ」


 私は、ストーカーをするつもりは無かったが前を歩く二人の会話を聞いていた。東雲君と上条さんは二日間会わないと言っている。これはチャンス。




 私は、GW後半の最初の日に渋山まで喜之助と会った。彼はホテルに両親と泊まるらしい。両親は金座を見たりスカイタワーを見ると言っていた。


 午前十時、渋山のお犬交番の前で待ち合わせした。

「おはよう、喜之助」

「おはよう、佐那」

「佐那、今日はこの渋山を案内してくれ。俺全然分からないから」

「分かった。ところで何処に泊っているの?」

「そこのヨルリアンタワーにあるホテル」

「まあ、リッチ」

「佐那の家だって」

「そんなことない。それより行こうか」

「おう」


 一応、西急ストリームや西急スクエアを見てちょっと高いけど屋上で景色も見た。喜之助が


「すげえ、東京ってこんなに高い建物が一杯、それもごちゃごちゃあるんだ。俺慣れるかな?」

「全然問題ないよ。居れば直ぐに慣れるよ」

「そうだな。佐那と一緒なら問題ないよな」

 言葉が心に刺さって仕方ない。自分の言葉と気持ちが真反対なんだから。



 その後は、山宿に行って裏参道や竹上通りを案内した。喜之助は、何処からこんなに人が溢れ出て来たんだと驚いていたけど。


 それから渋山に戻って映画を見たりして午後六時に別れた。夕食は両親と食べるらしい。



 翌日は私の家に来て貰った。お母さんが居たので部屋に案内したけど

「喜之助、お母さん居るから出来ないよ」

「…そうだよな。でもせっかく佐那と会えたのに」

「じゃあ、外でする?」

 私も和樹と大分していないのでその気分にはなっていた。


「そんな所があるのか?」

「うん、ある」


 私達は渋山に戻ると回廊坂にあるその通りに入って行った。




 俺は、GW後半一日目は家で予習をしていたが、二日目の昼過ぎに佐那が言っていた外に出た方がいいという言葉が頭の中を過り、まあ少しは良いかという考えで外に出る事にした。


 巫女玉もいいが、偶には渋山も良いか、それに佐那の家の最寄り駅も通るしなんて思いながら電車に乗った。


 佐那の家の最寄り駅のホームに電車が入って行くと佐那が男の子と一緒に立っている所を見た。


 俺の乗っている車両より後ろだ。あの男の子って確かお琴で佐那と連れ弾きしてトークにも出ていた子だ。


 佐那がお琴の件とか言っていたから何か用事でも有るんだろうとこの時は思っていたけどやっぱり気になる。


 渋山で電車を降りてホームからエスカレータで昇る時に前の方に男の子と一緒に立っている佐那を見つけた。楽しそうに会話している。もう知り合って五年じゃあ当たり前か。


 二人は、地上に出るとクロスしている交差点を渡り、手を繋ぎながら回廊坂を登って行った。


 五年の知合いと言ってもあんなに手を繋いで楽しそうにするのか?そのまま後を付けていくと、えっ!なんでそっちの道に行くんだ。


 俺は、何も考えられないまま付いて行くと、えっ!二軒目にあるラブホに嬉しそうに入って行った。


 嘘だろう。頭が真っ白になった。何で、何で佐那が……。


 俺はその場で膝が折れてじっとしていると涙が出て来た。信じられない。俺だけだと信じていたのに。

 あの入り方からして昨日今日の関係じゃない。


「東雲君」


 俺に声を掛ける奴なんていないと思ながら顔を上げると、理由は全く分からないが浅井さんとその友人が立っていた。


 俺は、何も言わずに直ぐ立つとそのまま走って駅に向かった。泣き顔で電車に乗る気にもならず、ポケットからハンカチを取り出すと涙を拭きながら駅に向かった。




 私が渋山に来たのは友達と会う為。午前十二時に会ってお食事をした後、駅の近辺を歩いていたら、なんと交差点を過ぎた所で東雲君を見かけた。全くの偶然だ。


 彼は美男子だし、とにかく背が高い。周りの人より頭一つ大きいからとても目立つ。直ぐに分かった。


 でも様子がおかしい。彼の視線の先を見ると何と上条さんが男の人と歩いている。それも手を繋いで楽しそうに。


 私達は東雲君を追いかける様に歩いて行くと前を歩く二人が横道に逸れた。それを追いかける様に東雲君は歩いて行った。


 私達もそれに付いて行くと上条さんと男の人がホテルに入って行った。お友達がラブホとだと説明してくれた。道理で私には生理的に受け付けない雰囲気だ。


 そして二人の姿を見た東雲君は膝を落としてアスファルトの上に涙を落とし始めた。

 見ていられなくて声を掛けると、とっても本当にとっても悲しい顔をしながら走り去った。


 私がすべきことはもうはっきりとした。迷う事は無くなった。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る