第30話 あの手この手


 十月に入った。佐那とは毎日楽しい時間を過ごしている。今日も学校の帰り道

「今度の土曜日何しようか。うちに来る?」

「うーん、それもいいけど、もうすぐ中間考査が有る。勉強しよう」

「えーっ、まだ二週間以上あるじゃない」

「駄目、学生の本分は勉強なんだから」

「分かった。勉強とあれでどう?」

「時間余ったら」


 佐那は基本的には勉強が嫌いな子ではない。そうでなければ俺と毎日図書室で勉強出来ない。週中は駅で会い、駅で別れるから土曜日だけが俺達だけの時間。


 それを好きな事に使いたいんだろう。でももう二年の二学期だ。そろそろ始動しないといけない。




 私、浅井佳織。東雲君を上条さんに取られた。あの二人が何処で知り合ったのか分かった。図書室だ。


 多分、東雲君が変な噂で周りから引かれていた時、彼は図書室に居た。その時、知り合ったんだろう。


 でもその程度ではあんなに深い仲にはなれない。夏休み、そしてその後も上条さんが理由をつけては彼を誘い出したんだ。どういう理由かは分からない。


 彼女は月曜から付き合い始めたと自慢していた。だから文化祭の後片付けの日に何か有ったんだ。


 油断していた。プールの件や思井沢の事そしてその後も彼と一緒に居る事が出来た。だからあと少し無理せず距離を縮めればいいと思っていたのに。


 まさか、同じクラスの子が彼に近付いていたなんて。東雲君は上条さんには相応しくない。あんなグラビア女子見たいな子は別の男子の方が余程合っている。


 いずれ別れると思うけど手を子招いて見ている事は出来ない。とにかく花蓮や同じクラスの子達に彼女の事を聞いてもっと情報を集めないと。




 金曜日の放課後、

「佐那、明日の午前中は本屋に行って問題集を買いに行く。苦手な教科は教科書重点でやるけど、得意教科は問題集を使ってもっと深くて広い範囲をやらないと」

「えーっ、私、教科書だけで精いっぱい」

「駄目だ。とにかく明日の朝は本屋に行くぞ」

「もう、仕方ないなぁ」



 次の日は、彼女の家の最寄り駅まで迎えに行くと言ったのだけど、待ち合わせが良いと言われてSCのある駅の改札口で待合せた。なんでもその方がロマンチックだそうだ。俺には分からん。



 俺の方が全然近い。だからという訳ではないが約束の午前十時の二十分前に改札で待っていた。


 改札の反対側のビルの壁よりで待っていると佐那がエスカレータで降りて来た。綺麗な花柄のワンピースを着て白いハイヒールを履いている。肩からは濃い目の紺の可愛いバッグを提げている。中々素敵だ。


 直ぐに改札の近く行くと

「おはよう、和樹」

「おはよう、佐那」

「本屋ってSCの中にある本屋だよね」

「うん、来た事有るの?」

「ここは昔から有名だよ。私も何回か利用している」

「そうなんだ。とにかく行こうか」

「うん」


 本屋の中に入ると直ぐに参考書売り場に行った。数学と物理、化学の問題集を手に取ると

「えっ、そんなに買うの?」

「うん、日曜日は佐那と会えないから家でやる」

「そうかぁ。じゃあ、私は英語の長文対策にしようかな。長文読解苦手。いいよなぁ、和樹は英語気にしなくていいんだから」

「あははっ、そんな事無いよ。まあ慣れてはいるけど」

「じゃあ、教えて」

「それは問題ないけど」

 教えての意味が何か別の意味に聞こえた様な?



 問題集を選び終わると

「和樹、女性雑誌も見ていい?」

「構わないけど。俺はこっちにいるよ」

「うん、いいよ」


 彼女が女性雑誌のコーナーに行ったのを見てから科学本が置かれているコーナーに移動した。


 宇宙や量子力学には俺の知らない多くの未知の世界がある。それに触れるのが俺の趣味だ。それでも三十分もいれば飽きる。


 佐那の行った女性ファッション誌のコーナーに行くと彼女が目を光らせて雑誌を見ていた。佐那も高校二年生、ファッションには興味あるよな。


 俺もスポーツ紙とか手に取って見たけど、あまり興味無い所為かペラペラとめくるだけだ。佐那早く終わらないかな。



 中々終わりそうに無いので彼女に近付いて

「佐那、そろそろ」

「あっ、和樹。どうこの人素敵だようねぇ。どうしたらこんなに綺麗になるのかな」


 えっ?!お母さんが載っていた。

「この人って和樹に似ているよね。あっ、違うか和樹がこの人に似ているんだ」


 不味い。

「佐那。会計して帰ろう。お昼になってしまうよ」

「えっ!うん、分かった」


 彼女が要らぬ事を言ったものだから周りの女性からチラチラと見られてしまった。


 SCの外に出ると

「和樹、お昼食べて行こう」

「良いけど。何処で?」

「改札反対側の二階にレストランが一杯並んでいる」

「分かった。行こうか」


「和樹、何食べたい?」

「スパか、ピザ」

「私はスパ食べたいからそこのお店入ろうか」


 佐那と一緒に入ったレストランに何故か、本当に偶然に浅井さんがいた。友達と一緒のようだ。俺達の姿を見ると近寄って来て


「あら、東雲君、上条さん。デート?」

「見れば分かるでしょう。デート!」

「彼女と一緒に問題集買いに来たんです」

「なんてすばらしいデートなんでしょう。上条さんもさぞ楽しいでしょうね。おほほ」


 それだけ言うと座っていたテーブルに戻って行った。


「なに、あれ。嫌味満載。別のレストランに行こう」

 それを言ってから俺の手を引っ張って外に出てしまった。



 私達がここに居たのは全くの偶然だけど、東雲君らしいな。あの様子だと上条さんが連れて来られたという感じだ。


 映画見た後とか言われたら悔しかったけど、問題集を買いに来ていたとは。まだまだそんなレベルの仲なんだ。良かった。


 別のレストランで食事を済ませると少しだけご機嫌を取り戻して

「和樹、早く私の家に行こう」

「そうだな」



 彼女の家に行ったのは良いのだが部屋に入るなり抱き着いて来て

「ねえ、あの女の所為で勉強の気分じゃなくなった。あれ先してから勉強しよう」

「いや、それは逆でしょう」

「駄目ー!」


 今日は勉強出来そうにないな。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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