第25話 二学期が始まった


 浅井さんとの映画と食事は、とても静かに過ごした。上条さんの様な事は一切なく、映画は日本映画のラブストーリー、手を強引に触って来る事も無く、昼食は近くのお蕎麦屋さんで食べた。


 ただ、ここで見た浅井さんは、プールや思井沢の時の様な開放的な雰囲気はなく、極めて清楚な女性という印象だった。だから俺はとても好感を持てた。

 

 駅で別れる時、

「今日はとても楽しかったです。もし、東雲君が嫌では無かったら、また会って頂きたいのですが?」

「…ええ、きっかけが有れば」

「そうですね。きっかけですね。…ではまた学校で」

「はい」



 今日、私は東雲君にもう一つの姿。そうプールや思井沢で見せた活発な私ではなく、静かで大人しい姿を見せた。これで私の両面を見せる事が出来た。


 今日の事で東雲君は私の印象が変わった筈。彼ははっきりとした性格だけど優しい面もいっぱい持っている。本来なら文句なくOKの言葉を貰えたはず。でも彼はそれを拒否した。


 彼の心の中では過去の出来事が未だ大きく帳を降ろして外部からの侵入を拒んでいるのかも知れない。それに陽の光を当てられるのは私だけ。




 残りの数日は、朝は学校に行く時間に起きて本を読んだり散歩したりして、夜も次の日を意識した眠りについた。


 夏休みに有った色々な事が頭の中で整理されていい。上条さん、浅井さん共色々有ったけど、二学期からはリセットだ。新しい気持ちで行きたい。



 九月に入り始業式の日になった。俺は一人で登校し、教室に入ると左右に座っている須藤さんと早瀬さんに朝の挨拶をした。でも二人共良く焼けている。


「おはよう、須藤さん、早瀬さん」

「「おはよう東雲君」」


「東雲君、おはよう」

 忘れていたもう一人加藤さんに声を掛けられて挨拶すると


「東雲君、爽やかに焼けているね」

「焼けています?」

 焼けた痕は無い筈なのだが?


「物理的な事ではないよ。君の心だよ。私もその中に入りたかったな」


 この人、俺の心の中に勝手に入って来る能力でも持っているのか?


「そんなに怪訝な顔しないで。東雲君が何もしないで夏休み過ごしたとは思えないからジョークを掛けただけだから。でもその様子では結構賑やかだったのかな?」

「あははっ、そんな事無いよ」


 この子、人の心を弄ぶように心の中に勝手に入ってくる。気を付けないと。



 やがて担任の琴吹先生が入って来て始業式を体育館でやるからと皆に伝えた。ガタガタと廊下に出て行く時神林が寄って来て


「東雲、あの後、浅井さんとは進展有ったか?」

「そうだな。意外な所で会ったりして、まあまあだったよ」

「そうか、それは良かった」


 それだけ手短に言うと廊下に出た。彼なりに何か期待しているのか?




 校長先生の有難いお話の後、色々な連絡事項が有って、教室に戻ると直ぐに琴吹先生が教室に入って来た。白色のブラウスと薄い茶系のタイトなスカートが良く似合っている。


「皆さん、来年に向けてそろそろ進学の事も考える時期です。しっかりと先を見据えて勉強に励んで下さい」


 流石、進学校菅原学院高校の先生だ。夏休みで緩んだ気をしっかりと締めようという思いが伝わる。


「しかし後二週間で文化祭があります。来年は受験に向けて文化祭を楽しむ気持ちの余裕は無いでしょう。

 ですから今年は思い切り悔いの無い菅原学院高校の文化祭を楽しんでください。明日の午後のLHRは文化祭の時間とします」


 それを聞いた時、去年のカラオケ店の事を思い出した。文化祭は楽しかったが、打ち上げは思い出すのも辛い。今年は欠席しようかな。


 でも先生が、文化祭の事を口にしたとたん、何故か、クラスの人が全員俺の顔を見た。何か有ったっけ?




 私、上条佐那。夏休み、東雲君いえ和樹と一緒にプールに行って思い切り私をアピールした。

 

 そしてその後も渋山でデートして素敵な一日を過ごした。彼とはクラスは違うけど、図書室で会える。


 今年後半は一生懸命勉強して三年には彼と同じクラスになるんだ。でも彼、理系かな文系かな。そんな事はいずれ簡単に分かるはず。だって二学期は彼と…うふふの関係になっているんだから。



 私、浅井佳織。二学期が始まった。私は2B。実力的には2Aに居てもいいのだけど、一年の学年末考査を病気で受けれなかった。


 本来二年への進級は難しい所だけど二学期迄の成績と三学期の出席日数に欠席が無い事を考慮されて進級する事が出来た。但し2Bという私には屈辱的なクラスで。


 でも仕方ない。来年は東雲君と同じクラスに行って同じ大学に行けばいい。彼が理系か文系のいずれを選択するかは、これから私と彼の関係の中で充分に知る時間が有るはず。


 でも彼のお父様は優秀な科学者そしてお母様はあの有名は北川塔子さん。そして彼はUSのミドルスクールで三年間学び、今は学年一位の成績だ。


 お父様も十分に私の相手として相応しいと思っている。後は、私が彼の心にしっかりと入り込むだけ。


 彼はまだ誰も受け付けていない筈。今がチャンスだ。でも急いではいけない。ゆっくりと寄り添う様に彼の心に近付かないと。



「ハックション!」

「東雲君、始業式の日に風邪?」

「いや、そんな事は無いよ」


 今俺の背筋冷たい風が通って行ったような?今日は帰って早く寝るか。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

 

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