第22話 上条さんと会う
俺は、神林達とのプールから帰った日、夕食の時にお母さんが
「和樹、随分日焼けしたわね」
「うん、三日の日と今日、プールに行って来たから」
「あら、二回も行ってたの?」
「うん、ちょっと事情で」
「そう、日焼けの後はお風呂上りにローションを塗っておきなさい。お母さんの使って構わないから」
「えっ、僕には勿体ないよ」
「何を言っているの。日焼け後はきちんと手入れしないと肌が荒れるわよ」
「分かった。そうしておく」
お母さんのローションって、とんでもなく高いよな。使って良いのかなぁ。
その日から三日位、お母さんのローションをお風呂上りに塗ったおかげで、日焼けは静かに消えて行った。流石だ。
プール後は毎日読書感想文用の本を読んでいる。何冊か読んで一番気に入った感想が書けそうな奴にしようと思っている。
そんな事を自分の部屋でしているとスマホが震えた。画面を見ると上条さんだ。何だろう?
「もしもし、和樹?」
「はい、東雲です」
「ねえ、明日か明後日映画見に行きたいから付き合って」
「今、読書感想文用の本を読んでいるのでちょっと」
「えーっ、良いじゃない。まだ夏休みは二十日以上あるよ。ねっ、行こうよ。プールの後、もう一度会ってくれるって約束したじゃない」
確かに約束していたな。
「分かりました。明日でも良いですけど」
「じゃあ、私の家の最寄り駅で待ち合わせしようか?」
「それは良いですけど、何処の映画館に行くんですか?」
「渋山」
「分かりました。何時に行けばいいですか?」
「じゃあ、駅に午前九時でいいかな。そうすれば午前十時からの映画見れるから」
「分かりました」
積極的というか、強引というか。いい子ではあるんだけど。あれ、俺の事名前呼びしていたな。なんでだ?
翌日、俺は約束通り午前九時少し前に彼女の家の最寄り駅の渋山方向のホームで待っていると彼女が現れた。
可愛いピンクの短パンに白のTシャツ。オレンジ色のかかと付サンダルに可愛いモスグリーン色のバッグを持っている。胸が結構強調されているな。
「和樹、待ったぁ?」
「待っては無いですけど、何で名前呼びなの?」
「えっ、プールの時、名前呼びして良いって言ったじゃない」
「あれは、プールの時だけでしょう」
「そんな事言っていた?でも良いじゃない。今日も二人だけなんだから」
この子に口では敵わないから言い合うのは止めておくか。別に二人だけなら名前呼びでも誤解されないし。
ここの駅から渋山まで五つ、改札を出て信号渡って少しだけ回廊坂を上ると左手にある。随分人が居る。
「見るのは決めているんだ。あれ」
彼女が選んだのは、外国の有名な俳優が結構危険なスパイ役をするというシリーズものだ。向こうでもこのシリーズを何回か見た事がある。
「いいね。チケット買おうか」
「大丈夫、ネット購入しているから。発券だけ」
「えっ?チケット代は」
「後でお昼とお茶をご馳走して」
彼女の頭の中は、どうも俺と今日一日居る気のようだ。まだ時間有ったけど、上映階にエレベータで上がって、新しく上映予定の映画のプログラムとか見て時間を潰した。
「ねえ、次これ見に来ようよ」
「ちょっと約束は…」
「いいじゃない。ねっ!」
ここまで積極的というか我儘だともう相手する気にならない。今断っても無駄だし。
上映時間間近になって中に入った。結構迫力がある。彼女はいつの間にか俺の手を握っている。外そうとしてもしっかりと握られて外れない。全く!
一時間半の上映が終わり外に出ると
「結構迫力あったね。あれスタントマン使っていないっていうし、凄いよね」
俺はそれより、崖の下に何台バイクを落としたのか気になったけど。
「ねえ、少し早いけどお昼にしよう。この時間なら並ばないで済むし」
「そうだな。何処にする」
「この上に、人気の中華屋があるの。そこの冷やし中華とても美味しいんだ」
「ふーん、行った事有るの?」
「うん、友達とね」
彼女に言われて、回廊坂を更に上って行くと左側に在った。まだ午後十一時四十分だというのに五人位並んでいる。
「もう並んでいる。ねっ、言ったでしょ。いつもはもっと並んでいるんだよ」
「へーっ、それは楽しみだな」
回転が速いのか十五分位で中に入れた。一杯だ。俺と上条さんは、彼女が言っていた冷やし中華を頼むと十五分位で出て来た。
「どぉ?見た目も綺麗いでしょう。ザ・冷やし中華って感じ」
確かに盛り付けが華やかだ。麺を一口食べて咀嚼すると麺そのものの味と汁の味が相まって結構美味しい。
「うん、確かに上条さんの言った通りだ。美味しい」
「でしょ、でしょ」
二人で、ゆっくりと食べた後、外に出た。
「ねえ、少し散歩しよう」
「それは、構わないけど結構日差しが強いよ」
「いいよ。しっかり日焼け止めとかしているし。これでもお肌のメンテはしっかりとしているんだから」
確かに日焼け後とか全くない。回廊坂を右に横切る様に歩いたのだけど、彼女意図的なのか、結構不味い所も歩かされた。偶に腕がぶつかったりしてくる。意図的なのかな。
ふふっ、ラブホ街。今はとても綺麗だけど、そういう場所で有る事には変わりない。いずれ、和樹とお世話になるんだ。だから彼に覚えておいて貰わないと。
テレビ局の通り迄出て更に裏参道方向に歩いて行く。結構な距離だ。なるべく日陰を歩く様にしているけど今の時間日差しは真上からだ。
「和樹、そろそろ喫茶店に入ろうか。素敵なお店知っているんだ」
「いいよ」
彼女はこの辺は良く知っている様だ。俺は全然分からない。小学生の時なんてこんな所には来なかったからな。
上条さんに連れて入ったのはドアを開けると鐘の音が鳴る落ち着きのある喫茶店だ。中に入るととてもお洒落だ。
「いらっしゃい。お好きな所にどうぞ」
店員さんか店長さんか分からないけどカウンタの中に入っている初老の男の人に声を掛けられた。
「良いでしょう。このお店。和樹と入ってみたかったんだ」
「うん、中々落ち着きがってとってもいいね」
注文は二人共アイスミルクティ。とっても美味しい。
「ねえ、和樹」
「うん?」
「和樹、今彼女いないでしょ。…勿論、今迄の事はよく知っているし、そんな気は当分起きないと思うけど。…出来れば和樹とお友達からでいいから。…駄目かな?」
「……………」
今はとてもそんな気分になれない。如月さんの事はともかく八頭さんの事は、ダメージが大きすぎた。
神林達のお陰で何とか立ち直れたけど、もうああいう目に合うのは避けたい。だから深い関係にはなりたくない。
「上条さん、気持ちは嬉しいけど。今は厳しい。今日はこうして会ったけど。今度会うのは二学期からにしよう。夏休みはもう一人で居たいんだ」
「…そうだよね。ごめんね無理言って。でも二学期になったらまた話しかけていい。会ってくれる?」
「それは…、今は分からないから返事のしようがない。後、学校では名前呼びは止めて」
「うん、それは守る」
映画の話とは別にそんな話もしたけど、流石にこれ以上この話はしたくなかったので
「そろそろ帰ろうか」
今日はここまでか。
「うん、そうしようか」
彼女が電車を降りる前
「東雲君、今日はとても楽しかった。ありがとう」
とても素敵な明るい笑顔で俺にそう言ってくれた。
悪い子じゃないけど、振り回されそうだし。ちょっと付き合うのは厳しいかな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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