第31話 修学旅行の前に
月曜日の朝、担任の琴吹先生が入って来ると全員挨拶の後、
「今日から考査ウィークに入ります。しっかりと勉強して来週の中間考査に備えましょう。
そして今月末は模試があります。そろそろ方向性決める時期でもあります。それを念頭に置いて望んで下さい。
最後ですが、来月初めに修学旅行が有ります。楽しみにしていると思いますが、その前の中間考査と模試をしっかりと全力を出し切って楽しい気持ちで行きましょう」
流石菅原学院高校の担任だ。修学旅行の思いで浮足立たない様に注意喚起している。
琴吹先生が教室を出て行くと急に騒がしくなった。須藤さんが
「東雲君、今年の修学旅行ってグアムだよね」
「配られたプリントに載っていたからね」
「それでね。私、英会話得意でないし、逆に覚えたいし、だから同じ班にならない」
「えっ、それはまだ…」
「こら、須藤さん、抜け駆けは駄目よ。皆同じ気持ちなんだから。その辺はしっかりと後で決めましょうよ」
-そうだ、そうだ。
今の声にシュンとした須藤さんだけど直ぐに一限目の先生が入って来た。しかし、今時グアムで英会話必要か?あそこ日本人や隣の国の人だらけだろう。英コミレベルで良いんじゃないか?
午前中の授業が終わると、直ぐに図書室に行った。午後三時まではあそこで勉強が出来る。
行くと、えっ?何故か佐那の近くに浅井さんとその友達が座っていた。声は出していないがアニメで言ったらお互いの目の間をスパークが飛び散っている様な。どうしたんだ?
俺は佐那の近くに行くと小声で
「佐那、どうしたんだ?」
「別に。私が座ったら、この二人が直ぐに座って来たの」
「図書室の座る場所に制限や規則は有りませんよ」
「じゃあ、他の所に行きなさいよ」
俺が呆れて見ていると図書委員が
「静かにして下さい!」
「「すみません」」
また、あんたの所為だという感じで睨み合っている。困ったな。
「和樹、勉強しよう。こんな女無視して」
「何ですって!」
いつも冷静な浅井さんが怒った。
また図書委員が来て
「静かにして下さい。今度注意されたら出て行ってもらいます」
「「はい」」
はあ、何やっているんだこの二人。どうしようもなさそうなので俺はそのまま佐那の隣に座って勉強を始めた。
俺がやり始めると睨み合いを止めて三人とも勉強を始めた。良かった。しかし、勉強中、佐那が俺に質問する時、凄く近づいて胸を俺の腕にぐりぐり当てる様な恰好で聞いて来る。
それを見ていた浅井さんが
ボキッ!
「佳織、どうしたの?」
「あっ、ごめんなさい」
このグラビア女の所為で大切な鉛筆を割ってしまった。質問の振りして東雲君にわざと胸を擦り付けている格好を見せつけている。
気が散りっぱなしだったが、それでも何とか午後三時の予鈴まで勉強する事が出来た。駅までの帰り道
「和樹、明日から私の家で勉強しよう。あんな女がいると気が散って仕方ない」
そっちの方が、気が散る様な?
「明日図書室に行って浅井さん達が居たらね。居なかったら図書室にしよう」
「分かった」
結局次の日から浅井さん達は来なかった。彼女も流石に気が散ってしまったんだろう。
土曜日は朝から佐那の家のリビングで考査対策した。でも午後からは佐那に押し切られた。
日曜日は流石に考査前だからお琴の稽古は休むらしい。この日は一日中勉強した。
そして迎えた中間考査。二年生ともなると中身が深くなって来る。全部答えはしたけど自信のない問題が何か所か有った。
中間考査の次の土曜日は、いつもの楽しい事をした。ほぼ一日中だ。大分疲れてしまった。
でも彼女は元気らしく日曜の琴のお稽古は行くと言っていた。何か好きな趣味を一つ持っているという事は羨ましい。
そして迎えた翌週火曜日。俺と佐那が中央階段横の掲示板に行くと結構な人だかりだ。張り出された成績順位表を見ると
ほっ、何とか一位は維持できたが、なんと二点差で二位に浅井さんだ。俺を見つけると
「東雲君、これからはいつも一緒ですよ。その女の様にあなたから遥か彼方に居るような事はしません」
「な、なんですって!」
確かに佐那は、三十五位だ。でも頑張った。一学期まではこれには載っていなかったからな。
-ありゃ、様子がおかしいぞ?
