第28話 のんびり出来ない


 文化祭の翌日月曜日は片付けの日だ。俺達は、模擬店のテントを畳んだり、ガス台とプレートを綺麗にした後、皆でスーパーに返しに行った。


 スーパーの経営者はとても喜んでくれて、シャインマスカットをひと箱くれようとしたけど、流石にそれは断った。


 具材購入先からの謝礼は誤解を受けるし、クラスで粒粒を分け合うのは、それはそれで大変だからだ。


 大体のクラスが午前中に終わり、下校となった。明日と明後日は文化祭の代休だ。

 流石に今日は図書室には行かずに一人で帰ろうとすると昇降口で上条さんが待っていた。


「一緒に帰らない?」

「構わないけど」


-えっ?

-どういう事?

-まさか上条さん!

-まだ分からないわ。


 東雲君が上条さんと一緒に帰って行く。あの二人、何処で知り合ったんだろう。思井沢の後も映画とお昼を一緒に食べて少しは近くなったと思ったのに。



 周りの声を無視して二人で校舎を出た。この人とは図書室が閉まった後、駅まで一緒に帰る事が多いので特に抵抗はない。歩いていると


「ねえ、東雲君」

「なに?」

「文化祭一日目の時、お昼一緒に食べ損ねたでしょう。だから今日か明日お昼一緒に食べない?」

「えっ!あれは仕方なかったから…」


「だから、一緒に食べよ。ねっ!そうだ、私がお昼作ってあげる」

「流石にそれは遠慮する。申し訳ないし」

「全然申し訳なくないよ。ねっ、うちに来て」

「いやいや、遠慮しておく。今日は一人になりたいんだ」


「じゃあ、明日。ねえ、良いでしょう」

「うーん。駄目」

「じゃあ、今からファミレスでもいいから」

「それならいいよ」


 駅の傍のファミレスに入るのかと思ったら、今日ここはうちの生徒がいっぱい利用するはずだから、自分の家の最寄り駅の近くにあるファミレスにしようと言って来た。


 俺も上条さんと一緒に居るとつまらない噂を立てられかねないのでそっちに行く事にした。



 学校のある駅の隣駅、直ぐに着いた。確かにファミレスが有った。まあ、当たり前か。中に入ると結構ロボット化が進んでいる。


「このタブレットで、注文するの。そうするとあのロボットが持って来てくれる」

「へーっ、面白そう」

 

