第27話 今年も賑やかな文化祭
今年も文化祭第一日目が生徒会長の放送によって始まった。俺は五列目なので五組だ。各組一時間で午前十時から午後四時まで担当する。俺の組は午後二時から午後三時まで。
俺は会計を担当する。焼きそばを作るとか盛り付けするという事が出来ないから裏方にしてくれと言ったら何故か会計だ。
担当時間までは何もする事がない。どうしようも無いので教室で本でも読んでいようと思った所に
「あっ、居た居た。東雲君」
俺は教室の後ろドアを振り返ると上条さんが立っていた。彼女は俺を見つけて入って来ると
「ねえ、私、当番午後からなんだ。だから午前中一緒に見て回れない?」
-えっ、どういう事?
-なんで2B上条さんが東雲君を誘いに来るの?
-さあ?
「うーん。構わないけど。午前中だけだよ。俺午後から当番なんだ」
「うん、いいよ」
和樹、八頭さんの事で当分女の子は近付けさせないんじゃないの?彼女がいいなら私だって。
クラスの人が一斉に俺を見ている。早く出た方が良いな。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ふふっ、駄目半分で声掛けたら簡単にOKしてくれた。これなら…。
俺は、上条さんと最初に校内の催し物を見て回ろうとしたが、上条さんが、
「体育館に行こう。演劇とから軽音やってる」
「そうか」
体育館なら履き替える必要も無い。そのまま教室から向かって体育館に行った。舞台では、ちょっと奇抜な格好をした女の子五人がベースやリード、キーボード、ドラムス、ボーカルの役割で歌っている。
「あっ、やってる。あの子達結構有名なんだよ」
「へーっ。凄く上手いよね」
「うん、路上ライブとかもやる位だもの」
「そうなんだ」
確かにその位の実力は有りそうだな。
それが終わると演劇になった。結構本格的な舞台セットだ。でも俺には何をしているか分からない。
「あれはね、ピースオブヘブンっていう創作物」
「よく知っているね」
「うん、プログラムに書いてあった」
「なんだ、上条さん、演劇や音楽に詳しいのかと思った」
「少しくらいわね」
見ているとあっという間に午前十一時半になってしまった。
「東雲君、ちょっと早いけど一緒にお昼食べれる」
「構わないよ」
せっかくだからと2Aの模擬店美味しい焼きそば屋さんに行くとそれなりに並んでいた。
「あっ、東雲。探していたんだ」
「俺を?」
「うん、また例のプラカード首から下げて回ってくれないかと思って」
「それは良いけど。俺一人?」
「それが…」
「はい、私です」
「早瀬さん?」
「うん、教室に残っている女子達であみだくじしたら私が当たった」
「東雲午後二時からだろう。悪いけど頼む」
「分かった。上条さん聞いての通りだ。お昼は今度ね」
「うん、仕方ないよ。じゃあ、またね」
「東雲、悪かったな」
「構わないよ」
ふふっ、これで和樹に一つ貸が出来た。これは使える。
俺は、早瀬さんと一緒に校舎内を一階から三階まで周り校舎の外の模擬店辺りを一周してから戻って来た。今年も随分声を掛けられた。
「回って来たぞ」
「おう、ありがとう。これ食べてくれ。早瀬さんも」
「ありがとう神林君」
「東雲君、ランチスペースで食べようか」
「いいよ」
ふふっ、とってもいいおまけが付いたな。二十分程して
「東雲君。私、午後一時からだから行くね」
「うん頑張って」
須藤さんとは随分違う性格だな。大人しくて静かな子だ。流石に焼きそばだけでは足りないので、他の模擬店でフランクフルトとうどんを買って食べたけど、何故か君一人なの?とか言われたので、いえ、連れが居ますと答えておいた。
午後二時になり俺の担当になったので2Aの模擬店、美味しい焼きそば屋さんに行って会計を交代した。各班毎にお金管理をするのでお釣り用の小銭を教えて貰って交代した。
少しもしない内に
「おい、早く焼いてくれ」
「盛り付ける入れ物が足りない」
「早く、学食の冷蔵庫から肉と野菜を持って来てくれ」
気が付くと二十人以上列が出来ている。クラスの男子が最後尾はここですとか書いた例の団扇見たいのを持って立っている。
女の子は会計する時必ず俺の手を両手で掴んで
「ありがとうございます♡」
なんて言って来る。凄い勢いで売れて行く。神林が
「この班で終わりだ。次の班は悪いが明日の仕入れの手伝いと仕込みを頼む」
なんと今日用意した具材が底をついたらしい。でも焼きそばを作っている男子と盛り付けている女子は既に次の班の子と交代していた。俺は交代しないのか?
