第29話 そんな事言われても


 佐那とは、次の日もその次の日も一日中会っていた。

一日目は、渋山で彼女の買い物に付き合った。俺が一緒に入るのにハードルの高い店では無かった。後は映画見たり昼食を食べたりした。


 二日目は彼女の家で楽しい事をした。勿論、準備はしっかりとしている。お昼は彼女の手料理を食べさせて貰った。中々美味しかった。


 午後三時位になり

「ねえ、学校で二人の仲話す?」

「無理してこっちから言う必要はないけど聞かれたら話せばいいんじゃないかな」

「そうだね。お昼は一緒に食べよう。でもごめんお弁当とかは持って行けない」

「全然構わないよ。学食で二人で食べよう」


「うん。それと駅からの登校と下校は一緒でいい」

「それも構わないよ」

「あと、日曜日は、お琴のお稽古があるから会えない。先生が隣の県だから一日掛かる」

「お琴のお稽古?」


「うん、中学一年から始めたんだ。お母さんも同じ」

「へーっ、すごいなぁ。今度聞かせて」

「良いけど、まだ発表会とか出れるレベルじゃないから、先の話になる」

「楽しみにしているよ」

「ねえ、家族帰って来る迄まだ三時間ある。だから、ねっ」

 どうも佐那は好きらしい。



 次の朝、俺が学校の最寄り駅の改札を出ると佐那が待っていた。


「おはよう、和樹」

「おはよう、佐那」


 直ぐに手を繋いで来た。俺の顔を見上げると、えへへっとか言って来る。俺も握り返してあげた。


 同じ制服を着ている生徒が少し驚いた顔をしている。まあそうなるよな。学校が近くになるにつれて俺達を見る視線が多くなった。ほとんどが驚きの視線だ。



 昇降口まで来ると

「和樹、お昼ね」

「おう」


 周りの生徒が驚いているけど無視。そのまま別々に教室に入って自分の席に着くと須藤さんと早瀬さんが朝の挨拶をして来た。それに応えると


「ねえ、東雲君、2Bの上条さんと朝、手を繋いで歩いて来たよね」

「情報早いなぁ。うん、佐那とは月曜日から付き合い始めた」


「「「「「えーっ!」」」」」

 女子達の悲鳴にも近い声が凄い。


「ど、どういうこと?どうして上条さんなの?」

「どういう事って言われても。まあ色々有って」


-ほんと、何で上条さんなの。何で私では無いの?

-あんたの胸と彼女の胸の差かな。

-東雲君はそんな事比較しないよ。

-じゃあ、分からない。でも残念だなぁ。私だったら良かったのに。

-あんたなんか私より無いじゃない。

-選択は胸じゃないよ。

-うん、そうだよね。


 和樹が上条さんと…。なんで、これじゃあ、元に戻るチャンスが消えちゃう。


 女子達が好き勝手な事を言っている間に担任も琴吹先生が入って来た。



 そして午前中の授業が終わり、昼休みになると

「和樹、お昼行こう」

「おう」


 佐那の声で俺は教室を出ると何故か、浅井さんが2Aのドアの傍でジッと俺の顔を見ている。無視しようとすると


「東雲君、放課後お話が有ります」

「時間が有れば」

「和樹、行こう」

「うん」


 廊下を歩き始めると直ぐに手を繋いで来た。周りの生徒がジロジロ見ているけど構わない。


 学食に行き、チケット販売機でB定食を選んだ。佐那はA定食だ。二人でカウンタで定食を受け取ると窓際の二人席に座った。


「和樹、朝一緒に登校して来た事色々聞かれちゃった。だから月曜日から付き合う事に決めたって言ったら皆驚いていた」

 だから浅井さんがあの反応か。


「ああ、俺もだよ。でもどうせ知られるんだから良いんじゃないか」

「ふふっ、和樹がそう言ってくれると安心する」

「それより食べよう」

「うん」


 周りに居る生徒からの視線が凄かったけど、その内馴れてくれるだろう。


 沙耶と楽しい会話をしながらお昼時間ギリギリまで学食で話をしていた。




 午後の授業も終わり放課後になって、俺が図書室に行こうとすると教室のドアの傍に浅井さんが立っていた。


「東雲君、少しだけ時間を下さい」

「…分かりました」


 彼女は校舎裏のベンチに俺を連れて来ると

「お忙しいようですから単刀直入に言います。何で私を選んでくれなかったのですか。あれ程、あなたにアピールしましたよね。彼女になりたいと。

 どうして私でなくて上条さんなんですか?私より彼女の方が魅力的なのですか?」

「そ、それは、…」


「やはり、彼女が強引に仕掛けて来たのでしょう。そうですよね。それなら私も同じ土俵に立たせて下さい。その上でもう一度、上条さんか私か選んでください」


「流石にそれは出来ません。どういう理由で浅井さんでなく佐那を選んだかを教えるつもりは無いです。二人だけの事ですから」


「私は諦めません。絶対に東雲君の心を私に向かせます。例え今、あなたの心が上条さんに向いていようとも。では」


 浅井さんは教室の方に戻って行った。やはりあの人は、はっきりとした人だ。

佐那とああいう状況にならなかったら分からなかったかも知れないが、俺は佐那を選んだ。彼女の言っている事が実現する事は無い。




 俺は急いで図書室に行くと佐那が心配顔で待っていた。

「浅井さん?」

「うん。でもはっきりと言ったから」

「うん。ありがとう」


 そして、予鈴がなるまで図書室で勉強して、手を繋いで帰った。次の日も同じだ。土曜日は午前授業なので午後から佐那の家に行き、お昼を食べた後、彼女と楽しい事をした。


 日曜日、彼女は他県に母親と一緒に琴の稽古に行くというから、俺は一人で過ごした。思井沢で買ったペーパーバックと週刊誌を読んでいなかったので、丁度都合がいい。



 九月中はそんな感じで佐那と過ごした。楽しい時は大きな声で良く笑う。決してお喋りではないけど色々な事を話した。俺の向こうでの生活も色々話した。


 十月第三週は中間考査がある。佐那と一緒に勉強するつもりだ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

  

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