 初めて見た。俺はハンバーグステーキセットとドリンクバー、彼女はエビドリアとドリンクバーを頼んだ。

「流石にドリンクは自分で取りにいかないと」

 確かに。


 俺はコーク、彼女はオレンジジュースを取ると席に戻った。


「うちね、ここから歩いて五分位なんだ」

「へーっ、近いんだね。じゃあ学校まですぐじゃないか」

「うん、それは助かっている」

「東雲君、明日と明後日は何か予定入っているの?」

「特に入っていないけど」


「じゃあ、一緒に遊ばない」

「うーん、ちょっとそれは」

「でも私達友達でしょう。一緒に遊んでもおかしくないんじゃない?」

「友達と言ってもそこまでは」

「でもこうして一緒にお昼食べているよ?」

 忘れていた。この子に口では敵わないって事を。しかしなぁ。


「ね、ね。一緒に遊ぼ」


 そんな会話をしている内にロボットが注文した品を持って来た。お待たせしましたとか言葉を言っている。

「料理を取ったら、このボタン押すの」

「へーっ」


 彼女が自分と俺の料理をロボットの台から降ろして顔に当たる部分のボタンを押すと帰って行った。


「おもしろいなぁ。言葉は喋るし、何より清潔感があるよね

「うん、子供連れにも評判だよ」


 そんな話をしながら二人で食べた。食べ終わってからもう一度ドリンクバーに行ってお代わりをして、更に三十分位居てから

「そろそろ出ようか」

「うん」


 会計はロボットが持って来ていた請求書を会計に持って行けばいいらしい。結構な省人化だな。


 外に出て、別れようとしたところで

「痛い!」


 上条さんがお腹を押さえながら座り込んでしまった。

「食べ過ぎたかな?」

「でもエビドリアとドリンクバーだけだったでしょ」


「東雲君、家まで送って。一人だと心配」

「分かった」

 確かにこのままでは良くない。



 彼女はゆっくりと立つとお腹を手で押さえた。俺は自分のバッグと一緒に彼女のスクールバッグも持って横に並んで歩いた。

「手を繋いでくれない。ちょっと歩くのが…」

「分かった」


 彼女の手を掴んであげるとゆっくりと歩き出した。五分と言っていたけどゆっくり歩いた所為で十分程掛かって彼女の家に着いた。素敵な家だ。


「ごめん、家の中まで」

「うん」


 彼女が玄関の鍵を開けて中に入ると

「東雲君も」

「で、でも」

「いいから入って」


 俺が入ると

「部屋まで連れて行って」

「えっ!」

「お願い。二階だから一人じゃ厳しい」


 仕方ないか。二階まで彼女が階段を落ちない様に少しだけ先に手を繋ぎながら歩いて上がると

「そこのドア開けて」


 ゆっくりとドアを開けると女の子の匂いが思い切り流れ出て来た。

「ここまででいい?」

「中まで」


 彼女は部屋の中に入ってベッドに制服のまま横になった。手は繋ぎっぱなしだ。

「少しだけ一緒に居て」

「でも…」

「お願い」


 手が繋がれたまま、俺は傍に在った椅子に座った。彼女がゆっくりと目を閉じた。


 少しして眠ったのかと思い、部屋を出ようと立ち上がると、また強く握られた。そして目を開けて

「帰らないで」


 彼女は体を起こして俺の顔をジッと見ると


「東雲君が好き。君の優しさが好き。私の我儘に付き合ってくれる君が好き。私はあなたを愛している。

 …あんな事が有って君の心が傷ついたのは分かっている。でもあれから五ヶ月半が過ぎた。お願い、後は私に君の傷ついた心を癒させて」

「上条さん…」


 彼女は俺の傍に来ると俺の顔を両手で押さえてゆっくりと近づいた。でも俺はその手を両手で押さえると


「駄目です」

「何で?私はこんなに和樹の事が好きなの。あなたが欲しい物は何で捧げるわ。この心もこの体も」

「そういう事じゃない」

「じゃあ、なに?私のどこにあなたに相応しくない所があるの。教えて?」


 そう言うと今度は彼女の両腕が俺の背中をがっしりと掴んだ後、唇を塞がれた。



「ふふっ、和樹。しちゃったね」

「された」

「もう、してくれたんでしょ」

「そうだな。しちゃったな」

「もう名前呼んで」

「分かった。佐那」


 また彼女は口付けをして来た。




「もう五時だよ」

「大丈夫、家族は午後六時まで帰って来ない。でももう起きようか」

「そうしよう」


「ねえ、明日も会ってくれる?」

「いいよ」

「じゃあ、ここの駅に午前十時でいいかな」

「分かった」


 俺は、駅まで送って貰って帰った。


 上条佐那。身長は大きくないが、髪の毛が背中まであり、クリっとした大きな目が可愛いい。スタイルは高二とは思えないグラビア系という言葉が相応しい女の子。


 性格は明るくて大きな声で良く笑う。一緒に居て楽しい。


 彼女の言った通りだ、あれからもう五ヶ月半も経っている。いつまでも区切りが付かないのは良くないかも知れない。彼女と一緒にサッパリと忘れるのがいいかも知れない。


 彼女は始めてじゃなかった。中学の時、付き合っていた男の子と興味半分で一度してしまったんだと言っていた。そしてその男子は別の高校に行って、今は連絡も取っていないと言っていた。

 

 この高校に転入して来て一年。若菜の件はともかく、八頭さんの件は重かった。あまりにも賑やかな一年だった。佐那だったら大丈夫だよな。



―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

 

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