第36話 順調な関係
二学期末考査の成績発表が終わってから二週間後は終業式。そしてそれまでは土曜午前中授業はあるものの他の日も全て午前中授業になる。
俺と佐那は、午後三時までは図書室で三学期分の予習を重点的にした。その後は街に出てウィンドウショッピングしたり、映画を見たり佐那の部屋で楽しい事をして遊んだ。
佐那は、日曜日はお琴の稽古がある。だから俺は日曜日だけは、本屋で買った問題集をこなして学校の授業の補強をしている。
私は、日曜日以外は和樹といつも一緒にいる。図書室での勉強も二人、放課後は二人でその時したい事をして楽しんだ。
日曜日、お琴の稽古が終わった時、お師匠様が
「皆さん、来年の三月にこの山田流のお琴の練習風景をテレビ放映される事が決まりました。
皆さんには門下生として練習風景をテレビ出演して頂きます」
ざわざわざわ。
「驚かれたと思いますが、いつもの練習をしている姿を撮るだけです。収録は一月の終りに行います。いつも以上に自分自身の研鑽に励んで下さい。
なお、上条さんは長谷富君と一緒に連れ弾きする場面も用意されています」
「「えっ!」」
「驚く事はありません。あくまで門下生として二人の息の合ったお琴をテレビの前の視聴者に聞かせてあげて下さい」
「佐那、がんばろうぜ」
「うん」
「ふふっ、その調子です。息の合った演奏をお願いしますよ。演目は…」
お琴の稽古が終わりお母さんと一緒に帰りながら
「お母さん、凄い事頼まれちゃったね」
「喜之助君とも共演出来るし、よかったじゃない」
「でもテレビに出るんだよ。恥ずかしいよ」
「ふふっ、お母さん、佐那がお琴でテレビデビューするなんて夢のようだわ。それに喜之助君となんて。お着物も早く新調しましょうね」
「それは嬉しいけど」
和樹にテレビ出演の事は話しておかないといけない。でも喜之助との共演は予定外だったな。上手く言っておかないと。
イブの日、私は和樹と二人だけの時間を過ごしていた。勿論美味しい食事をした後は、えへへ。
一回終わると
「和樹、私ね。テレビに出る事になったの」
「えっ?!テレビ出演?」
「うん、日曜日にお琴の稽古しているじゃない。私は山田流という流派なんだけど稽古場のお師匠様が、門下生の練習風景をテレビに映すんだって。
勿論メインはお師匠様のお琴だけど、宣伝も狙っての事じゃないかな。それでその時、いつも一緒にというか教えて貰っている私より五年も早く初めた男の子とお琴の連れ弾きする事になっちゃったのよ」
「連れ弾き?」
「うん、二台のお琴でそれぞれが同じ曲を弾くの」
「へーっ、凄すぎて俺には良く分からないけど。とにかく凄いな」
「ありがとう。一応話しておこうと思って。放映日決まったら教えるね」
「うん、絶対に見るから」
今はこの位の説明で良いだろう。まあ、当日何も無いだろうけど。
その後は、更に二回もしてもらっちゃった。話した事で気が楽になった私は思い切り感じちゃった。
終業式も終り冬休みに入ると直ぐに和樹と一緒に冬休みの宿題を片付けた。自分でも成長が良く分かる。前だったら引っ掛かっていたような問題も自力で解けるようになっていたからだ。
「佐那、成長が見えるな。これなら学年末考査も問題なさそうだ」
「うん、二人で同じ大学行きたいからね」
「そうだな」
「ねえ、そう言えば、まだ和樹の家に行ったことない」
「うーん。両親とも仕事していて俺一人だから声掛けなかった。それに佐那の家は学校の隣駅だけど、俺の家は学校から反対方向に四駅だよ。全然、佐那の家の方が楽だ」
「そうかぁ。そうだよね。うちに来た方が和樹と会っている時間長くなるし」
「その通りだよ。俺も少しでも佐那と一緒に居たい」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しい」
正月は佐那と初詣に行く為に彼女の家に迎えに行った。インターフォンを押して少し待つと彼女は綺麗なピンクを基調にした着物に金糸の入った淡いブルーの帯、頭には金をベースに飾りの付いた簪を差している佐那が出て来た。
「佐那、綺麗だよ」
「ふふっ、ありがとう」
「行こうか」
「うん」
佐那の着物姿はとても可愛かった。大きな胸が着物で締め付けられて可哀想だったけど。
行ったのは、音江と去年一緒に来た神社。この辺では大きな神社なので仕方ない。今年も駅を降りて直ぐに商店街から参道に続く道まで混んでいた。
二十分程で鳥居まで着いてもその中に入るのに幾重にもロープが張られて中々境内に入れない。
更に二十分ほどかかってやっと境内に付いた。お参りの仕方を書いてある案内板の内容をしっかりと頭に入れてお賽銭も入れてお参りをした。
二人で終わって横にずれると
「和樹、何をお願いしたの?」
「それ言ったら、実現しないって聞いているけど」
「そんな事無いと思うけど。私はね、お琴のテレビ放映が上手く行きます様にって、後もう一つは教えない。そっちは思い切り大事な事だから」
「あははっ、それがいいよ」
和樹とずっと一緒に居れます様にって。いつも思っている気持ちだけど、これは神社の神様にも応援して貰わないと。
「ねえ、おみくじやろう」
「勿論」
料金箱に百円を入れて六角の筒を良く回して逆さにすると番号が書いてある一本の棒が出てくる。
その番号が書かれている引出しを開けて上から一枚取り出す。丁寧に開けると
「中吉だ。去年と同じだな」
「私は、えっ、吉だ。ショック」
「そんな事無いよ。吉は中吉より良いじゃないか」
「でも、願い叶うも努力すべし。探し物見つからず。勉学努力すれば報われる。何となくパッションが無い」
「いや、おみくじにパッション求めても。俺は願い事叶うも難しきって書いてある。何だこれ?」
それに恋愛成就せずと書かれていた。なんで。こればかりは佐那に言えない。
「和樹、これあそこに結び付けてお焚き上げして貰おう。悪い事書いてある部分は無しになるという事で」
なんか随分都合のいい思いだけど。
神社を出てから商店街をゆっくり歩いたけどとっても観光地化している。お洒落なお店が一杯だ。
「佐那、お茶でも飲んでいくか」
「これ脱ぎたい。何も入らない」
「そうか。確かに苦しそうだな」
「男の人はいいよね」
「まあこればかりはね」
その後、佐那の家に行って彼女が着物をお母さんに手伝って貰い脱いで普段着に着替えてから、二人で渋山に出かけた。
お昼を一緒に食べながら佐那は、
「和樹、お琴の放映収録って一月末にあるの。だから男の子と連れ弾きする練習しないといけないから今月だけ土日ともお稽古になる。収録終わるまでごめん会えない」
「それは仕方ないよ。でも学校では会えるんだろう」
「それは全然問題ない」
「今月だけだし。練習頑張って」
「うん!」
俺はこの時、おみくじに書いてあったことが脳裏に蘇った。恋愛成就せず。まさかね。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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