第23話 偶然とはあるもの
家族旅行以外何も無いと思っていた夏休みも上条さんとプールに行き神林達とプールに行き、そして上条さんと会ってと俺にとっては十分充実した日が続いた。
その後は、読書感想分の事も有るので自分の部屋で本を読み、感想文を書き終えた。明日から思井沢に家族旅行だ。
向こうでは毎日お母さんは家に居たし、お父さんも午後七時には帰って来ていたけど、帰国してからは、お母さんは芸能界に復帰して家に居る事が毎日では無くなったし、出かける時間も帰ってくる時間も日によって違う。
お父さんが帰宅するのは毎日午後八時を過ぎる事が多い。それだけに明日の旅行は楽しみだ。
翌日、午前七時にお父さんの運転する車で家を出た。家から一般道を四十分走りそれから高速道路に乗る。
少し走ると定速走行に入った。
「こうして家族で出かけるのは久しぶりだな」
「うん、帰国してから全然出かけなかったもの」
「皆でのんびりしましょうね」
高速道路に入ってから久しぶりの家族の団欒タイムとなった。
途中、SAに寄って三十分位休憩。お母さんが降りると周りにいた人が一斉に驚いた顔をしていたけど、変に話しかけてくる人はいなかった。
それから少しして別の高速道路に入って思井沢ICを降りて十分程でホテルに着いた。
皆が降りて荷物をベルボーイに預けると、お父さんは自分で車を駐車場に持って行った。
お父さんがロビーに帰って来てからフロントでチェックイン手続き。このホテルはこの辺では有名なホテルらしい。
私、浅井佳織。家族で今日から三泊四日の旅行。毎年泊まる思井沢のホテルのロビーにいた。
あれっ?あれは確か。私はその人に近付くと間違いがなかった。
「東雲君」
この辺で知り合いはいない筈だけど思いつつ声の方を振り返るとそこには腰まで有る輝くほどの黒髪と大きな切れ長の目をした綺麗な女の子が立っていた。
「えっ、浅井さん」
「東雲君もここに泊まるの?」
「うん、今日から三泊」
「えっ!私もそうよ」
「和樹どなた?」
「あっ、お母さん、この人は同じ学校の同学年の浅井佳織さん」
「初めまして、浅井佳織と申します」
「初めまして、和樹の母です。息子がお世話になっています」
私は、挨拶された女性の容姿に驚いて、彼の袖を引っ張ると彼の耳に小声で
「ねえ、東雲君のお母さんって女優の北川塔子さんに似ているんだけど?」
「あっ、ごめん言って無かったね。うん、その通りだよ」
「えっ?!そうなの?」
東雲君の顔はお母さん似なんだ。しかし東雲君のお母さんがあの女優の北川塔子とは。これはまた…。
そんな話をしているとお父さんが、戻って来た。
「手続きが終わったぞ。その子は?」
「俺の学校の同学年の浅井佳織さん」
「初めまして。浅井佳織と申します」
「こちらこそ、和樹の父親です」
挨拶をしていると若い男の人が近付いて来た。
「佳織。手続き終わったから部屋にいくぞ」
「じゃあ、また後で」
浅井さんも家族で来ているらしい。両親とお兄さんのようだ。
「和樹、とても綺麗な子ね」
「うん、この前一緒にプールに行った子」
「えっ、そうなの?」
はぁ、しかし浅井さんとここで会うとは。家族の事もしっかりと知られたし。もし後で会ったら一言お願いしておくか。
「なあ、佳織。さっき話していた男の子って誰だ?」
「ああ、同じ学校の同学年の子で東雲和樹って名前」
「凄い美男子だな。それと傍に居た人って」
「うん、女優の北川塔子さん。彼のお母さんよ」
「すげぇ。お前凄い友達持っているな」
「まだ、友達と言えるかな。顔見知りではあるけど」
「じゃあ、早く友達になれ。俺、会いに行けるかも」
「お兄ちゃん。何言っているのよ。そんな事出来る訳ないでしょう」
「えーっ、チャンス無いかな?」
「無い!」
全く、そんな気持ちで彼に近付いたらせっかくのチャンスが無くなってしまう。
このホテルは緩くカーブした様な作りで三階建てだ。俺達の部屋は三階にある四人部屋だ。窓の外に大きな池と緑の林が見える。
「さて、少し休んだら、レストランで昼食を摂るか。その時、午後から何するか考えよう」
「うん、それがいいね。予定きっちりより全然いいや」
二人の時間も取って貰わないとね。
お昼は、カフェラウンジでゆっくりと食べた。俺はその後、
「俺、のんびり散歩して来るから」
「そうか。お母さん、偶には昼から温泉でも入るか。家族風呂が予約できると聞いている」
「あなた、良いわね」
「じゃあ、俺ブラっと出て来るよ。二時間位したら戻るから」
「分かった」
とは言っても初めての所。仕方なくスマホのGマップで調べると駅まで五分、その周りには色々なお店があるようだ。行ってみるか。
ホテルから真直ぐの道路を歩けば直ぐに駅に着いたのだが、なんだこれ?東京の裏参道にある竹上通りと同じじゃないか。なんだこの人混みは。
日本人より外国人の方が多い。これじゃあ、ホテルのラウンジで紅茶でも飲んでいた方が良いよな。本持って来れば良かった。
そうは言ってもせっかく来たからと歩いていると何故か洋書屋さんが在った。何故ここに洋書屋さんが在るのか理由は分からないが俺には助かる。
お店の中に入ると結構な量の本が置いてあった。ペーパーバックを一冊と雑誌を一冊買ってホテルに戻る事にした。
のんびり歩いていると前から浅井さんとお兄さんだろう人が歩いて来る。まあ近くで同じホテルに泊まっているんだから会うのは当たり前か。
無言ですれ違うのは失礼だと思い、頭だけコクンと頷いて通り過ぎようとした時、
ガシッ!
何故か浅井さんに腕を摑まれた。
「東雲君、声も掛けてくれないの?」
「いや、せっかくの兄妹の散歩を邪魔しては悪いと思って」
「そんなことないよ。ねぇお兄ちゃん」
お兄ちゃんって言うんだ。イメージ違うな。
「まあ、そうだな。俺一人でぶらつくから二人で楽しんだら。じゃあな」
「えっ、いや俺は…」
「何か不都合でもあるの?」
「無いですけど」
そして俺は片手にさっき買ったペーパーバックと雑誌を持ちながら浅井さんと散歩する事になってしまった。運が良いのか悪いのか?
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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