須藤さんが俺を見て
「流石ね、東雲君」
なんて言っているけど俺に関係あるのか。皆お腹空いたからじゃないか。
無事に一日目が終わり、全員が教室に集まると神林が
「体制を少し変更する。五班と六班は合同で交代で作業してくれ。東雲、悪いが明日も午前十一時半から例のプラカードを首に下げて校内を回ってくれ」
「俺だけ?」
「今度は私よ」
声を掛けて来たのはなんと小岩井さんだ。
「良いのか神林」
「ああ、全然問題ない。花蓮は可愛いからお前と同様で売上に十分貢献してくれるよ」
神林はいいなぁ、こんなに良い彼女持って。
「東雲君、流石に佳織と替わる訳にはいかないからね」
「あははっ、何を言っているのかな」
-東雲君の今の反応どう考えればいいの?
-これは早々に何かが起こりそう。
-そだね。
そして二日目、今日は生徒の関係者も入ってくる日だ。午前十時の生徒会長の開始の放送で校門から一般の人が入って来た。
俺は、午前十一時半まで教室で本を読もうとしていると
「和樹」
顔を上げなくても誰が声を掛けたかなんて分かっている。
「なに?」
「私と一緒に見に行かない」
「断る。俺は本を読みたいんだ」
「和樹、お願い」
「断ると言った」
「和樹、接点を持ちたい」
「っ!…」
あの時の自分の言葉が何故か蘇った。
『分かった。何か接点が見つかれば話してもいいよ』
「接点か。分かった。午前十一時半からプラカードを掛けて校内を回らないといけないから一時間だけだぞ」
「うん」
二人が教室を出て行くと
-あそこまで行くと執念だね。
-でも東雲君良く許したよね。
-うん、やっぱり幼馴染は違うのかなぁ。
-分からない。
「何処見て回る?」
「校舎内を見たいけど、時間少ないから体育館でいい」
「分かった」
昨日午前中も上条さんと体育館で見たけど、今日の午前中は昨日の演目と違っていた。ブラスバンドと合唱だ。凄いな。
曲は有名な新世界だ。壮大で凄い。チラッと若菜を見ると何故か俺の顔を見ている。そして
「和樹、この曲終わったら少し歩こう」
「いいけど」
俺達はブラスバンドの演奏を聞き終わると模擬店の周りを何気なく回った。
「和樹」
「なに?」
「これだけでも幸せ。本当はもっと居たいけど。約束だものね」
「……………」
今更だよ。若菜には悪いけど俺の心は全く彼女の方を見ていいない。
「時間だ。戻るぞ」
「うん」
俺は若菜と別れて模擬店に行くと神林と小岩井さんが待っていた。
「東雲。花蓮。頼む」
「任せて武夫」
校舎内を歩きながら
「神林と小岩井さんの関係って羨ましいです」
「なんで」
「圧倒的な信頼感を感じる」
「佳織なら大丈夫よ。あなたを裏切ることは絶対にしないし、あなたを大切にするわ。それは小さい頃から一緒だったから分かる」
「そうなんですか」
そんな事を話しながら一階から三階まで回っていると。今年も
「君、担当は何時」
「君、担当何処なの」
とか聞かれた。去年と同じだ。
校内を回って校舎の周りを歩いていると外部の人からも結構声を掛けられた。お陰で神林達の所に戻るのが午後一時近くなってしまった。
「武夫、回って来たよ」
「お疲れ、二人共。三人で焼きそば食べるか」
「いや、俺はお邪魔虫になりたくないから」
「気にするな。なあ、花蓮」
「うん、全然」
「じゃあ、申し訳ないけど」
俺は、流石に焼きそばだけでは足らず、他の模擬店から昨日と同じ様にフランクフルトとうどんも買って食べた。
そして午後二時少し前に行くともう二十人位待っている。
-あっ、来た来た。
-彼ね。
-確かに綺麗だわ。
並んでいる人の声を無視してまた会計の所に行って昨日と同じ様にお釣り用に渡された小銭を数えると交代した。そして少しすると
「おい、具材もっと早く」
「盛り付けの入れ物やっぱり足りない」
「学食の冷蔵庫から早く具材持って来てくれ。もう全部でいい」
「焼きは二人体制にするぞ」
「盛り付けもだ」
何で俺の会計だけ二人にならない?
昨日と同じ様に会計をする時、女の子や女性の方が両手で俺の手を包んで来る。どういうつもりだ。
結局、一時間もしない内に完売した。買えなかった人達が残念そうに帰って行く。仕方ないよ。でもうちの焼きそばってそんなに美味いかな。まあ美味かったけど。
生徒会長の終了の放送と共に無事に文化祭二日目も終了し全員が教室に戻った。片付けは明日だ。
神林が生徒会に売上報告に行って来ると言って教室を出て行った。俺は去年の事も有るのでもう教室を出ようとすると、
えっ!何故か、教室の前と後ろのドアの前には男子と女子がバリケードを張っていた。
「ふふっ、東雲くーん。帰ろうなんて考えてないよね」
「そうだぞ。東雲。今年も楽しい打ち上げが待っている」
「上級生のお姉様達もね」
神林が帰って来て今年の売上一位だったそうだ。スーパーの息子も予定以上の売上で喜んでいた。
だけど、俺は…。去年と同じカラオケ店に連れて行かれ入口で盛大な歓迎を受けて…。
俺は打ち上げが終わった後、体がくたくたになって家に帰った。もう絶対に文化祭の打上は行かないから。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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