-武夫、これは一波乱あるかも?
-そうだな。
全く、流石だ。東雲が何もしなくても周りが騒ぐ。
俺と佐那が教室に戻ると神林と小岩井さんが近付いて来た。
「東雲、また一位だな。大したものだ。今度本当に勉強の仕方教えてくれ」
「ただ予習復習しているだけだよ」
「でもやり方とか有るだろう」
「まあ、そうかも知れないな。ところで神林頼みがあるんだが」
「なんだ?」
「お邪魔でなかったら神林と小岩井さんの班に俺を入れてくれないか」
-えっ、東雲君、今なんて言ったの?
-後、二枠しかなくなったじゃない。
-もう、命張るしかないわ。
「それは良いけど。俺達で良いのか?」
「神林の所だからいいんだ」
東雲に頼まれたなら仕方ないが、残り二枠、あまりいい予感しないな。
そんな話をしている内に琴吹先生が入って来た。
「皆さん、今日の午後のLHRで班決めを行います。そして各班毎に自由行動時の行動予定表を作って下さい。提出は来週の月曜日です。ですが、来週木曜日には模試が有ります。気を抜かない様に」
先生が出て行くと教室の中がざわついた。勿論班決めのメンバ探しだ。大体がいつもの仲のいい仲間同士で集まるのだが…。
-ねえ、後二枠よ。
-どうやって決めるの。
-LHRで公式じゃんけんでしょう。
-それしかないわ。
なんか凄い事言っているぞ。
そして今日最後の時間はLHRだ。琴吹先生が入って来ると、
「班決めをします。もうある程度固まっているでしょう。その班毎に集まってみてください」
ガタガタ動いた。俺も神林達の所に行ったのだが、
「えっ、これどういうことですか。女子が十人以上自分の席に居ますよ」
クラス委員の女の子が
「先生、私達は神林君、小岩井さん、東雲君の班に入りたいんです」
「でも一班五名です」
「だから、みんなでじゃんけんで決めたいと思っています」
「じゃんけんですか?神林君達はそれでいいの?」
「仕方ありません」
「では仕方ないですね。自席にいる人達でじゃんけんして下さい」
「あの、先生。東雲君とじゃんけんして残った人にしたいんですけど」
「えっ、俺と?」
「うん、東雲君お願い」
「東雲、諦めろ」
「神林、お前なぁ」
「東雲君、君の運命よ」
「小岩井さんまで」
「東雲君、時間が勿体ないわ。早く前に出て来なさい」
くそっ、なんでこうなる。
仕方なく俺が前に出て自席にいる女子とじゃんけんした。残ったのは…。
「わーい。勝ったぁ!」
思い切り嬉しそうな須藤さんとなんと
「勝ちました」
若菜だ。何たる最悪な結果だ。
「では、負けた女子は空いている班に入って下さい」
何故か一分もかからずに決まった。どうなってんだ?
「はい、では班が決まった所で行動計画表を考えて下さい。提出は来週月曜日です」
須藤さんはともかく如月さんが一緒とは。大変な班になったな。さて東雲がどう出るかな?
放課後の帰り道、
「ねぇ、和樹。修学旅行の件だけど、来週月曜日に計画表出すでしょう。何とか向こうで一緒になれないかな」
「流石にそれは厳しいんじゃないか」
「えーっ、何とかならないの?」
「うーん、やっぱり無理だよ」
―――――
修学旅行を海外にした場合、パスポートの事とか気になる読者様もいられると思いますが、作品の中の事としてご了承下さい。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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