第37話 別の進展もある


 テレビ放映向けのお琴の練習は、冬休みが終わる前の土日から始まった。私としてはもっと和樹と一緒に居たかったけど仕方ない。


 喜之助との連れ弾きの曲を一人で弾くには問題無いのだろうけど、息が合ったハーモニーの様に連れ弾きするのは難しい。一つ一つの音が調和しないといけない。


 土曜、日曜とも午前中から午後五時まで稽古した。でも四回しかない。喜之助も私も必死だ。でも喜之助はもう十年やっている。私は五年。どうしても腕前に差が出る。


 曲に対する理解の深さ、レベルも違うのだろう。でも仕方ないでは済まされない。国営放送で全国に流されるのだ。山田流を汚す訳にはいかない。



 収録は結局二月一日の土曜日に行われた。お師匠様のお琴、上級者の四人による連れ弾き、そして私達二人による連れ弾きだ。


 更にお師匠様へのインタビューというかトーク。そして私と喜之助とのトークも有った。

 解説者に上手く誘導され二人の関係とかも聞かれてしまった。私は適当に流したけど喜之助は真面目に受け答えしていた。



 撮影には丸一日掛かった。そして何とか終わった。撮影が終わると喜之助が

「佐那、明日会いたい。一月中ずっと緊張していたから、ゆっくり佐那と会いたいんだ」

「うん、いいよ」

 日曜日なら問題ない。




 俺は学校で佐那の様子を見ていると一月は稽古の事で頭が一杯の様だった。英検や模試も有ったけど、稽古の為、土日の対策も出来なかったからどの位の出来だったのか分からない。


 二月の一日に撮影があったそうで、次の日曜日は会えるのかと思ったけど稽古は普段と同じというので、会う事は諦めた。




 放映収録の有った次の日は稽古は休みだった。でも喜之助が会いたいというので、会う事にした。和樹には稽古と言って有る。


 喜之助は私を部屋に連れて行くと

「佐那、俺はお前と連れ弾きしている時の一音一音がお前の心臓、心と俺の心臓、心と本当に同期しているように体が腕が指が弦に触れ音色を奏でていた。


 お前の奏でる音が俺の体の中に協和音として入って来た。だから、今日はそれが本当に俺が感じた事実なのか、それとも俺の自惚れなのか確かめてみたいんだ」

「喜之助…」

「佐那」


 喜之助の言葉の意味は心の中に入って来ている。それを感じ取る様にそして彼がそれを確かめる様にお互いの心が体が同期した。


 感じるとかってレベルじゃない。体の奥の中にある何かが彼の何かと反応して同期している様だった。まさに夢の中にいる様な感覚。


 私も彼も何回も何回も気絶しそうになる位、頂点に達した。


 どの位、何回したなんて分からない。気が付けばもう午後三時を過ぎていた。



 私も彼も足腰が立たないんじゃないかっていう位疲れた。夕方になり隣で横になっている喜之助に


「凄かったよ。もう言葉で言い表せない位」

「うん、確かめてやっぱり分かったよ。佐那と連れ弾きして一音一音を佐那と一寸の狂いもなく弾き繋ぐ。


 本当に初めは出来るかなって思った。でも実際は二人で何回も練習して同期する様にして、最初から最後まで一音もずれる事無く二人で弾けた。


 これって、俺と佐那だから出来るんじゃないかって。心が一音の狂いもなく繋がっているんじゃないのかって。


 だから俺は決めたんだ。佐那と一緒になる。今日は佐那の全部を知りたかった。だからいつもより激しかったけど時間も掛けて心と体を一緒にした。

 佐那、俺と結婚してくれ」


「えっ?!」

「駄目なのか?」

「そういう事じゃなくて。私達まだ高校生だし、そんな大事な事いきなり言われても。考える時間位欲しい」


 まさか喜之助が今回の連れ弾きでここまで心の変化をするなんて。




 二月に入って、稽古は普通に戻ったけど、稽古が終わった後、喜之助とは毎週会っている。勿論あの回数も格段に増えた。そして一回で終わらなくなった。


 だからという訳ではないけど、土曜日は和樹として日曜日は喜之助とするという流れになってしまった。これは不味い。流石に私の体も持たない。



 和樹が月曜日の朝、学校のある改札で待合せて登校するのだけど


「佐那、最近、月曜日の朝って思い切り疲れているよな。偶に目の下に隈が出来ている時も有る。どうしたんだ?まだ稽古厳しいのか?」

「ううん、そんな事無い。ちょっと最近体調悪くて」

「そうか。学校は新入生の入試と採点で今週の金曜日から木曜まで休みだ。金曜は学校があるが直ぐに土日になる。そして次の週はいよいよ学年末考査だ。


 本当は、休みの間に考査準備を一緒にしようと思っていたんだけど、止めるか。佐那の体の方が大切だし」

「ううん、一緒にする。今度の日曜日は考査前という事で稽古休むから」

「そうか。分かった」



 今週は月曜日から木曜日まで普通授業だけど、金曜日が入試で学校は休みになる。普段の放課後の図書室での勉強はいつも通りした。


 そして金曜日から、佐那の家に行って学年末考査の対策をした。体調が悪いと言いながらも土曜日になると


「ねえ、和樹、午前中だけでいいから」

「駄目、午後からにしよう。疲れちゃうよ」

「分かった」


 結局午前中考査対策をした後、昼食を摂ってから午後五時までした。最近の佐那は敏感だ。どうしたのかな。


 和樹にして貰っている。毎週土日、和樹と喜之助にして貰っている間に体が毎週しないとそれもちょっと強くしないと我慢出来なくなってしまった。それに何故かとても感じる。


 こんなの良くないと分かっている。止めるとしたら喜之助。でも琴を止めるにはお母さんを説得するしかない。でも理由がない。どうすれば。



 私は、日曜日になってしたくて堪らなかったけど、和樹と一緒に勉強した。流石に昨日して貰ったのに今日もという訳にはいかない。でも何か体が変。


「佐那、集中出来てない様だけど、どうしたんだ?休憩するか」

「ううん。勉強する。和樹と一緒のクラスになりたいから」

「そうか。じゃあがんばろう」


 でも、和樹が帰った夜、我慢出来ずに私は自分でいけない事をしてしまった。こんな事になるなんて。私って…。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る