第24話 浅井佳織さんとお散歩


 結局昨日は浅井さんとお店を見たりお茶を飲んだりしてしっかり二時間潰す事が出来た。ホテルのロビー迄帰った時、


「東雲君、明日から何か用事入っているの?」

「今回は特に予定入れないで来たから」

「ほんと!実言うとうちもなんだ。ここ毎年来ていて色々な所行っているから今年は各自自由行動って事になっているの。

 ねえ、私がこの辺案内してあげるから一緒に遊ぼうよ」

「でも両親に聞かないと」

「じゃあ、聞いた後、スマホで連絡して」

「俺、浅井さんの連絡先知らない」

「じゃあ、スマホ出して」


 何故か俺は素直にスマホを出すとあっという間に連絡先を交換された。


「ふふっ、これでいつでも東雲君と連絡取れるね。じゃあ連絡待っている」



 俺は、部屋に戻ると何処に行ったのか、両親はまだ帰っていなかった。窓際の椅子で買って来たペーパーバックを開いていると少しして両親が戻って来た。


 俺は、浅井さんの事を言うと、

「それなら明日はお母さんとゴルフをするから一日出て来て良いぞ」


 なるほど、それも有りか。

「分かった。直ぐに連絡する」


 さっき教えて貰ったばかりの彼女のスマホに掛けると


「ほんと!じゃあ、明日ロビーに午前九時で良いかな」

「いいよ、じゃあロビーで」


 嬉しい。なんて幸運なの。明日は一日中東雲君と居れるなんて。取敢えず自転車借りて。そうだ二人乗り自転車がいいや。明日楽しみだなぁ。



 次の日は、両親は午前八時半頃に部屋を出て行った。東京に居るのと違い、ゴルフ場まで送迎バスで十分だそうだ。やっぱり観光地は違う。


 そして俺は、…何故か二人乗り自転車で浅井さんと近くの観光地まで走ったり、思井沢湖の湖畔のレストランで素敵なランチをしたりして遊んだ。


 ふふっ、東雲君が前でペダルを漕いでいる。最初は、何も感じなかったけど走っている内に彼の汗というか彼の匂いというか、プールのウォータースライダーで彼の背中に思い切り顔をくっ付けた時の香りがする。


 この香り、誰にも渡したくない。私だけのものにしたい。もっともっと漕いで東雲君、いえ和樹。頑張って。


 なんか、浅井さん漕いでいる気しないんだけど気の所為かな?


 途中の休憩所で自転車から降りて美しい景色を見ながら休んでいると

「ねえ、東雲君。もう友達って思ってもいいかな?」

「うん、全然いいけど」

「じゃあ、東京に戻っても二人で会える?」

「それはまた別の話の様な」


 彼はまだ如月さんと八頭さんの事で精神的に立ち直っていないんだ。ここは急ぐ理由も無いか。


「分かった。じゃあ、少しずつ…東雲君の心に私が慣れるまで急がないでいるね」

「良く分からないけど、そう言ってくれると嬉しい」


 こうして二人会っているけど、これはあくまで偶然の賜物。東京に帰れば環境も変わる。ここに居る様なこんな気持ちでこの人と会える訳がない。



「でもここで二人で居れるのは嬉しいな」

「うん、そうだね。ここは初めて来たのでとても助かったよ。浅井さんが居なければ今頃ラウンジで一人でペーパーバック読んでいた所だから」

「ペーパーバック?」

「うん、日本でいう単行本の事」

「そうか、東雲君、向こうに三年も居たんだものね。いいなぁ、英語が身に付いていて」

「まあ、親の仕事が理由だからね」


 ホテルに戻ったのは午後四時近かった。両親はもう部屋に戻っていた。翌日は家族で車を利用して高原に行った。やっぱり家族だけというのも楽しい。



 翌日は午前十一時レイトチェックアウトでロビーにいると浅井さん達もやって来た。

「東雲君、じゃあ学校で」

「うん、また」


 それだけ言うとホテルの玄関先に止まっている車に乗り込んだ。あの車、女神様がお辞儀している。あの人結構なお嬢様なのかな?




 高速道路に乗って段々景色が都会に近付くと頭の中が現実に引き戻された。後、五日もすれば学校だ。長い様で短かったな。



 家でのんびりしているとスマホが震えた。誰だ?画面を見ると浅井さんだ。何だろう?

『もしもし、東雲です』

『浅井です。東雲君、思井沢ではあんな事言ってしまったけど…』

『あんな事?』

『うん、東京に戻ったら二人で会うのはまだ先だよねって話』

『ああ、その事か』

『それでね。…お願い。明日どうしても見たい映画があるんだけど友達が皆宿題で都合つかないの。だから一緒に行ってくれないかな?』


 どこかで聞いたフレーズだが?どうしようかな。もう二学期迄は誰とも会わずにのんびりしていようと思ったんだけど。


 それに二人で会うのはちょっと精神的に抵抗がある。上条さんの時は約束させられて仕方なかったけど。この人とはそんな仲でも無いし。


『黙っているって事は、駄目なんだよね』

 とても寂しそうな声を出している。でもなぁ。これで流されても…。


『分かった。無理言ってごめんね。切るね』

『待って』

『えっ?』

『映画だけだよね?』

『それが映画がお昼跨ぐので昼食も一緒だと嬉しい』

 やっぱり。でも思井沢の借りもあるし。


『分かった。思井沢で案内してくれた借りもあるから。映画と昼食だけだよ。絶対に。それと今回だけだよ』

『うん♡』

 うん?何か見えた様な?



 結局、OKしてしまった。でも今回だけだって念を押したからこの子なら大丈夫だろう。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

 

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